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一度診た患者だと勝手がわかっている。刃こぼれがひどい姿から研ぎ直して、どの砥石が合うか、どこまで研ぎ目を細かくするか、大体の流れが想像できてこちらも楽だ。おかえりなさいお疲れさまと声を掛ける気分だ。
今回は作業前から謝礼の饅頭をもらっていた。本物の饅頭で、箱の中に札束が有る訳ではない。先日の取引先の方の仕事でも過分の謝礼を得ていて、最近は報酬が嬉しく感じられる。相手が満足していると思えてうれしいのだ。
もっとも、社内にYちゃんが居て目を光らせているということも有る。「Jimさんにタダで研いでもらう気かてめえこの野郎ナメてんのか」お目付け役がいては若先輩もやりにくそうだ。せめて以前に増して良い仕上げをして、若先輩を癒してあげる必要がある。
刃こぼれを消すのに荒砥石を二種類、2時間はかかった。500番の砥石で研ぎ傷をできるだけ消してから、天然砥石の大村砥をかける。前回と一緒で、ゆるい焼き具合の鋼に合わせたつもり。しばらく刃先を撫でて、ふとひらめいて、次に天草砥石(中砥石)をかけて見た。かなり喰い付きの良い実戦的な刃になった(写真��)。心なしか、鋼の味が良いところまで、研ぎ減らせた感じがした。使い込むことは研ぎより大切なのかも知れない。
若先輩は日本人離れした風貌で、通称ロシア軍人、セルゲイとかユーリなどとからかわれている。体つきも大きくて、ヒョードルにそっくりだったりする。
ロシアと聞けば、悲劇的な現状が有るけれども、報道されるニュースは痛ましい物が多い。戦時に傷つくのは戦端に居る若い兵士や民間人ばかりで、遠国の騒ぎは何の救いに成っていないのが心苦しい。
研ぎの最中、無心になれないことも有る。登山中もまたしかり。
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