短歌の詠う百名山16 月山（出羽三山）

短歌の詠う百名山16　月山（出羽三山）

「歌人の山」で来島靖生は馬場あき子の歌を冒頭に引いている。
羽黒山ほの三日月もゆつさりと芒にかくれゆく秋は来ぬ　　馬場あき子
茂吉の歌を四首紹介し、窪田正一郎の次の歌を一首引いている。
月読の女の神の山山頂はひろく穏しく花さはに咲く

「日本山岳短歌集」には以下の歌が収められている。
「羽黒三山」
湯殿山
みちのくの湯殿の山の山道を法螺貝鳴らし吾等行きつも　　結城哀草果
うつしみのわれにこの朝みゆるもの白雲のべに喫ける紫陽花　　同
月山　　
梅雨雲のおほにたたまる天の原月山嶺呂の雲ぞ照りたる　　吉植庄亮
月山を登りてゆけばくしきかも天津雲原目の下に見ゆ　　　結城哀草果
こごしくも群山の上に月の名を負ひて聳ゆる山のよろしき　　上野甚作
日の光常かく見しか山上の霧の絶え間のたまゆらを見たり　　　同
真昼ときの陽はありながらほのきらひ雪煙らへば月山見えず　丹羽　壽
雪渓のま洞のたぎち吾が立てる真下にありて脚に響くも　　　木賊太郎
岩の秀に腹這ひのぞく谷底のあらはに深く胸冷ゆるなり　　　　同
羽黒山
われも今洞黒山なる大同の団扇餅をば食ひて来にけり　　　結城哀草果
節穴に銅銭入れぬ板のまにころがる音をききて拝しぬ　　　　成田聚蔵
目をとぢてしばしおろがむ郷殿の内に鼠の走る音せり　　　 　同

結城哀草果は斉藤茂吉に師事した歌人で、茂吉同様に故郷の山を詠っている。斉藤茂吉も鳥海山に次いで多くの歌を詠んでいる。

斉藤茂吉月山を詠む
みちのくの出羽のくにに三山はふるさと山恋しくもあるか
がある。
以下月山を詠める歌十一首
いそぎつつ川原わたればおもほえず月山のかたに時雨虹たつ
月山をくだりくだればやうやくにさ霧の雨に逢ふこともなし
月山にはだらに雪の残れるを三人ふりさけ心楽しも
月山のいただき今しかくろひて氷の谿(たに)に雨ふりにけり
月山の山のなだりに雪げむり日ねもす立ちてそのいつくしさ
黒々としてつづきたる森の上に月山の膚斑に見えそめつ
ここにして大きく見ゆる月山も雪近からむ秋に入りたり
心和にのびのびとして見はるかす鳥海山は晴れ月山くもる
さ霧たつ月讀の山のいただきに神ををろがむ草鞋(わらじ)をぬぎて
ひさかたのさ霧に濡れてひたぶるに月山の道くだりくだりぬ
雪しろき月読(つくよみ)の山横たふをあなうつくしと互に言ひつ
羽黒山（四首）
眼したに羽黒の森は見えぬれど行著きがたし共に疲れぬ
神います羽黒の山にのぼり来てわが身は清し汗をさまりぬ
しづかなる羽黒の山や杉のまの石の階を匍ひつつのぼる
ひたぶるにくだりくだりて羽黒山森は見ゆれど遠くもあるか
湯殿山（三首）
いつしかも月の光はさし居りてこの谷まよりたつ雲もなし
湯殿山一の木戸なる薬湯のあつきを飲みていろいろ話す
わが父も母もなかりし頃よりぞ湯殿の山に湯は湧く給ふ

さらに、松村英一は
芭蕉より齢の老いて堪えふるかとけふ月山にわが登るなり
月山は二十七夜の月出でてこの宿すがらに風吹く音す
と詠んでいる。
最後に芭蕉の句を上げておく。
雲の峰いくつ崩れて月の山

月山には三度私は登っている。一番早くは高校生の時であった。左沢線の終点から、縁のあった寺に泊めてもらい、翌日スキー場からの道を走る様に登った。あまりにも優しい山の姿に楽しく思ったものだ。
深田久弥は月山の名の由来を、その穏やかな形状からではなくてその山麓の人々が農業の神である月読尊（ツキヨミノミコト）祀ったからだと書いているが、その姿の優しさからその神を見言い出したのも事実ではないかと思う。信仰の山だ。
湯殿山は湯殿山神社があって、温泉がご神体と言う変わった神様とでもいうべきか。でも日本全国の温泉の層元締めみたいな神社かもしれない。三度目は湯殿山から登った。
朝日連峰の縦走路から見た月山は実に半月状の印象的な姿で恵あった。２０００ｍに少したらない高さだが、聳えているようには見えず、実に穏やかな姿だ。

月山は登ってみてもその姿の優雅さが理解でき無い。この山は朝日連峰から眺めて初めてその優美な姿を知る事が出来るだろう。（未完）