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「その女アレックス」ピエール・ルメートル(文春文庫)
450頁の長編だが、5時間ほどで読了。若い女性のかなり際どい誘拐監禁事件から始まるのだが、それはほとんどプロローグに過ぎない。「監禁」から抜け出すあたりがクライマックスと思ったけど、それは3部あるうちの最初の1部。物語は異様な展開から、時間を遡っていく。抜群に面白い。が、残酷シーンが苦手ならちょっと厳しいかも。映画化されるようだが、もっとエグくなるだろうから、見たいような見たくないような。かなり違うけど、レクター博士を思い出していた。今年の賞を総なめしただけのことはある。ミステリーというよりサスペンスだね。
「満願」米澤穂信(新潮社)
「文春」「このミス」など3賞の国内ベスト1。ついでに「山本周五郎賞」ももらったとか。米澤さん、初めて読んで息子に話をしたら、「知ってるよ、結構読んだよ」と言われ驚いた。若い人は知っているのか。6篇が収められた短編集。どれも淡々とした語り口で、最終行がどれも見事。上手い。でもとっても地味な事件、地味な登場人物、地味な文体。他の作品はどうなんだろうか。「柘榴」「万灯」がいい。
*以下、お正月に読んでいた本
「暗殺の年輪」藤沢周平(文春文庫)
yamarecoの友人に勧められ、藤沢周平を。40歳でデビューした藤沢、すでに手練でしたね。北斎と広重の葛藤を描いた「溟い海」。改めて北斎の「富嶽三十六景」の幾つかを見直す。老いた北斎、奇をてらう北斎、が、若い広重に嫉妬する。男の嫉妬の描きかたとその凄みにたじろいでしまう。
「…恐ろしいものをみるように、北斎は『東海道五十三次のうち蒲原』とある、その絵を見つめた。闇と、闇がもつ静けさが、その絵の背景だった。画面に雪が降っている。寝しずまった家にも、人が来、やがて人が歩み去ったあとにも、ひそひそと雪が降り続いて、やむ気配もない。その雪の音を聞いた、と北斎は思った。…」
こういう文章を書きたい。
直木賞をもらった「暗殺の年輪」、武家物というのか、一人の下級藩士が藩の中心人物を斬るまでの話。でてくる登場人物の的確なこと、わずかな凝縮した言葉だけで、輪郭が際立ってくる。この後、この藩士はどうなるのか、ちょっと不思議な読後感。
「ブラック企業」今野晴貴(文春新書)
日本を食いつぶす妖怪というサブタイトルだが、「残業代ゼロ」法案が通ってしまいそうな今なら、日本総ブラック化と言っていい時代になった。この本がでて数年しかたっていないのに…
気に食わない社員、無能(と判断した)な社員をやめさせることを仕事にしている人がいて、しかも自己都合でやめさせるように、徹底的に自己批判させ、ついには精神を病むまで追い込んでいく。それがもしかすると普通の会社の日常になってくるのかもしれない。終身雇用、年功序列は悪だという刷り込みがネットを通してどんどん一般化してくる。自己責任という言葉も恐ろしい程気軽に使われて。批判的な個人はたった一人でも徹底的につぶしにくる大企業とか、信じられない気持ち。
自分は無力であるが、少なくともここに挙げられている企業の製品、サービスは決して利用しないと決めた、ただそれだけのことなのだが、読んでよかったと思った次第。
「日本の樹木」舘野正樹(ちくまカラー新書)
只見から浅草岳を登った時、日本海側の林床には笹ではなくユキツバキが生えているということを知った。「ユキツバキは雪につぶされた状態で冬をやり過ごす。雪の下はせいぜい0度前後であり、しかも乾燥しない。そこは冬の植物にとっての天国なのである」なるほど。ブナは数年に一度一斉開花する。バイケイソウなどもそうだ。なぜか。筆者は捕食者飽食仮設を提示する。一斉開花によってブナ固有の捕食者を食べ尽くされないように種子を生き延びさせるというもの。興味深い。
筆者は植物学者、生態学者だが、数百枚ある写真は本人が自分で山に入り撮ってこられたもの。樹木だけでなく、木と森と山の美しい写真集にもなっている。図鑑ではないので、そういう利用はできません。
「九条どうでしょう」内田樹 他(ちくま文庫)
日本を守ってくれている米軍が攻撃を受けてもそれを助けることもできないような憲法はおかしい、他国の武力的威圧に屈しないためにも軍備は必要、そもそも戦勝国の押し付け憲法だ・・・などなど、こういう言葉にフラー、フラーっとしてしまう人がいるのでは。憲法など意識せずに暮らす方がよほど健康的なのだが、このままだといずれ憲法改正の国民投票があるかもしれない。自分は(旧来の)左翼でも(ネット)右翼でもない。どちらの言説にもある種の違和感を持っている。と同時にどちらの言説にも、もしかしたらそうかも、と頷いてしまうような薄弱な問題意識しかないかもしれない。そういう時、この本は結構よい「薬」になる。億劫でやっかいな問題を、4人の論者が別々の視点から語っている。「手垢のついた」ような議論はここにはない。意図的で誘導的な「嘘」もない。考える論点が明確でしかも新しい。「その時」が来るまでに読むべき本だし、「その時」が来たらもう一度読むべき本だと思った。
cheezeさん、多様なジャンルの本読みまくってますね
広い家の中が本だらけだったりして
「その女アレックス」はAmazonのレビューでも高評価で面白そうですね。無料サンプル試してみようと思います。
ミステリーは綾辻行人の館シリーズとか、東野圭吾の初期の作品にはまっていたことがあります
僕も本は溜まるばかりです。年末に中古のドキュメントスキャナと裁断機を手に入れて少しずつ電子化しはじめました。本棚がなくなると部屋が広くなるかもです
cheezeさんは「本はやっぱり紙じゃないとね。」と言いそうな気がしますが、いかがですか?
お返事おくれました、失礼いたしました
tooleさんは、なんというかデジタル化してますね、すっかり見透かされていますが、私はアナログのまま、こたつで寝転がって、眠くなると栞はさんで zzz みたいなのがいいです
ミステリーファンという訳でもないけど、話題になったものは読みたくなる、ミーハーだと思います。
山に行けない冬は、読書はかどりますね
今年もよろしくお願いします。
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