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確かに戦が繰り返されるが、領土が広がると同時に民族や氏族の垣根が無くなっていく流れは変わらない。
一方でジャムカをはじめ敵対勢力が全滅したわけではなく再戦もあるだろう流れ、鉄の生産量を上げることに拘らないといけない現状、さらには交易の発展や一般民の生活レベル向上など先行き不透明なことも多い。
このシリーズを読んでて感じるのが、どの族長や国王もまず自国民の生活のことを最優先に考えていることだ。テムジン様やジャムカ、メルキト族の前族長のトクトアも現族長のアインガも、更にはケレイト王国の国王トオリル・カンも、戦は強いけど一般民の生活や国の安定があっての話だ。
どの民族や国も領土やその他何かしらの問題で揉めることや戦はあっても、和解も交えて歴史を作ってきたのだろう。子孫を残してきたのだろう。
そんな中でモンゴル族を統一できたテムジン様とケレイト王国のトオリル・カンが同盟関係で、それぞれ自分の領内の発展に力を注ぐ。一方で再戦を目論むジャムカが戦力の立て直しに奔走し、各地を巡って仲間を集めていく。かつてタイチウト氏の長だったタルグダイ夫妻は遥か南の南宋で商人となり戦とは無縁の生活を送るようになった。大草原からは離れて大海原のすぐ近くに住むなど、新たなセカンドライフを構築していった。
テムジン様の領内で採れる鉄は無尽蔵ではなく、西域との交易をより強化するなど自国の更なる安定化に余念がないように見える。これがタイトルの杳冥に通じるのだろう。
そして新たな戦いが始まった。同盟関係のケレイト王国のトオリル・カンがジャムカ討伐を指示して一緒に軍隊を出動させる話になる。ところが、テムジン様はジャムカの軍隊は強いけど上限が知れてるのになぜお互い大軍を出さないといけないのか?と疑問を持つ。ここできっと様々な状況を予測して様々なプランを練ったのだろう。
結論はケレイト王国のトオリル・カンがテムジン様を裏切り、ジャムカの軍隊と挟み撃ちにする形をとるが、敢え無く失敗。ジャムカはその流れに乗らずに撤退、テムジン様は予め練ってたであろうプラン通りに一旦北へ逃げた。そして態勢を立て直してケレイト王国のトオリル・カン、息子のセングム、主要人物のアルワン・ネグを瞬く間に倒してケレイト王国は敢え無く滅亡。
この戦が始まる直前にトオリル・カンの弟で主力部隊を指揮するジャカ・ガンボがテムジン様を訪ねてきて話をした時点で全てを察知したのだろう、ジャカ・ガンボを拘束して戦から完全ひ切り離して、戦が全部終わってから釈放するなど、勝者の予測力や準備力に改めて恐れ入るばかりの本巻だった。
亡きトオリル・カンは、わざと国を空けて国外へ行った間に王位を乗っ取ったり自分を陥れようとする者が現れれば処刑、自分の実弟ですらジャカ・ガンボ以外を全員殺害、側近でも自分より金国に寄り過ぎてたと判断した者を殺害するなど自分に歯向かったり要らないと思えば残酷に消し去り、狡猾な手段で戦に勝ってきたりもした。そんな兄の顔色をうかがいながら生きてきた弟のジャカ・ガンボは強い呪縛から解放されたのか、思いの外落ち込んでいなかった。「兄のことはもう気にしなくていいだろう。今からは自分らしく思い通りに生きていけ!」とジャカ・ガンボに声をかけるなど
、テムジン様の思いやりなのだろう。
ケレイト王国は滅びてもジャムカが生きている以上新たな敵が現れるのだろうと思ったら、やはりそんな雲行きになっていった。
いつ、どんな分水嶺を経てチンギス・ハンとなるのだろう?これが楽しみで、次巻やそれ以降も読み進めようと思えるシリーズだ。
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