阿弥陀岳-御小屋山 〜雨の御小屋尾根〜
- GPS
- 07:29
- 距離
- 14.6km
- 登り
- 1,407m
- 下り
- 1,393m
コースタイム
- 山行
- 2:47
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 2:47
天候 | 15日 晴れ時々曇り 16日 雨 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2019年09月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
16日 美濃戸口発10:20(1,000円)茅野駅着10:50、発11:39(あずさ14号) |
コース状況/ 危険箇所等 |
阿弥陀岳直下の岩稜帯、3点支持で確実に登ってゆく。 西の肩(摩利支天)の岩場も同様に緊張を強いられるが、ガスのせいか高度感は無かった。 西の肩の下り、足がかりの少ない1枚スラブの下りでは、どうしてもロープの世話になる。 |
写真
感想
十分に癒された二日間だった。穏やかで趣のある道、夕陽に映える山々、静かで快適な山小屋、適度な緊張感を与えてくれた岩場、何もかもが多忙な毎日を忘れさせてくれた。八ヶ岳の魅力は、どんなときも期待を裏切らないことだ。こんどはどこを歩こうか。
茅野駅に着くまで「アフターダーク」を読んでいた。ゆっくりと本を開くことが罪に思えるほど時間を惜しむ毎日だった。本を閉じる時、今回の山行が濃密な時間をもたらしてくれることは必然と感じた。
10時過ぎに美濃戸口を発った。遅い出発だ。柔らかな日差しの下、歩きながら態勢を整える。もう随分時間が経つのだろうか。美濃戸への道は確実な車道へと変貌を遂げていた。
この時間からすれ違う人々は、稜線から美しいご来光を眺められたに違いない。羨ましく、その清々しい表情を見つめた。関東の南には突然、熱帯低気圧が出現している。1週間前、珍しく3サイト揃う晴天予報を見て、「台風よ、来れるものなら来なさい」、そう口にしたこと、十分に後悔していた。
南沢の道、急登無く、北八ヶ岳のような趣に満ちる。息は乱れず、疲れを感じず、休むことなく歩を進められた。3時間半の行程を2時間45分、小屋には午後1時前に到着した。赤岳の往復をしてしまおうか。40年前の失敗が脳裏を過ぎる。明日も晴れることを祈りながら、行者ラーメンを注文した。
受付を済まし、館内の案内を受けた。「この区画を自由にお使いください」スタッフの説明を聞き、嬉しさが込み上げてくるのを感じた。3人分のスペースの真ん中に、新しく清潔な布団を敷いた。通路部分にはこたつの用意もされている。何からしようか、贅沢な時間の始まりだった。
2階のテラスから赤岳を見上げる。生ビールを片手に発せられる声が其処此処に響き渡る。小屋の前はいつまでも大盛況だ。夜行ではなく、3時間足らずの歩行。さすがに睡魔は訪れない。しばらく小屋の周りを散策した後、5時間前に閉じた本を開いた。
夕食後、何気なく外に出ると、夕陽の存在を識るその瞬間に出会えた。それは、赤岳から北へと延びる稜線を染め上げ、満ち足りた心を存分に感じさせてくれた。茜色の余韻に浸りながら、明日の好天を願い、心地よい夜を迎えた。
夜半、激しい風の音と雨音に目を覚まされた。もう崩れたのか、記憶に新しい夏の日を思い出す。今回は雨具を仕舞っておきたい。夢の中の出来事と片づけ、目を閉じた。
宿泊客30名のうち、20名ほどが個室にいるためか、5時になっても物音ひとつしない。アラームを忘れていたら寝過ごすところだった。洗面所に行き、雨の匂いを感じた。やはり切ない願いだったのか。霧に包まれた山頂に独り佇む姿を思い浮かべた。
意を決し、小屋を後にする。雨は止んでいる。今のうちにできるだけ高度を上げておこう。文三郎尾根への分岐点で、準備体操をしながら赤岳の誘惑を断ち切った。予定どおり阿弥陀岳でひと時を過ごし、御小屋尾根を歩くのだ。そして予定どおりのバスと特急列車で帰ろう。待ち受ける壁と西の肩に向かって歩き始めた。
中岳のコルまでは標高差およそ350メートル、約1時間の行程である。昨日同様、ゆっくりと足を運んだ。霧雨は、高度を上げるに連れその量を増してゆく。結局、面倒なので雨具を装着せずに歩き通してしまったが、甚だ危険な行為であると反省している。
阿弥陀岳の「壁」は聞きしに勝る急勾配で、雨に濡れた岩場を慎重に登った。今回はとことん軽量化を図ったため、背の荷を意識せず急登を楽しむことができる。鎖やロープはふんだんに有り、手足の置場に悩むこともなかった。コルから24分後、誰もいない山頂に立った。
何も見えず、ただ秋雨がしとしと降っていた。写真を2枚撮り、ペットボトルの中のジュースを飲み干す間に、ご夫婦らしき方が登って来られた。お二人は、何度も登った山のように、標柱を背に写真を1枚撮った後すぐに出発された。
風が少し出てきた。長い滞在は必要ない。迷いなく山頂を後にした。そして出発前、最も意識してきた摩利支天の岩場を通過する時が訪れる。短いハシゴを登り、岩を越えてゆく。恐らく晴天であれば、ある程度の高度感が得られそうな場所だった。紛らわしい中央稜への踏み跡を分けて降下する。岩場が落ち着くと、急なガレ場が現れた。こちらの方が余程歩き辛く、雨による滑りに神経をすり減らされる。たまらずストックを取り出した。
相変わらず雨は静かに降っており、樹間から覗く白い緞帳は厚く、何物も見せてはくれない。樹林帯に入り、勾配が大分緩くなった頃、不動清水分岐に到着した。時に8時15分、予定よりも1時間早かった。こうなれば、午前中のバスに乗車してしまおう。少しピッチを上げることにした。
静かで快適な尾根道を進む。いつの間にか雨は上がっていた。この先高度を下げるに連れ、天候の回復を感じ始めるのだろう。少しだけ山頂の様子が気になった。標高2136メートルの御小屋山は、木々に囲まれ眺望は叶わないが、昂揚を鎮めるのに十分な場所だった。残る2時間の道のりを確認した。
体力は有り余っており、些か退屈だったが、緩やかな坂を下るうちに様々な課題が思い浮かぶようになった。もう少しだけここにいたい。できるだけ苔むす情景に気を集中させた。
しかし、ほどなく舗装路が目前に現れる。別荘地の上端部に到達してしまった。美濃戸口を最初に出発するバスに乗れそうな時間だった。前方に広がりつつある青空を望みながら楽しかった二日間を思い返し、感謝した。来週は晴れることを祈りながら。
初めてコメントします。いつも楽しく読ませていただいています。そして、ご一緒に山旅をさせていただいているような気分です。ありがとうございます。今後も楽しみにしております。
roadwalker様
コメントをありがとうございます。
私こそフォローさせていただいて、毎回楽しく拝見しております。
roadwalker様からは4年前の冬にもコメントをいただいているのですよ。
学生の遭難事故のあった頃で、やりきれない気持ちで臨んだ山行記録に対して温かいコメントをいただきました。
ありがとうございました。
日頃あまりコメントを投稿しないものですから、こちらからはせずにすみません。
これからも安全で楽しい山行であることを祈念しております。
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