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2022年12月20日 12:24紀行文全体に公開

来年こそは〜紅葉の岩手山をリベンジしたい

年末が近づくと今年の山行を振り返り、またこれまでの山行を幾つか思い出す。
岩手山に登ったのは2018年7月7日、4年以上前のことだ。
暴風雨で正しくは登山を中止すべきだったが、わざわざ東京から出かけてたことから、危険を顧みず無理をして登ったのだった。

小屋の管理人さんに「また紅葉の良い季節にでも来なよ」といわれたのだが、今年も都合がつかず再登山は叶わなかった。
岩手山、今頃はすでに雪の帽子を被って真っ白になっていることだろう。
来年こそ好天の下で岩手山を登りたいものだ。

2018.7の山行を書いた紀行文が出てきた。長文なのでご興味のある方のみお読みいただきたい。
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岩手山を独り占め

すでに風雨だ。しっかりとした降り具合だ。
7月上旬、私は盛岡駅前のホテルに前夜泊し、早朝レンタカーを運転して岩手山馬返し登山口に着いた。
天候の回復を祈りつつ、車の後部座席でレインウェアに身を包み、登山靴に履き替えて出発の準備完了だ。
自分の頭の中に「登山中止」の四文字はない。浮かび上がってくると振り払う。振り払うと消える。目指す岩手山山頂に到達している自分のイメージだけがある。

キャンプ場の中を通り過ぎるとすぐに登山道が始まる。
駐車場は閑散としている。普通自動車が2台とバスが1台駐まっているのみだ。
自分以外の登山者は殆どいないのだろうか。
馬返し登山道へ取り付く。最初は平坦な道が続く。暫く歩くと、4人の中高年のパーティとすれ違う。彼ら彼女らは下山してきたのだ。
「こんにちは」「あの方、登るのかしら」「大丈夫?」
すれ違いざまでの登山での常識「こんにちは」の挨拶のあと、この暴風雨の中をあの方はどこに行くのかしら、登るつもりなのかしらといった声が私の耳に届く。
「そう、登るのだよ」心の中で返答をする。
しかし、「ということは、これより上は撤退すべき判断をしなくてはいけないくらいの荒天なのだろうか」と、やや不安な気持ちになる。

私が岩手山に登った平成30年7月7日は、日本全土が「平成30年7月豪雨」の真只中にあったのである。
後で知ったのだが、「平成30年7月豪雨」と気象庁が名付けた、主に西日本中心に日本各地に甚大な被害をもたらした豪雨だったのだ。
ここ東北盛岡の地でも、関西ほどではないが暴風雨に見舞われていた。

「雨だからといって登山を中止していたら、山登りは出来ない。雷さえなければ登るさ。」
登山口から5合目くらいまでは森林限界以下のため、喬木や潅木が風雨から我が身を守ってくれているからそれほど暴風雨の危険を感じないで登れる。しかし次第に登山道を流れ落ちてくる水量が増えてきて、山に降る雨の激しさを感じてくる。登山道は小川のようになってきた。
ポンと潅木帯から吹きさらしの斜面の道へ出た。
途端に唸りを上げて雨交じりの風が左下から吹き上げてくる。
山が咆哮しているかのようだ。
遮る物のない岩手山の斜面、ザクザクする火山礫の道が続いている。焼走り登山道の溶岩とは違い、黝黒色の岩が多いのは、焼走り登山道の溶岩を吐き出した噴火より古い火山活動によって出来た火山岩だからであろうか、云々とこれ以上火山岩のことを考える余裕が今はない。
登る上方が良く見えない。視界10メートルくらいだろうか。
左からの風がとても強い。時々体が右へ持っていかれそうになる。
二本のトレッキングポールを左右の手でしっかりと握り締め、体が飛んでいかないための支えとして使いながら登っていく。
暴風雨のときには、低い姿勢で登る。周期的に来る暴風の時には無理して歩かずに、蹲り、風をやり過ごす。時々出てくる巨岩の岩陰ではしばし休憩させてもらう。
ザックカバーとメガネが飛ばされないように注意する。昔、巻機山山頂付近での強風でザックカバーが吹き飛ばされて無くした経験がよみがえってくる。
メガネは前面も後面も雨でびしょ濡れ、もともと視界不良で真っ白な周囲が、メガネの水滴のせいで余計に先が見えなくなっている。
八合目の避難小屋辺りは風も弱まった。後一登りだ、と小屋にはよらずに休まずに登る。
登りにかかると、また一段と強い暴風雨の中だ。登れば登るほど風が強まってくる。
霞んで見える上方の岩が山頂か、いや違った、と何度思ったことか。早く着きたいとの焦る心で歩を上へ進ませる。
お鉢の縁で、山頂への分岐点の岩の祠群に漸く辿り着いた。
この時点で紙の地図やスマホアプリの地図を出すことは、暴風雨で飛ばされてしまうだろうからとても出来ない。
山頂はどこだったか。登りつめれば山頂ではなかったのか。
しっかりとルートを事前確認していなかった自分を、今、この状況で責めてみても仕方がない。甘く見ていたのだ。山頂を探せないという状況は想定外だ。
おぼろげな記憶をたどり、確か、山頂はこのお鉢の縁を少し回ったところだったことを思い出した。左回りのような気がしたので、左周りにお鉢の縁を歩く。
すると今度は左正面からの暴風雨に晒される。強いアゲインストの中を進むことになる。
一体何だ、この石碑群は。
夥しい石碑の列がお鉢に沿って、ある一定間隔、ほぼ等間隔に置かれている。
顔を上げられないし、真っ白な世界で二つ先の石碑位までしか見えない。
暫く歩くうちに気がついた。歩く砂礫の道の右手は切れ落ちている。そうだ、右側の斜面は火口、爆裂火口跡のカルデラか。
お鉢の斜面に目を凝らすと、白黒の世界に小さな桃色の花が点在している。
コマクサの群落である。
高山植物の女王、コマクサに構っている時ではないが、一葉写真を撮る。
何基の石碑を確認したことだろう。これが山頂かもしれないと。
漸く前方に薄っすらと山頂標識箇所が見えてきた。
やっと着いた。
山頂は周囲に遮る物がまったくない。好天ならば四方の景色を堪能できる山頂だ。
しかし暴風雨の今、遮る物が全くないということが、景色を失うことばかりではなく、其処に留まっていることすら困難な状況を生んでいる。
ヤマスタのアプリでスタンプを獲得するために右手袋をぬぐ。こういった時に限ってスマホのGPS位置情報の確認が遅い。早く。
山頂標柱との記念写真を自分のルーティーンにしているのだが、とても華奢な三脚でのセルフタイマー撮影は無理な状況だ。カメラが飛んでいってしまう。
そもそも山頂には誰もいない。シャッターを押してもらうお願いをする相手は、暫く経っても現れないことは確実である。
不満足ではあるが、手を伸ばして、自分の顔と山頂標識とを被せて自分撮りをする。
さて、これからどうする。
お鉢めぐりをする山行計画だ。せっかく山頂に着たのでお鉢を周回することにする。
山頂から周回ルートに入ると道は下り始めた。荒天でなければ周回にそれほどの困難はないはずだ。しかし、暫く下って考えた。
この暴風雨で山頂の縁を歩き続けることは、今以上に危険な状況になるのではないか。
山頂へ戻り登ってきた道を辿って下山するほうが、一度通った道で安心だし、時間的にも早いし体力的にも楽だ。
戻ろう。

山頂へ戻り、そしてお鉢の分岐点へ戻り、八合目避難小屋まで一目散に駆け下りた。
八合目避難小屋の引き戸を右に滑らし、土間のような造りの入り口へ入ると、暴風雨の外とは違う別世界が待っていた。
溝鼠さながら、上から下までアンダーパンツの中までびしょ濡れで綺麗な小屋に入ってよいのか戸惑っていると、「さあ、どうぞ、どうぞ」と小屋の当番人が中へ呼び入れてくれる。
体中から水を滴らせながら遠慮なく小屋へ入らせてもらい、奥で着替えをする。
着替えとはいえ、替えのシャツや手拭までもがびしょ濡れなので、着替える意味が全くない。濡らしてはいけない衣類等を防水スタッフバックに入れてからザックに入れてくることの大切さを身に沁みて感じている。しかし今は遅い。痛い目にあって漸くスタッフバックの必要性を実感している。
レインウェアだけでも乾かないか、とレインウェアや帽子、ザック等を小屋の上部に吊るして干してみた。30分程度では気休めに過ぎなかった。
しかし、パンをかじり、カップヌードルを食べ、体を温めるだけで随分と元気を取り戻せた。何よりもこの外の暴風雨の中では食事を取ることもままならない。避難小屋の中だからこそ落ち着いて昼食を食べることが出来たのである。小屋の存在は本当にありがたい。

30分程度の休憩の後、乾くはずのないびしょ濡れのままのレインウェアや帽子を再び着て被り、嵐の中へ再び飛び出した。
飛び出すまでは怖い気持ちが勝っていたが、いざ暴風雨の中に飛び出してしまうと、もう早く下ってレンタカーに戻るしかないと覚悟が定まる。
人間は一度経験したレベルの危険に再び遭遇しても、その結果が無事であった経験から二度目に同じレベルの危険に遭遇しても、それ程怖く感じないのか。経験値の問題か。
暴風雨の中、下山を再開するが、登りのときに感じた暴風雨に対する恐怖心は何故か無い。
とはいえ、相変わらず右方面からの暴風雨は厳しい。暴風雨に弾かれないよう、屈めた姿勢で降りていく。
吹きさらしの斜面から潅木帯に入ってしまえば、風から逃げられることが出来、相当楽になる。少しでも早く楽になりたい、その一心で休み無く下山する。
下れば下るほど強風はおとなしくなってくる。
登ったルート(旧道)とは別のルート(新道)を選んで下る。新道は展望が無い、すなわち樹林帯の中の道である。暴風雨から避けることを第一義とするから当然である。
ただし登山道は、登ってきたとき以上に川と化してしまっている。
勢い良く登山道の中央付近を水が流れ落ちていく。その川と化した登山道の中を下っていく。
出来得るだけ、登山靴が水の中に漬からないように、足場を考えながら下る。とはいえ、すでに登山靴は中までぐっしょり濡れていて、歩くたびにピチョピチョ音がする位だから、あまり足の置き場を考えても意味は無くなっている。
最後は「滑らないように」を優先させ、沢山水の流れている場所でもお構い無しに足場を決めて降りていく。

着いた。
自衛隊駐屯地指令からの注意看板を幾つかやり過ごし、最後に少し登ると、其処が登山を開始したキャンプ場であった。登山口に戻ったのだ。

「無事下山できた。しかしお鉢付近は危なかった。遭難しなくて良かった。」と先ずはホッと胸をなでおろした。本当に安心した。緊張感から開放された瞬間だった。
無事に下山できると、次には余りの溝鼠ぶりから早く脱却したくなった。
着替えるために、急ぎ足で駐車場に停めてある私のレンタカーに向かう。
何と、広々とした駐車場に、車は私が借りたレンタカー一台きりである。
「そうだよな、こんな暴風雨の中登山するのは俺ひとりだよな。」
「一般道がいくつも整備されている岩手山である。天気がよい夏や秋だったら沢山の登山者でにぎわうことだろう。今日は、俺がその人気の岩手山を独り占めだったのだ。」

車の運転席にバスタオルを敷き、座席が少しでも濡れないようにセッティングする。
これから明日登る八幡平近くのペンションに向けて車で移動するのだ。

「さようなら、岩手山。全くその姿を見ることは出来なかったけれども、岩手山、今日は貴女を俺は独り占めさせてもらいました。ありがとう。」

避難小屋の当番の方に言われた言葉を思い出していた。
「秋の紅葉の時期にまた来てください。紅葉時期の岩手山は素晴らしい景色ですから。」
好天下での岩手山との再会を来年以降の宿題として心に決め、レンタカーを八幡平へ向けて発進させた。
途中すれ違う車は一台も無かった。
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