少し大きめのエンジン音の中に、異音が聞こえた
気がした。最初は気のせいとも思ったが、
確かにそれは聞こえる。
機械音ではない。何か動物の声⁉︎
職場に着き、急いでボンネットを開ける。
エンジンルームの片隅。
枯れた声で鳴き叫んでいたのは、
手のひらに乗るほど小さな一匹の子猫だった。
凄く怖かっただろう。可哀想なことをした。
実家から気付かずここまで来てしまったのだ。
…ふと思い出す。
前夜、風雨に紛れて聞こえた赤ん坊の様な声の事。
家の近辺に子連れ猫の心当たりは無かった。
多分この子猫に親はいない。いや…
実際、どこかには居るのかも知れないが、
もうこの子の側にはいない。
恐らく一匹だけ、誰かの手によって
裏のお宮にでも捨てられてしまったのが
実際のところだろう。
気持ちが騒めいていた。
もはや選択肢は無かった。
目と耳がやけに大きい、小さな小さな子猫が
家族に加わったのは、21年前の夏の事だった。