52歳の転機 西穂〜焼岳(ジャンダルムからの方向転換)
kumahige
- GPS
- 29:43
- 距離
- 17.1km
- 登り
- 1,960m
- 下り
- 1,958m
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標高グラフを拡大コースタイム
- 山行
- 3:09
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 3:09
- 山行
- 10:50
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 10:50
長野6:15＝8:00沢渡大橋8:15＝8:44上高地BT9:17ー9:35西穂登山口ー12:14焼岳分岐ー12:26西穂山荘
8月4日(火) 起床3:10
西穂山荘3:55ー5:00西穂独標ー5:20ピラミッドピークー6:00西穂高岳6:37ー8:06西穂山荘ー8:26焼岳分岐ー8:34西穂池ー9:16割谷山ー10:41焼岳小屋11:00ー12:23焼岳12:36ー14:30中ノ湯登山口ー14:45中ノ湯温泉＝15:20沢渡大橋15:30＝17:10長野
| 天候 | バッチシの快晴 |
|---|---|
| 過去天気図（気象庁） | 2015年08月の天気図 |
| アクセス |
利用交通機関：
バス 自家用車
|
| コース状況／ 危険箇所等 |
割谷山を巻くルート 笹が生い茂って歩きづらいので、注意が必要かと思われます。 |
| その他周辺情報 | 上高地バスターミナルでの山岳保険の加入方法が変わっていました。インフォメーションセンター脇の自動販売機で購入(一人500円)し、登山計画書に添付して終了です。 |
写真
拍手このときは、ジャンダルムに立っている自分をイメージしていました
方向転換を決め、すっきりした気分のベストショット
9月の連休は、笠ヶ岳を縦走します
感想
ジャンダルムをめざして山に出かけた。どんな言い訳も通じないような日和りではあるが、本当にやりたい山を見つけることができ、自分にとっては転機となる山行であった。
残していた(？) 残ってしまっていた(？)槍穂高を中心に、4年前から本格的に登山を再開した。槍ヶ岳・大キレット・横尾本谷右俣(黄金平)と段階的にレベルアップを図り、最終目標として当然のごとくジャンダルムを目指した。ザイルを使わない一般ルートの中では、最高レベルの山だと思っている。自分で認識している年齢による衰えに逆らってトレーニングを積んだり、安全に備えた装備を補充したりして、技量として充分に挑戦できると判断したジャンダルム。しかし唯一… 一緒に登る相棒は見つけられず… 単独行にならざるを得なかった。
格好良く言えば、今山行の準備〜歩き始め(1日目)で「頭と心のズレ」を認識し、方向転換(2日目)で「心に素直に寄り添った山行」を実感できたことが、今山行の一番の成果だった。それが、「転機の山行」なのかなぁ。だけど、ジャンダルムをあきらめたり封印したわけではなく、全てが噛み合ったときにリ・トライするつもり。
な〜んていいながら… ずっと滑落を意識しながら岩稜を昇降するより、ハァハァ言いつつ身体に鞭打って山稜を歩く方が楽しいことに気づいただけかもしれない。
去年とは違い今年の夏は暑く、山の天候も安定していた。体調も良かったのでワクワクするかと思っていたが、何となく気分が乗らない。装備も準備できているが、ザックが決まらない。直前でザックを交換した。後日談ではあるが、この交換でグローブを移し忘れてしまった。
8月3日(月) 自宅を出発して沢渡大橋に駐車し、タイミング良く到着したバスで上高地に向かう。雲一つ無い快晴で、めざすジャンダルムもよ〜く見える。西穂登山口は帝国ホテルで降りるのだが、山岳保険のために終点の上高地バスターミナルまで行く。加入方法が以前とは違っていたために手こずった。
9時17分に出発し、9時35分に西穂登山口を通過した。久しぶりの山行なのでハイペースにならないようにセーブしながら、さわやかな風が吹き抜ける樹林帯を順調に高度を稼ぐ。
10時58分、1900m付近で稜線が樹林の隙間から見えたとき、やっぱりワクワクしていない自分に気づく。単独行では一人問答をする癖があり今回も始めている。「Q：調子が悪いのか？」「A：そんなことはない」、「Q：なにかあるのか？」「A：分からない」と、自分とおかしな問答が続いた。
そして、「Q：ジャンダルムに行きたい？」と自分に問うと… 答えが出てこなかった。今山行に至る経緯やこれまでの実績などを並べ、日和ろうとしているのかもしれない自分を応援するが、いい返事がない。「Q：じゃぁ、ジャンダルムをやめるか？」と提案したら… すごく楽になった。こんなことは初めてだった。「そうか、俺はジャンダルムに行きたくなかったのかぁ。」と大きな声が出てしまった。どんな言い訳も通じないような日和りではあるが、「行くと決めた頭」と「行きたくない心」のズレとしか言いようのない不思議な確認だった。その後は「今、決定しなくてもいい。明日、西穂で判断しよ。」と問答は続いたが、ほとんど決めていたと思う。事実、地図とコースタームを思い浮かべ、頭では西穂ピストン〜焼岳〜中ノ湯下山のルートを仮想縦走していた。
12時26分、コースタイム通りに西穂山荘に到着し、ビールを一気に飲み干した。夕食までヒマなので、テラスでアルコールを摂取しながら、ジャンダルムを越えてきたであろう登山者の満足げな様子を見続けた。正直うらやましい気持ちはあるが、「おめでとう」という気持ちのほうが大きい。そして、「やっぱり行きたい」という気持ちは出てこなかった。
日が沈む頃には雲に覆われ、西穂山荘には冷気が漂った。長袖だけでは寒い。これは下界では味わえない最高の贅沢である。そんな幸せを味わいながら1日を終えた。
8月4日(火) 午前3時10分、起床。全ての準備を終え、3時45分に西穂山荘のテラスに立つ。東の空にオリオン座が上っていた。3時55分、西穂山荘を出発し、ヘッドライトに照らされた登山道を進む。ゆっくり歩いているつもりだが、なかなかいいペース。5時00分、西穂独標(2701m)を通過。すでにライトは必要ないほど明るくなり、ルートが見えた。ザイルをつないぐパーティーを追い抜くと共に、自分でもヘルメットを着用する。5時20分、ピラミッドピークで稜線越しの日の出を迎えた。
6時00分、2909mの西穂高岳に到着した。槍ヶ岳から笠ヶ岳、遠くに白山、赤茶けた焼岳と乗鞍岳、その先に御嶽山がはっきり見える。梓川の流れと霞沢岳が美しい。全て眼下にあるが、間ノ岳・天狗ノ頭・畳岩尾根ノ頭だけが高い視線の位置に逆光で黒く見える。その先にジャンダルムがあるはず。決して行けないルートには思えないが、行こうとは思わない。むしろ焼岳に惹かれていることを実感する。
ゆっくり朝食を取って、6時37分に下山を始めた。丁寧に歩くことを心がけながら、ピラミッドピークや独標で西穂高岳やジャンダルム方面を振り返りつつ… ガンガン高度を下げる。登りでは気づかなかった丸山(2452m)にも寄ることができた。快調 快調。8時06分、西穂山荘に戻った。
西穂山荘は森林限界ギリギリにあり、当然のごとくこれからは樹林帯の登山道になる。「蒸し蒸し」「虫虫」どちらのムシムシもちょっと苦手で、多少気にはなる。8時34分にきぬがさの池(旧称：西穂池）を通過し、9時46分に割谷山を越えた。ここからはササが生い茂り、ちょっといやらしい道が続く。足下が不安定で、ときに獣臭らしきものを感じ、クマ鈴を用意しなかったことを後悔する。
小さなアップダウンを繰り返す中で疲労を感じ、最悪のピンチを迎えた。本物の「日和り虫」が湧いてきたのだ。ジャンダルムの日和りとは全く違い、自分の弱さから生まれる最大の敵である。一気に下り始めた焼岳小屋間近では、日和り虫にほとんど負けていたような気がする。10時41分、眼前にひょっこり焼岳小屋が現れた。小屋番の若者に「焼岳まで2時間かかりますよね？」と尋ねると、「イエイエ、1時間10分ですよ。」の回答。この一言で、なんとか日和り虫を退治することができた。感謝あるのみ。
11時00分、焼岳小屋を出発して数分後には樹林帯を抜けて中尾峠に到着した。そこは… 「青空」「太陽」「展望」「稜線を吹き抜ける風」etc. 全てが心地よい。初めてのルンルン気分。これぞ夏山。自分が求めていた夏山をはっきり実感した。カ・イ・カ・ン！ 眼前の焼岳も、灼熱の太陽も、流れ落ちる汗も、不安定な瓦礫の道も… 全てが快感。
12時23分に焼岳(2393m)の頂上に立った。頂上に至るまでの所々で噴気を上げている焼岳は紛れもない活火山で、頂上直下が一番激しい。臭いもきつい。しかし、噴気とその先にあるエメラルドグリーンの火山湖は、静と動を感じさせる不思議な風景だった。最強の敵：日和り虫に負けず、よくぞ歩いたと自分を褒めながら、山頂の雰囲気を楽しんだ。
12時36分に山頂を出発し、中ノ湯温泉を目指す。これまで節約してきたが、身体が欲するたびに給水し、ただひたすらに駆け下りる。気持ちだけ駆け下りるのみで、実際の歩みは遅い。ふと… 目の前に広がる風景が、2年前の御嶽山に似ていることに気づいた。あの時は勇気ある撤退で、日和り虫に負けたんじゃなかったなぁ…。
14時30分、やっぱりズダボロになって登山口に至り、14時45分に中ノ湯温泉に着いた。車道を歩いているときに登山客を乗せて上ってくるタクシーとすれ違った。「中ノ湯温泉で登山者を降ろした後に戻ってくるはず」と瞬時に判断し、そのタクシーを捕まえることを即断した。後ろから来るはずのタクシーを待つ時間は賭けをしているようで、なかなか楽しかったような気がする。
こうして、転機の夏山が終わった。
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