田舎の本屋さんに、芥川賞を取り上げた文藝春秋のバックナンバーが何故か(売れ?)残っていて、ビニル包装してあった。どうして?でもビニルを破るのは嫌いではない。
仕事帰りに本を買って喫茶店で読みだす、こっちのほうがもっと好きだけど。
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「花火」はお笑い芸人が下積みの生活を「僕」の一人称で語る青春小説。先輩芸人の「神谷さん」の、破滅的芸人人生へ深い共感を寄せつつ、エンターテインメントの意味を「僕」が獲得していく物語である。安酒と場末の劇場の匂いと、圧倒的な夜の世界。そして緩やかな敗北。
生硬で、上手い文章でもないのに、なんだかとても「文学」の香りがする。どうしようもなく「古い」んだけど、このエネルギーは嫌いじゃない。又吉さんの、「モノを書きたい熱」を浴びながら読み終えた。いい本。(ピースの又吉さんはよく知らない)
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「スクラップ・アンド・ビルド」は要介護の祖父と母とその息子の家族の物語。勿論、家族の愛の物語などではない。母の邪険な言葉、祖父の嘘と甘えと計算、健斗の苛立ち。だが家族は崩壊しない。しぶとく頑丈に、介護老人を巡りつつも、日常が滞りなく過ぎて行く。祖父のしぐさがちょっとブラックなユーモアを醸し出す。
「ごめんね、ありがと、すんません」こんな言葉が何度も繰り返されたら、家族はどう思うか。
厄介なことになった。改善の見込みはない。そういう現実でも、人はそこに生きていて、日々の事に対処しながら、当たり前に日常を生きている。世の中にたくさん、たくさんある家庭の、ありきたりな現実(裕福じゃないほうの現実だけど。)悲劇などではなく、避けようがなく、仕方なく、ではやりますか的タスク。
介護小説でもない。あくまでも孫の健斗の今が描かれており、たまたまそこに要介護の祖父がいる。健斗は職探しと、恋人との逢瀬と、肉体の鍛錬と、資格試験の勉強に忙しい。祖父の介護は日常の一部で、やがて健斗は就職し、母と祖父を残して家を出る。結局のところ、介護は孫の仕事ではないのである。勿論。
極めて面白い。こんなテーマなのに、読みだすと止まらなかった。登場人物の誰にも共感を覚えないのだけど、どの一人も憎めない。とういか、わりと好きかもしれない。羽田さんはなかなか上手い。
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