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2014年08月13日 20:21私事・雑記全体に公開

あの子は其処から離れられない

2010年夏、梅雨が明けてすぐのころ。

当時住んでいた千葉の佐倉から
遠路はるばる埼玉まで車を走らせてきたぼくは、
その交差点に差し掛かると、
案内図に従って左のウインカーを出し、左折した。
左折すると間もなく、街路樹の支え木に手向けられている花束があった。

・・・ああ、ここで誰かが事故で亡くなったんだな・・・。

その花を手向けたひとや、手向けられたひとについて、
一瞬思いをよぎらせた後、そのまま何100mか車を走らせ、
長方形の建物が林立する団地の中心部にある駐車場に車を停めた。
この中の1室へ引っ越すべく、内覧のアポイントメントを取っていたのだ。

1時間ほどで内覧を終えてまた車を走らせ、その交差点に差しかかると、
花が幾分萎れている様子が見えた。

ぼくは一瞥をくれると、そのまま千葉へ帰った。

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それから1ヶ月半ほど後、同じ年の盛夏。

もうすぐ9月になろうとするその日、
ぼくはこの地へ引っ越してきた。
初めてやってきた時に見た花は一層萎れ、
干からびて葉と花びらの区別もろくにつかないほどになっていたが、
ああ、あの花が枯れたんだな、と思う程度で、
ほとんど気にも留めなかった。

ぼくは、馴染み薄いこの土地で、新しい生活を始めた。
そのことに手いっぱいだったし、
その時の自身の状況が抜き差しならなかったという事情もあり、
花のことなどあっという間に忘れてしまった。

何ヶ月か経って冬になり、年を越して少し過ぎたころ、
寒い晴れた休日に、散歩がてらその交差点を通りかかると、
花は新しいものに取り換えられていることに気が付いた。
命日だったのかな・・・。そう思った。

それから毎月毎月、中旬くらいになると、
花束は必ず新しいものに取り換えられていることに気付いた。

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2010年5月のある日の夕方、
この交差点のすぐ近くにある学校に通っていた
小学1年生の男の子が横断している時、
ぼくが初めてやってきた日と同じように
左折してきたトラックに巻き込まれ、
10mほど跳ね飛ばされて亡くなった。
その子のご両親が、月命日のたびに花を取り換えている、
と近所のおじさんから聞いた。

それから4年以上経過した。
男の子は、生きていれば小学5年生。
夏休みで元気いっぱい遊びまわっていたことと思う。
ご両親の悲しみが少しも癒えていないことは、
毎月新しくなる花を見るたびに、思う。
ぼくには、いくら想像しても想像できない悲しみだろう。

けれど、また思う。
あの子は、いつまで其処にいるのか。
ご両親の悲しみが癒えるその日までいるのか。
あるいは、ご両親があの子がいる世界に逝く日までいるのか。
小学1年生のまま、その場所でご両親の悲しむ姿を見続けるのか。
そう思うと、居たたまれない気持ちになる。

残された者たちがどれだけ嘆き悲しんでも、
死者は決して帰ってこない。
一方、残された者たちの悲しみによって、
死者もまた、その地から解放されないのではないだろうか。
いつまでも、この世界に留めておくのではなく、
あちらの世界で思う存分遊ばせてあげてもいいのではないだろうか。
それとともに、ご両親もその街路樹の支え木から、
別のところへ目を向けることはできないだろうか。
もちろん、あの子の死の悼みは、
決して薄れることも、忘れられることもないけれども。

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今朝の通勤時、いつものように自転車で其処を通りがかると、
花束はやはり新しいものに取り換えられ、
街路樹の支え木に寄りかかっていた。
艶やかな色の花々の中で、向日葵がひときわ目立っていた。

小さないのちが断たれて4年以上、
今や手向けられている花の意味を知るひとは
だいぶ少なくなっているかもしれない。

もうすぐ、彼岸だ。
ぼくにも、偲ぶひとびとがいる。
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