いずれも独特の感性を感じさせる短編だ。
幸田文は生きている内はなかなか著作を世に送り出そうとしなかったということを、この本の解説を読んで初めて知った。没後に遺作として次々と著作物が世に現われだしたようだ。
「木」「崩れ」「台所のおと」「きもの」などがそうだ。
読書界のいたるところで感嘆の声があがり、幸田文はあでやかに甦ってきた。
ふーむ、そういう作家だったのか。
「台所のおと」はなぜ生前に刊行されなかったと訝しいほどの尖鋭な秀作である。(解説より)
所々で、幸田文のあのきりりとした着こなしのような気配が流露して、読者がただ安逸で快適な情景の中でまどろみかけるのを防いでもいる。おおよそこういうもろもろの要素、モチーフ、題材がゆらめき、流れ、拡がり、一点に収斂し、ふたたび解き放たれて衣擦れの音のように言葉が連なってやってくる、これが「台所のおと」一巻というものだと思う。
幸田文は稀有の人であった。露伴の娘という出生を、たんに与えられた条件として身を託すのではなく、自ら孜々として生き、きりりと言葉を引きしめて、稀有なるものをおのれのものとした人であった。(解説より)
なかなか気持ちの良い、そして明治・大正・昭和初期の音や匂い、雰囲気を感じることが出来た秀作だった。
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