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ヨーロッパを中心に生きていたネアンデルタール人が2万数千年前に絶滅し、南からやってきたホモサピエンスがそれにとってかわった。無論同じ類人猿の出自だが、遠い昔に枝分かれし独自に進化した二つの人類に、交流や交配があったのか。交配があったのなら、生き延びた方の我々ホモサピエンスの中に、ネアンデルタール人の遺伝子は残っているのか。今の我々の中にネアンデルタール人はいるのか。
壮大なロマンと謎である。ペーボは最新の遺伝子工学と、実に丁寧で繊細な処理方法をもって、この謎を解き明かした。
答えは…アフリカ人以外は全て、ネアンデルタール人の遺伝子を2%持っている。
スヴァンテ・ペーボは1955年生まれのスウェーデン人で、古遺伝学の創始者である。この本は、ペーボの研究生活そのものが描かれており、自伝的記述も多く、生物学、遺伝子学、歴史に疎い私でも面白く読めた。ほんの少しの忍耐は必要だが、mtDNAの知識を得るという意味では、楽しい忍耐かもしれない。この全ゲノムの解析は、ワトソン、クリックの二重らせんの発見を巡る科学者間の熾烈な競争をも思い出させる。
生物の化石からDNAを採取する時、一番の困難は、それに取りこまれた異種バクテリアなどのDNAの混入(本文では汚染という)やそれを取り扱う人間のDNAの汚染をどう取り除くか、という点。かなりのページが割かれその具体方法が示されている。
ジュラシックパーク的な、恐竜のDNAからクローンを作成するとか、琥珀の中に閉じ込められた虫のDNAを解析するとか、それが荒唐無稽なまやかしだということが明快に説明される。ロマンとしてならありうるけど、いまだ科学はそのレベルに達していない。
知的刺激に富んだ良書で、とても読みやすい。この分野に詳しい方のご感想をお伺いしたいと思った。
(記述中、誤りがあればお許し下さい。)
人の生死は大きい出来事だが、悠久の人類の歴史を思うと、それは自然のこと。自分が死に、いつか遠い未来に誰かが自分の骨に触れている、そんな夢をみてしまう。
余談だが、たった一か所「日本」という言葉が出てきた。最終盤、同じ核DNA分析で、新種の人類「デニソワ人」を発見したエピソードの中で、少女のデニソワ人をどう呼ぶか迷い:
「私は『Xガール』というのを考えたが、日本の漫画のキャラクターのように思えたので、結局『Xウーマン』に落ち着いた。」
なんというクールジャパン、やれやれですね。
いつだったか見たNHKの番組を思い出しました。我々よりもネアンデルタール人の方が脳が大きく、体格にも恵まれていたようです。
一見して生存するには有利そうなネアンデルタール人はなぜ滅びたのか?
一方は絶滅してしまい、一方は長い繁栄をもたらした「言葉」の有無。とても大きな能力差ということになりますが、我々とネアンデルタール人の差はDNA塩基一個の違いしかなかったのだとか。塩基が一個だけ入れ替わることでタンパク構造が変化してブレーキ遺伝子が効かなくなって、細胞の増殖が活発になりすぎて大脳新皮質を獲得したのでしたという話だったと思います。
口下手な人はネアンデルタール人の血がほんのちょっと濃いのかもしれません
tooleさんは7月のNHKスペシャルをご覧になったのですね。ペーボ自身が出演されていたとか。残念ながら見逃してしまいました。
私たちが2%の遺伝子をそれぞれ持っているとしたら、それがうんと濃い人もたまには生まれてくるでしょうか?ほとんどネアンデルタールという可能性はペーボがこの本の中でも計算してるけど、天文学的に小さいみたいですが。ただ、著者は人権とか差別にも格別配慮した記述をしており、優生学的立場は厳しく排除しています。
ところでなぜアフリカ人以外?と思うでしょうが、それは「動き回る(移動の激しい)」ホモサピエンスが、アフリカの出口である中東で、ネアンデルタール人と遭遇しているから、というのが著者の仮説なんですよ。だから日本人だって、この遺伝子を持っているという。(勿論その背景として、著者はミトコンドリアイブという考え方をとっている訳です、当然ですが)
ご指摘の通り、言語能力、コミュニケーション能力に加えて、模倣する習癖、つまり他者への強い関心がホモサピエンスの特徴のようですが、このあたりDNA的にどう説明していくのかは、まだこれからの話のようですね。
この本は、古き良き時代の科学者の生き方が描かれていて、大変著者に共感を覚えました。読んだばかりでまとまりませんが、とりあえずの書評でした。
こんにちは。
面白そうな本ですね。比較的分かりやすそうかな。私は動物の進化にはとても興味があります。今はもう遺伝子を調べられる時代ですね。
ご紹介頂いてありがとう。図書館で探してみます。
Francesca様、コメントありがとうございます。
遺伝子のごく基礎的知識があれば、やや面倒なところも何とか通過できます。何より、著者の研究者としての生き方、人生観、仕事観がよくでていて、やや「人間くさい」ところも、読みやすく共感をおぼえる点でした。
そもそも、ホモサピエンスとネアンデルタール人が初めてであった場面を想像すると、なんだか楽しくなります。
ちなみに349ページ、1750円です。
Francesca様が読了されますように。ご感想、こっそりお教えいただけましたら幸甚です
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