短歌で詠う日本百名山 15 鳥海山

短歌で詠う日本百名山　15　鳥海山

鳥海山は山形の誇る山でもあるが、その姿も美しい。
鳥海山を詠った歌人には、山形の斉藤茂吉がいて、「東北の歌人」の検索から
二十二首の歌を得たが、深田久弥が、紹介する歌は、その中になかった。
まずは深田の文章を紹介する。
「名山と呼ばれるにはいろいろの見地があるが、山容秀麗という資格では、鳥海山は他に落ちない。眼路限りなく拡がった庄内平野の北の果てに、毅然とそびえ立ったこの山を眺めると、昔から東北第一の名峰とあがめられてきたことも納得出来る。
　東北地方の山の多くは、東北人の気質のようにガフソリと重厚、時には鈍重という感じさえ受けるが、鳥海にはその重さがない。颯爽としている。酒田あたりから望むと、むしろスマートと言いたいほどである。それは鳥海が連嶺の形をなさず、孤立した一峰であるところにも基因する。
　標高は東北の最高とは言え、わが国の中部へ持ってくると、決してその高さを誇るわけには行かぬ。しかしその高さは海ぎわから盛り上っている。山の裾は海に没している。つまりわれわれはその足元から直ちに二二四〇米を仰ぐのであるから、これは信州で日本アルプスを仰ぐのに劣らない。」

ここにして浪の上なるみちのくの鳥海山はさやけき山ぞ　斉藤茂吉

「昔から日本の名山は大てい信仰に関係があるが。鳥海もその山頂に大物忌神が祀ってあり、創建年月は明らかでないが、用明天皇の御宇、正一位を授けられ勅額を賜わったというから、すでに千ぺ四百年前から名山として崇められていたのであろう。昔は多くの白衣の行者で賑わった山であった。」

鳥海山は歴史のある山であり、信仰の山でもあり、庄内の人々の故郷の山である。所謂「くに」の山だ。岩木山、八甲田山、岩手山、と並ぶ東北の「くにの山」である。


鳥海山を詠む　斉藤茂吉
いただきに　黄金のごとき　光もちて　鳥海の山　ゆふぐれむとす
いただきは　棚びかぬ雲　こごりつつ　鳥海山に　雪ふるらしも
うつり来て　われの命を　抒べむとす　鳥海山の　見ゆるところに
うつり来て　家をいづれば　こころよく　鳥海山高し　地平の上に
海つかぜ　西吹きあげて　高山の　鳥海山は　朝より見えず
憂ひつつ　わが立つ道に　雪ふりし　鳥海山の　霽(は)れきたる見ゆ
大石田の　山の中より　ふりさくる　鳥海山は　白くなりたり
ここにして天(あめ)の遠くに　ふりさくる　鳥海山は　氷糖(ひょうとう)のごとし
ここにして　蔵王の山は　見えねども　鳥海の山　眞白くもあるか
心和に　のびのびとして　見はるかす　鳥海山は晴れ　月山くもる
この園に　鳥海山の　いぬ鷲は　魚を押（おさ）へて　しばしかが鳴く
しづかなる空にもあるか春雲のたなびく極み鳥海が見ゆ
しづかなる　曇りのおくに　雪のこる　鳥海山の　全けきが見ゆ
鳥海を　ふりさけみれば　ゐる雲は　心こほしき　色に匂ひつ
庭杉に　音してゐるは　鳥海を　おろして来る　風にかあるらし
全(まった)けき　鳥海山は　かくのごと　からくれなゐの　夕ばえのなか
みちのくの　鳥海山に　ゆたかにも　雪ふりつみて　年くれむとす
もえぎ空　はつかに見ゆる　ひるつ方　鳥海山は　裾より晴れぬ
もも鳥が　峡をいづらむ　時とへど　鳥海の山　しろくかがやく
夕映の　くれなゐの雲　とほ長く　鳥海山の　奥にきはまれり
雪しろき　裾野の断片　見ゆるのみ　四月一日　鳥海くもる
みちのくに生れしわれは親しみぬ蔵王のやま鳥海のやま

結城哀草加
鳥海山は　海のなかまで　裾(すそ)をひき　さはるものなく　そびえたまへる
鳥海山の　お花畠を　たもとほり　もしか亡き子に　会ふか


Yahoo知恵袋
斎藤茂吉の『全てき鳥海山はかくのごとからくれなゐの夕ばえのなか』という短歌の鑑賞文を書かなければいけなくなりました。どうすればいいか分かりません文章例を上げていただきたいです・・・ よろしくお願いします
ベストアンサー
2014/3/21 1:01
もう提出の期限は過ぎてしまったかもしれませんが。 質問者さまが現在何年生なのか分からないので、どうアドバイスしたものか考え込んでおりましたが、この歌に関する知識を書いておきます。 まず、歌の表記を正しく。 ★全けき鳥海山はかくのごとからくれなゐの夕ばえのなか （まったけき ちょうかいさんは かくのごと からくれないの ゆうばえのなか） この歌は、茂吉の生前最後の歌集である『白き山』に掲載されています（この後の『つきかげ』という歌集は死後に出版）。 茂吉は山形に生まれて東京でずっと暮らしていましたが、戦争末期、郷里山形へ疎開しています。茂吉63歳のことです。 終戦を郷里で迎えたあと、知人の勧めもあって蔵王の山並みの見える大石田に1年ほど暮らし、そこで雪の鳥海山に出会うのです（64歳〜65歳）。 その人生の晩年、改めて故郷山形の自然に触れた感動から「全けき鳥海山」（完ぺきな姿をしている鳥海山、くらいの意味。「全けき」は茂吉の造語じゃないかと言われています）とまで言い、その鳥海山は古代日本人が「赤」の形容として使った「からくれなゐ」の夕暮れに映えると言うのです。それほど美しい景色であったと。 質問者さまがどう感じるかは分かりませんが、「全けき鳥海山」は落涙せんばかりの字づらで、山のかたちへの最高の賛辞というほかなく、茂吉の感動がよく伝わってきます。
⇒https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14123591504
⇒https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1449469729
なお、斉藤茂吉の歌碑については
⇒https://www.mokichi.or.jp/about-mokichi/mokichi-monuments/
143ヶ所に歌碑があると言う。
蔵王についで鳥海山は多く詠まれている。山形市には斉藤茂吉記念館がある。

「日本山岳短歌」には以下の歌がある。
鳥海山
雲渓の底をくぐりてたぎつ水お花畑にほとばしるかも　　　　　　植松壽亮
すさまじく霧威しくろ雪渓を仰に見上げて真下にし居り　　　　　　同
古雪の堅雲しぬぎ荊えいでし玉響花の白芽ふくよかにして　　　　　同
わが踏める雲の下にも山草の芽ばえぱすでにもよほせるらし　　　　同
深霧のこもり来るなべわが顔を雫洸れてしほはゆきかも　　　　　　同
山の上の池水暗しもつれあひて沈むともなき山檄魚の卵　　　　　　同
山の水たたへ静けし山細魚ひそめる故にわがうかがへり　　　　　　同
南の窓に鳥海山の頂かゆゆしく雲のだたまりて見ゆ　　　　　　　大黒富治
雨と共に雪渓のみち這ひのぼる霧は千蛇の谷ゆ湧き吹く　　　　　巌俊之助
踏みゆくはあはれとおもへ草原の深山龍謄も見れば伏したり　　　　同
吹きすさぶ風のをびらのふとやみて智なき山のくらき虚しさ　　　　同
朝霧はうすらぎ晴れてほの青く近く浮き出し鳥海の山　　　　　　兵藤利雄

植松壽亮の歌は登山詠の一連であろう。
恐らく庄内の短歌のサークルなどでも詠われていると思うが、それらは今は求めない。

茂吉の歌で
しづかなる　曇りのおくに　雪のこる　鳥海山の　全けきが見ゆ
この歌が私には風景としてとらえられて美しいと思えた
「全けき」とは茂吉の造語だと言う。「全部見えている」ということを強調したのだと思う。
結城の
鳥海山は　海のなかまで　裾(すそ)をひき　さはるものなく　そびえたまへる
も雄大な鳥海山を描いている。
この山は深田が云う如く「スマート」な山だと思う。姿は八幡平から見た岩手山と同じように東西に長く、岩手山は盛岡から見た東面が正面に成るが、鳥海山はその面が裏になり、人目に入るのは岩手山とは逆の裾を引く部分なのだ。
太陽が東にある時は、鳥海山の山影が、日本海にまで伸びてうつる。それを結城は詠んでいるのだ。


私が鳥海山にb登ったのは2005年の7月であり、植松壽亮の一連の歌は共感するものだが、天気は私とは違う。私は好天に恵まれたのだ。
⇒ttps://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-118275.html