「老人喰い」鈴木大介(ちくま新書)
「振り込め詐欺」をとりあげた、ルポルタージュの力作。同著者の「最貧困女子」も読まれている。
読みだして間もなく、若者詐欺集団の人材確保(リクルート)と初任研修。ちょっとブラックな企業ならどこにでもあるような光景(想像ですけど)。厳しくて、でも上手くスケジュール化され、アメとムチも用意される。研修を終えたものは各個別の集団に配属される。電話をかけるもの(現場店舗)、金を受け取るもの(集金店舗)、電話を用意するもの(道具屋)、ターゲットの電話番号とプライベート情報を調べるもの(名簿屋)個々の組織を立ち上げるまとめ役(番頭)、その資金を提供するもの(金主)と呼ばれる人間。詐欺集団はお互いを知らない。だから末端がつかまっても上がつかまることはまずない。
筆者はこの詐欺犯罪の現代的特徴について説明する。
「高齢者を狙う犯罪とは、高齢者が弱者だから、そこにつけこむ、というものではない。圧倒的経済弱者である若者たちが、圧倒的経済強者である高齢者に向ける刃なのだ。」
本当の「経済強者」は誰なのかということは別の話として。今の時代の構造的な矛盾が生み出す犯罪だとしたら、この詐欺事件、根絶することは多分ないだろう。
力の入ったルポで、極めて面白い。被害者にならないように、という本ではないが、「敵を知る」という意味では、(不安な方には)お勧めかも。「なぜあんな詐欺にひっかっかるのか」と怒りと同時に脱力を覚える人も、納得すると思う。「名簿屋」の情報、実は凄いのです。
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「戦後生まれの俳人たち」宇多喜代子(毎日新聞社)
ふとした折に開く本。どこを読むというより、開いたそのページから読み始める。109名の現代俳人の一人10句を2ページで紹介する。でも、ただの紹介、アンソロジーではない。宇多さんのわずか1,2行の強烈な批評が付いている。極めて質の高い俳句と、感度抜群の批評。なかなかの名作だと思う。
一部紹介(★は私の感想)
山桜にんげんがきて穴を掘る 奥坂まや
「山桜に集うにんげん。どれもごくありふれた光景であるのに、「穴を掘る」ことでこの景はおそろしい景に転換する。」★いやいや怖い俳句です。歴史をずっと遡っていく、人間の営みと一緒に。
花人の濁流となる上野かな 木暮陶句郎
「満開の桜に大勢の花見衆が繰り出し、大賑わいを呈している。そんな上野の春の様子を言い尽くした句だ。」★動きがあって賑やかで、これぞ桜の季節の上野って感じ。
冬銀河かくもしづかに子の宿る 仙田洋子
「子を宿すということを冷静にとらえた稀有な作として、初見時に覚え知った句である。とりたてて神秘性をいうのでもなく、現実の出来事として割り切っているのでもなく、それでいて天体をも抱きこむ大きな母性の中心に「子」という未生の命を保護している句だ。」★素晴らしい俳句。静寂と広大さと命の不思議にあふれていて、優しい。
子のことばあふれて春の川となり 明隅礼子
「あふれているのは子への思い。この思いは絶対といっていいくらい、「春の川」以外の季節の川にはならない。いい句だ。」★もう孫のことばだけど。命は明るいね。
宇多喜代子さん、私より18歳年上で、現代俳句協会前会長。結社的な印象の強い俳句の世界を広げて多くの句に出会おうとする志、素晴らしいと思う。
名句の数々と的確な短評、句はどう読みとくのかの小さな指標。でも句作の助けとするには、あまりにもレベルが高いかも。
その道のプロ集団は山レコでcheezeさんのプロフィール見なくても、62歳とわかっちゃうわけですね〜
cheeze家に不審な電話かけてみたらどんなリアクションするのか、試してみたくなりました
詐欺集団はお互いを知らない、というのがミソですかね。インターネット時代だからこそ、薄く広い同じ志向性のある集団が簡単に集まるんでしょうね。この山レコみたいに
tooleさん、おはようございます。老人喰いならぬ、鯨喰いに牡鹿半島のさきっぽに
寂しがり屋の老人にはこれ、というマニュアルがちゃんとあるみたいですよ。cheeze家にかけてくるには、相当の覚悟でお願いします、お話長いですよ
ルポでは血のにじむような研修
「名簿屋」がキーマンだそうです。勿論、個人情報流失事件が多いに関係あります。そこからどの程度名簿をリファインして、質の高い被害者名簿を作り上げるか。例えば、押しに弱いとか暴力的言辞に弱いとか、そこまでの名簿だと超高額で取引される。名簿屋と詐欺集団は全然別の組織とのこと。
力のあるルポライターで、この手のフィールドワークがちゃんとできる方かな。面白い本です。研究なさってください
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