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イラストレーター兼エッセイストの内澤さんの、一言で言うと「乳癌闘病記」なのだが…抜群に面白い。
面白さは、スピード感のある文体と爽快な批評的精神、多分彼女自身のいさぎよい生き方による。癌はもう「隠喩としての病」ではなく、ありふれた病気なのだが、それでも「告知」という言葉があるように、「死の宣告」的メタファーを依然としてもつ「特別」な病気である。だから、慌てるし、落ち込むし、食べ物を変えようとするし、人生の整理も始めるし、宗教にも急に興味がでてくる。「余命何日」と言われてみたい。そうしたら準備を始められる。死ぬ準備である。
内澤さんのエッセイは、そういう話ではない。貧乏人がどうやって「安く」癌と戦うかという戦場ルポのようなもの。一介の兵士が愚痴、不満たらたら、泣き言一杯、でも元気で戦いの場に出かけるように。
術後、乳房再建について、こう書いている。
「そもそも自分の治療方針は、保険適用(と同じ予算)内でできることしかやらない、だったのだ。それはつまりこういうことだ。らしきものがつけばよし。」
乳がんは女性の病気である。女性性そのものに対する浸食なのか。お前なんかわかるわけないじゃんと内澤さんの呟きも聞こえなくはない。「らしきものがつけばよし」、男はコメントできないし、きっとしてはいけない。
文中、東京事変の「落日」に触れてあった。
術後、サハラ砂漠にテントを張り一日中月の出から月の入りまで見続けたという。
2011年講談社エッセイ賞受賞。
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