23年前の秋、夫と二人で鴨沢から後山林道〜三条ダルミ〜雲取山へと、自転車を押したり担いだりしながら登った。
朝方の天気はどんよりして、時折り小雨も降った。
山頂に着く頃には雨は上がり、腹ごしらえをしてから鴨沢目指して出発である。
他の登山者ギャラリーがいると、小心者の私はカチカチに固まってしまう。
しかし夫は自転車で豪快に斜面へ飛び出して行く。
文句を言われたくないので、私は相棒のアラちゃん(自転車)にまたがり、へっぴり腰で後に続く。
ザレた斜面や岩や石ころ、段差や倒木などの障害物、私には全て苦手なことばかりだが、アラちゃんと一丸となって頑張る。
七ツ石山を過ぎると尾根を南下して行く。
尾根の東側斜面、ほぼ一直線に続いている緩い下り道になる。
右に山、左に谷を見下ろし、ブレーキを調整しながらアラちゃんと快適に走っていく。
しかし、スピードをセーブしようとブレーキを握っても、途中から思うようにいかなくなった。
あれっ、おかしい。
もう一度握り直す。
ブレーキが全く効いてない。
何回も力を入れて握った。
何だよ、これ、アラちゃん、どうした。
夫が道の脇で登山者と話しをている。
私はその前を「ブレーキがきかないよ〜」と叫びながら通過した。
道はしばらく真っ直ぐ続くが、その先で右に回りこみ見えなくなっている。
このスピードで行ったら絶対に曲がることはできない。
きっと勢い良く谷に飛び出してしまう。
何とかあの手前で止めなければならない。
谷へは落ちたくない、ならば右の山側へ倒れ込むしかない。
しかし山側の壁はほぼ垂直に迫っていて、倒れこめるようなスペースが無いのだ。
アラちゃん、どうするっ。
こう書いていると長い時間に思われるが、実際は一瞬の出来事だったと思う。
流れ去る山壁に目を凝らし、きっかけを探した。
少しだけ窪んだ部分を見定めた。
えいやっとばかり、その窪みめがけてアラちゃんと突っ込んだ。
ものすごい衝撃を受けた。
即、バンッと跳ね飛ばされ、アラちゃんからも放り出され、自分の感覚では体が空中を2回転ほどしたように思う。
やっぱり谷に落ちるのか、とにかく樹にしがみ付かなければと咄嗟に考えた。
ドサッと落ちた。
しかしそれ以上落ちることなく仰向け状態で止まっている。
どんな状況なのか分からずに、しばらくじっとしていた。
駆けつけた夫が「おい、大丈夫か?」と声をかける。
私は谷側の、道より少し下がったところに横たわっていた。
樹の根元に枯れ草が溜まり、まるで寝床のようになったその場所に落ちていたのだ。
起きて道に這い上がると、アラちゃんは道の真ん中に倒れ、後輪がくるくる回っている。
自分の体は・・・大丈夫、なんとも無いようだ。
アラちゃんも大丈夫のよう。
この間、コース上に登山者がいなかったことは、不幸中の幸いである。
私はいつも、レストランに入った時などなかなか注文を決めることができない優柔不断な人間なのだが、この時はとっさに判断した。
あの窪みに突っ込むことを躊躇したり、見逃したりしていたら、間違いなく映画「E.T.」の一場面のように自転車で空を飛んでいた。
映画では感動の場面だが、現実では確実に谷底へ落ちる。
雲取山でアラちゃんと心中なんて真っ平ゴメンだ。
ブレーキが効かなかった原因は、ブレーキパットのゴムが擦り減ってすっかり無くなっていた事だった。
金属が直接リムに当たり、リムが削れている。
雨で湿った土がブレーキパットとリムの間に入り、ヤスリで削るようにゴムがすっかり磨耗してしまったと推測する。
事故直後はどうしたのか、どうしても思い出せない。
最近その事を夫に尋ねたら、ブレーキは応急処置をして、夫の自転車と私のアラちゃんを交換して鴨沢まで降りたそうだ。
そして後日、ブレーキをグレードアップして万全の体制に戻ったアラちゃん、いくら何でも、もう山で自転車はやめたと思っていた。
しかし古い手帳をめくってみると、その後もアラちゃんと一緒に山に出没している記録が続く。
懲りない、アラちゃんと私であった。
こんばんは、はじめまして!
申し訳ありません。
笑いごとでないのはよーーくわかっているのですが、不覚にも笑ってしまいました
サザエさんの4コマ的な情景が頭の中にクリアにうかび、後輪がくるくる回ってるあたりなんかもうツボ
んで、アラちゃんてなに!www
感動しますた
はじめまして、コメントありがとうございます。
笑ってください、もう笑ってもらうのが一番です。
当時は危機迫る状況で必死でしたが、笑って思い出せる日が来るということは素晴らしいことですから。
アラちゃんは、ARAYAという日本のメーカーのマウンテンバイクです。
長い付き合いなので、親しみをこめてアラちゃんと呼んでいます。
声に出すと変な人みたいなので、心の中だけです。
今はごっついタイヤを普通のに変えて、街乗りで付き合ってもらってます。
なかなか雲取への自転車で入った記事がなく、どうしたものかと考えてましたが、入れることが確認できて良かったです
山入りには自転車整備が大切ですね😅
こんにちは、初めまして。
これは30年近くも前の話です。
その頃は三条の湯に「自転車持ち込み禁止」の看板があったらしいです。
今はどうかわかりませんが、登山者の目から見ると、同じ山道を自転車が走り抜けていくのは危険極まりないと思えるでしょうね。
出来るだけ登山者の少ない時期を選んだほうが良いと思いますし、道がぬかるんでいたりと状況によっては登山道を痛めてしまう恐れがあります。
最善の注意とマナーを以って望んでください。
何はともあれ山も自転車も素晴らしいですね、楽しんでください。
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する