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明晰でバランスのとれたジャーナリスト池上彰さんと、「怪人」佐藤優さんの対談本だけど、佐藤さんメインのお話かな。なかなか刺激的で面白いが、微妙にエキセントリックなところも。でも嫌いではない。主に国際情勢のお話で、佐藤優さんといえばやはりロシア。ニュースではどうしてと思う、ウクライナとクリミアのロシア人の関係がすっきりわかる。イスラエルのモサドが暗殺用に使うドローン(無人ヘリ)の話は、先日のNHKの7時前の子供用ドローンの話題と合わせ、なかなか興味あり(ネットでみると5万円台で買えそう。)中国はダライラマが死ぬのを待っているとか、北朝鮮が残留日本人を数万人返すと言ったら日本としては「頼むから返さないで」と言うしかないとか、なかなかシュールな話で、話題豊かにあちらこちら。これって一種の陰謀論か、などと思ったり。グローバリズムと世界経済については得意分野ではないのかな、多くは語られない。一章をさいて、二人の新聞とウエブを中心とした「情報管理術」が読めるので、立ち読みでそこだけでもいいかも。
主に聞き役となった池上さんだが、この人の豊かな知識にも改めてびっくり。
「沈みゆく大国アメリカ」堤未果(集英社新書)★★★★
書店で見かけるとつい買ってしまう堤未果さん。いつも力の入ったルポである。今回初めてwikipediaで調べてみたら、なんとばばこういちさんの娘さんで、川田龍平さんの奥様だったのですね、びっくりというか、私の無知にびっくり。「貧困大国シリーズ」と同じく、アメリカの現状を追ったもので今回は「オバマケアとアメリカの医療」がテーマ。
ごくごく簡単に言えば、日本のような国民皆保険を弱者のために提供しようとしたオバマケアが、結局はウオール街の投資家のドル箱商品になってしまっているというお話。それ以前にあった中間層向けの中レベルの医療保険商品がなくなったり(そもそも保険会社自体が統合され寡占状態に)、高額化したりし、医療費のために自己破産する人が増えているという。最弱者向けのメディケードでは使える薬も診療する病名も限定され、さらに医師の事務的負担が極めて高いため、オバマケアネットワークに入らない医師、病院が増えている(つまり患者は保険が使えない)。
医療訴訟がどんどん増え、医師が入る保険の掛け金も膨大で、誠実な医師ほどワーキングプア状態になっているという。さらに、薬。薬価は国が関与せず、製薬会社が決める。こちらも寡占状態なので、恐ろしい金額になっている。ここでも圧倒的な格差が生まれ始めている。これが今のアメリカの医療事情である。これがもしかしたら近い将来の日本の医療になるかも。
WHOが絶賛し、世界の40カ国が見習っているという日本の「国民皆保険制度」。特区とかであっても決して外資を招かないようにしてほしいもの。なにしろ日本は40兆円の巨大市場なのです。これも当然TPPの対象です。
「資本主義の終焉と歴史の危機」水野和夫(集英社新書)★★★★★
読み出したら止まらなくなった。アベノミクスとかグローバリゼーションとか、もっと身近にはなぜ賃金が上がらないのか、なぜ派遣法が強化されるのか、すっきりわかった。その意味では、爽快!なんだけど、やっぱり未来は明るくない。
今の日本、ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレ、これって資本主義のどん詰まりの状況だよね。どうしてこうなったかって、もう利潤をかせげるはずの周辺(フロンティア)がなくなりつつあるから。外にある南北格差が縮まっているのだから、うま味も減少し、では内なる南北格差を作ってそこから搾取しようということで、労働者の賃金を抑え、首にしやすくし、中間層を破壊していくという流れがあるという。先進国の貧困はもうどこにでも見られる現象です。
何が何でも「経済成長」を目指す方向では、もうもたないというお話。結論としてゼロ成長の定常状態を維持していこうという考え方は、あまり魅力的とは言えないけど、原発のような高リスクでないエネルギーの開発など画期的な技術革新でもない限り、その穏やかな方向で結構なのでは、と思った次第。とりあえずTPPだけは勘弁してほしい。
日本の経済と政治のあり方に関心や疑問をお持ちの方は、ぜひご一読を勧めます。
「地方消滅」増田寛也(中公新書)★★★★
少子高齢化と言われたのはずいぶん昔からなのだけど、日本はすでに人口減少社会になってしまった。地方から若者が、子育て環境のない東京へ相変わらず流入し、子供自体がうまれにくい。地方は若者どころか、高齢者さえも減り始める。高齢者は大都市では増え続ける。そしてやがては…
なかなか衝撃的なレポート、というか薄々感じていたことを詳細なデータで現実のものとして見せてもらった感じがした。
筆者はいくつかの提言をしているのだが、地方中核都市の整備によりそこを人口のダムにするという考え方とさらにそれより小さいコンパクトシティという考え方。さらに少子化対策についても具体的提言がなされ、若い女性の就業のあり方はおそらく政策に反映されていくと思われる。
幾つかの対談が付録されている。
中でも、「里山資本主義」「デフレの正体」の藻谷さんとの対談が面白い。地方で一番の大きいキャッシュフローは実は年金で、年金、公共事業、自前産業が三分の一ずつとか。高齢者が減るということは恐ろしいことなのだ。増田さん以上に藻谷さんの「具体例」と知識はすごいなあ。小泉進次郎さんと宮城女川町の須田町長との対話では、小泉さんの政治家としての資質に少し期待が持てたのが収穫。
併せて、「地方消滅の罠」山下祐介(ちくま新書)も読んだ。★★★
こちらは、yoneyamaさんがすでに書評を書かれているので、感想だけ。
増田寛也さんの「地方消滅」は「2040年までに全市町村の半分が消滅する」「全ては救えない」などとマスコミでもとりあげられ、なかなかショッキングだが、これに対する反論として書かれた本である。増田レポートの、地方中核都市を作り、雇用を確保して人口流出を食い止めるという「人口ダム」理論も、結局のところ「選択と集中」という強者(もしくは弱肉強食の)論理、切り捨ての論理につながっていくのでは、という危惧を山下さんは示される。
今あるストックを活かしつつ、地方と都市部への複数所属を認めていくことで、都市と地方を寸断させない、など山下さんの主張はあるが、やはり問題自体が大きすぎる。地方自治体が一番深刻に受け止め対策を考えておられるのだろうが、それは他所を出し抜いて自分とこだけが、ということではないはず。
自分の年齢になれば、地方にいる魅力はそれなりにわかるのだが、若い方が都市に憧れることはある意味で必然。高齢化が進み地方が廃れるのも当然。地方分権など格差助長しかありえず歓迎する自治体の方が少ないだろう。地方はお荷物なのか。だが、海山田園があっての都市生活だということも誰もがわかっているはず。どうやって海山田畑を維持していくか、縮小していく地方でも、少なくとも現在のインフラをどうやって維持していくか、そこにお金を注ぎ込むことは無駄ではないはず。
「はず」が多くなったけどこれは希望的観測であって、結局は裏切られ、静かに諦めていくしかないのだろうな。
ローカルな話題だけど、岩手県一関市の「国際リニアコライダー」について、筆者は環境破壊、利権などの観点も示されている。マスコミではこれまで明るい話題という扱いだったのだけど(自分にとって)新しい視点だと思った。
「家めしの王道」林望(角川ssc新書)★★
クックパッドは一番よく見るサイト。美味しそうな写真もあるし、せっかくなのに絵が残念というものも。晩ご飯作りには欠かせない。クックパッドはテクニカルでシンプルでバラエティ豊かで、余計な「薀蓄」があまりないのも、スピーディに読めていい…のだけど、たまに誰かの料理する人の呟きを聞いてみたい気も。たまたま手にとったリンボー先生の本、寿司飯の作り方などチラチラと。ひとしきり手順を書いて:
「あの寿司飯を切っているときの匂いのめでたさというものは・・・
酢飯切れば雛に母のいますごと 宇虚人 」
いやあ、まあ好き嫌いはあるでしょうが、面白そうな料理に関心があって、気取った薀蓄はさらりと読み流せる人はちょっと読んでみてもいい。
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以上、長文で、かつ理解力不足により間違った内容紹介になっているかもしれない。その際は笑ってお許しあれ。
こんばんわ。新年早々沢山読まれましたね!
私はなんだか毎日忙しくて文庫本もなかなか読み進めていません
ちょっと難しそうなテーマの本が並びましたが
最後にリンボー先生が出て来てほっとしました
sakusakuさん、おはようございます。コメントありがとうございます。
他の方の日記から浮いてしまっているのは承知
料理本はたくさんありすぎて、どれが面白いかわからないのです。昔々の伊丹十三さんの本みたいに、目から鱗というお勧めがありましたら教えてくださいね
チーズさん
またまた気になっていたけどまだ読んでいない新書本紹介ありがとうございます。おいおい後追いします。堤未果さん、そうなんですか、僕も無知族でした。
料理本といえば20年ほど前に強い影響を受けて今も影響が続いているのが、魚柄仁之助さんの「台所リストラ術」(農文協)なんですが、久しぶりに見てみるとその後たくさん出ていてどれがお勧めかわかりません。うんちくたっぷり、手順はすっきりの簡単料理ばかりです。
あと、古いですが丸元 淑生氏の本も影響受けました。「システム自炊法」・・あ、アマゾンの古本で一円だ。「クックブック」は8円でした。安くなってるけどいい本でしたよ。
魚柄さん、存じ上げませんでした。丸元さんは読んだことがあるような。どちらも文庫になっていたみたいですね。先ほど本屋さんに行ったら、見当たらず。e-honで探してみますね
「資本主義の終焉…」は未読でしたら、暇を見つけてお読みください。なかなかいい本です。内田さんも推薦してましたよ
水野和夫の「資本主義の終焉と歴史の危機」は僕もこの正月に読んだばかりでした。何か根本的に世界を変えられるようなブレイクスルーでも起きない限り、本書に書かれていることは現実のものとなりそうですね。(いや気づいていないだけでもうそうなっているのかも)この国の最優先事項は(国民一人ひとりの"幸福"などでは決してなく)、"経済成長"ですからね。
地球の自転運動を利用して発電とかできないのかしら
僕はこの本を読んだあと、橘玲の「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」、「臆病者のための億万長者入門」を読み終えたところでした。
そういえばcheezeさん、トマ・ピケティ氏の「21世紀の資本」は読まれてませんか?cheezeさんのレビュー期待しちゃいます
tooleさん、コメントありがとうございます。tooleさんもお読みでしたか。わかりやすい本でした。そして多分その通りなのだと思います。
>地球の自転運動を利用して発電
それ、ぜひお願いします
話題のピケティは気になっているんですが、文庫か新書になってからね
ほかの二冊も今度本屋さんでチェックしてみますね。
殺伐とした本を続けて読んでいたので、いまはもう少ししっとりとしたものを仕事の合間に読んでいます。こちらもなかなかいい本です。いい本を読むとちょっと何か書いてみたくなるので、悪い癖と知りつつ日記に投稿しそうです
秋田のお天気はなかなかですね tooleさんはお元気なのかな。
こちらも週末はいまひとつなので、静かに本を読んだりご飯作ったりして暮らしています
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