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宮内泰介・藤林泰「かつお節と日本人」(岩波新書)2013/10/18初版
あとがきにもあるとおり、「かつお節と日本人」の二人の筆者は、この先行の2冊を意識されていたと思う。「バナナ」と「エビ」は見事な日本人論でもあったが、「かつお」はどうか、そんな興味を持って読みだした。
「かつお節と日本人」は、300年、4000キロの鰹節の時間と空間を遡っていくレポート。冒頭で、「かつお節」は今でこそ日本の伝統食と言われ昔から食べられていたと言われるが、実際一般の人が日常的に食べ始めたのは最近のこと。昭和でも初期は贈答用が中心だったと知らされちょっと驚く。焼津、沖縄そしてインドネシアへ広がっていくかつお節生産は、同時に日本による東南アジアの植民地化と太平洋戦争への道と重なり、多くの日本人かつお節関係者(漁師と工場労働者)は、興亡の歴史に巻きこまれていくのである。多くは沖縄の人たちだった。
戦後は、一般日本人の食傾向の変化にあわせ、かつお節は大きく需要を伸ばしていくことになる。特に花かつおのフレッシュパックがエポックになったようだ。東京のしにせ業者「にんべん」は江戸時代から続くかつお節の名店だが、その店主が「うちは事業ではなく、家業なので、品質維持が一番大事。スーパーのように価格を抑えることだけを考えているわけではない」と述べている箇所が印象的だった。
いい本だが、前記2冊ほどインパクトがないのは、「わかりやすい文明批判」がないからだと思う。かつお節は確かに他国と競合する食品ではないからね。
この本の一番の魅力は豊富に引用される市井の人の言葉だと思う。かつお節職人もいるし、ただの工場労働者もいる。中にはそのお手伝いに過ぎない人の言葉も含まれる。筆者らはこうしたごく普通の人たちの言葉を数多く引用しながら、かつお節の「時代」を見事に描きだしている。優れた庶民の歴史であり民俗学の本のようでもある。なにせみんな貧しい。裕福な人はだれも出てこない。
ちなみにかつお節の「うまみ」のことはなにも書いていないので、クッキング系の期待を持ってよまないほうがいい、と余計なアドバイス。
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