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Yamareco

記録ID: 2300433
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
槍・穂高・乗鞍

笠ヶ岳 (過去レコです)。

2009年10月01日(木) 〜 2009年10月03日(土)
 - 拍手
onisan その他1人
GPS
--:--
距離
28.7km
登り
3,869m
下り
2,121m
天候 1日目 雨。
2日目 雨のち晴れ。
3日目 晴れ。
過去天気図(気象庁) 2009年10月の天気図
アクセス
利用交通機関:
自家用車
 新穂高から新穂高へ。
コース状況/
危険箇所等
 北アルプスです、それなりに。
新穂高から。
2009年10月02日 06:41撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
2
10/2 6:41
新穂高から。
小池新道。
2009年10月02日 09:17撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
10/2 9:17
小池新道。
2009年10月02日 10:46撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
1
10/2 10:46
2009年10月02日 12:21撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
1
10/2 12:21
鏡平山荘。
2009年10月02日 18:23撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
10/2 18:23
鏡平山荘。
翌朝も雨。
2009年10月03日 07:04撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
10/3 7:04
翌朝も雨。
チングルマの草紅葉。
2009年10月03日 08:53撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
1
10/3 8:53
チングルマの草紅葉。
2009年10月03日 10:25撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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10/3 10:25
2009年10月03日 10:25撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
10/3 10:25
2009年10月03日 11:04撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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10/3 11:04
2009年10月03日 11:34撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
1
10/3 11:34
笠ヶ岳山荘。
2009年10月03日 13:25撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
1
10/3 13:25
笠ヶ岳山荘。
笠ヶ岳山頂はブロッケンが出やすい。
2009年10月03日 14:32撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
3
10/3 14:32
笠ヶ岳山頂はブロッケンが出やすい。
2009年10月03日 14:50撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
10/3 14:50
中秋の名月。
2009年10月03日 17:26撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
1
10/3 17:26
中秋の名月。
2009年10月03日 17:54撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
3
10/3 17:54
翌朝、ご来迎。
2009年10月04日 05:46撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
2
10/4 5:46
翌朝、ご来迎。
2009年10月04日 10:25撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
10/4 10:25
2009年10月04日 11:29撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
10/4 11:29
無事、帰り着きました。
2009年10月04日 12:18撮影 by  uT8000,ST8000 , OLYMPUS IMAGING CORP.
10/4 12:18
無事、帰り着きました。

感想

09年10月最初の週末、涸沢で紅葉を見、奥穂に登ろうと計画した。涸沢小屋に予約を入れると、「今年の紅葉は早く、この日は3人で布団一枚の状況になる」ということなので、予定を変更し槍ヶ岳に登ることにした。10月1日木曜日、仕事を終えてから新穂高に向かい、駐車場で車中泊。翌日2日金曜日は早朝から小池新道を登り双六小屋で泊まる。3日土曜日に西鎌尾根から槍ヶ岳に登り槍ヶ岳山荘泊まり、4日日曜日に新穂高まで飛騨沢を下るという計画を立てた。秋雨前線が本州南岸に停滞し雨の日が続き、天気予報では2日、3日は雨、4日は晴れるとのことである。1日夜7時に美濃ICから東海北陸道を走る。11時前に新穂高の無料駐車場に着き、一番奥の駐車スペースに車を停める。駐車場にテントを張っている人や、車の中で寝ている人など、ここで一夜を明かそうとする人たちが結構いる。持参の布団と毛布を敷き、クーラーボックスから缶ビールを取り出し、出発前に作ってきたソーセージとタマゴ炒めをつまみに晩酌。月の光をタオルで遮って眠りに就く。
 朝5時に目を覚まし、お湯を沸かしてワンタンスープとパン、そして食後のコーヒー。歯磨きも済ませ仕度をする。天気予報は雨、雨用の帽子を冠り、ザックカバーだけはするが、カッパは着ず。駐車場から10分ほど歩いて新穂高のバスターミナルへ行き、ここで洗面とトイレ。雨は降っていないが、これから向かう先の山々は雲に覆われている。7時4分、ホテルニューホタカの向こう、閉じられたゲートの横から林道に入る。この道を通るのは6回目、いつ見ても味気ない砂防ダムが連なる穴毛谷、その上にクリヤの頭を仰ぎ見ながら色づき始めた林道を歩く。汗も出始め長袖シャツを脱ぎ、Tシャツ一枚になる。間もなく、ポツポツと小雨が降り出すがかまわず進む。左俣谷を右岸に移り、右手にヘリの荷揚げ場、左手に笠新道の登山口をやり過ごす頃になると雨足も強くなって来た。わさび平小屋で雨宿りをしていると、おじさんが話しかけてくる。おじさんは、「双六の巻き道を少し入ったところの紅葉が綺麗だったので見に行くと良い」と教えてくれるが、私の目的地は槍ヶ岳、そんな所へ行くつもりは全くない。わさび平小屋を出ると本格的な雨となり、道端でカッパ上下を取り出して着込む。ブナ林の中の道、雨に濡れて重くなった葉っぱが、ヒラヒラと舞い落ちる。奥丸山との分岐、林道から分かれて河原に下り、そこから石畳みの小池新道に入る。登るにつれ木々は色づきを増し、秋の雰囲気が漂うよってくる。登りの連続、カッパの中は汗だらけ、雨も小降りになりカッパを脱ぎザックに収める。が、15分もすると雨は強くなり、カッパを取り出して着る。するとまた小雨、カッパを脱ぐ。と、また雨、カッパを着たり脱いだり大忙し。登り続けてほんの少しの下り、秩父沢を渡ってまた登り。10時46分、イタドリが原に着く。今が盛りの紅葉、イタドりが原の草木だけでなく、見える範囲の山々は錦繍に染まり、晴れていればさぞかし綺麗だろう。雨の中、登りが続き、もう脱いだり着たりはせず着っぱなし。シシウドが原の登りは直登路が閉鎖されており、右手のジグザグ道を登る。シシウドが原の登りはシンドかった記憶があるが、この道は楽チン。登り切ったところのベンチ、水を払って腰をかけひと休み。天気予報では今日は小降りで、明日が本降りとのことであるが、すでに本降り。明日これ以上降れば、とても槍ヶ岳には登れまい。前回も雨だったが、その時槍ヶ岳山荘の従業員が、飛騨側は増水のため渡れないので上高地に下るようにと云っていたのを思い出し、たとえ槍ヶ岳に登れても下りてくることが出来ないのではと不安がよぎる。今日は鏡平山荘に泊まり、明日はそのまま下山して新穂高温泉にでも泊まろうかと、意気消沈。男女二人連れが登ってきて、しばらく立ったまま休んで先に登って行く。こうなったらあわてる必要もないが、いつまでも休んでいるわけにもいかないので出発。勢いよく水が流れ落ち、沢と化した登山道、岩を伝って登る。ナナカマドの赤が映え、黄味を帯びた柔らかな赤のカエデがひと息つかせてくれる。クマの踊り場も過ぎ、石畳の登山道、前方には空が開け、間もなく木道が現れて鏡池に到着。池の周りは紅葉真っ盛り、でも、池面には逆さ穂高は無く、ただ雨粒が跳ねているだけ。よく見ると、池面に落ちた雨粒は粒のまま沈み、また浮かび上がってくる。凄い表面張力、これは気圧の関係なのだろうか、しばらく眺めているが理解が出来ない。12時30分、鏡平山荘に到着。急に風も強くなり、双六小屋まで行く元気はもうない。玄関を開けると、中にいた人達が、「寒〜い」と云う。聞くと、これから下って帰ると云う。小屋のお姉さんが出てきたので、「明日の天気はどうか?」と尋ねると、「わからない」。天気が良くなりそうであれば双六まで行こうと考えていたが、もうこれで決定、今日は鏡平山荘に泊まることにする。手続きを済ませ、お姉さんに双六小屋にキャンセルを入れてもらうよう頼む。カッパとザックカバーを水切り場に掛け、部屋に案内される。今回は本館の50人ほどが入れる部屋で、奥の下段、布団一枚を与えられる。シシウドが原でわたしを追い抜いていった二人組がお向いさんで、今のところこの広い部屋にいるのはこの3人だけ。下着を着替え、身体を拭き、濡れたシャツやチョッキ、タオルを乾燥室に掛ける。食堂兼談話室で生ビールを飲み、それだけでは足りず、持参のウイスキーを飲みながら濡れたズボンを燈油ストーブで乾かす。することが無いので、ズボンが乾いたところで部屋に戻り、3時前にお昼寝。寝ている間におじさん一人とおばさん二人のパーティーがやってきて、これで全部で6人となる。5時半にお姉さんが、「夕食ですよ」、と呼びに来る。布団から抜け出して食堂へ行くと、用意された食器は6人分だけ。今晩の宿泊者はこの6人だけのようだ。生ビールを飲みながら、山小屋にしては豪勢な夕食を食べ終わると、もう何もすることが無い。槍ヶ岳はもう断念したが、地図を開いて明日はどうしようかと思案する。取りあえず槍ヶ岳山荘にキャンセルの電話を入れる。そうだ、笠ヶ岳にリベンジしよう、笠新道からしか登ったことがないし、もし明日小降りになれば弓折岳から笠ヶ岳に登ろうということにした。部屋に戻って布団にもぐり込み、嵐の吹き捲る音を聞きながらいつしか眠りに着いた。昼寝もしっかり、夜も早くから、それにしても良く眠れるもんだ。
 翌朝は5時過ぎに起床、たっぷり眠って目覚めは良い。雨の音も風の音も止んでいる。これなら笠ヶ岳へは登れそうだ。5時半から朝食。お昼弁当は頼んでないので、たっぷりあるおかずを全て平らげ、ご飯もお代わりして満腹にする。玄関を開けて外の様子を窺うと、再び雨が降り出している。散らばった荷物を整理しザックに詰め、スパッツを着け、カッパを着込む。7時5分、6人の中ではわたしが最初、小屋のアンちゃんに見送られて鏡平山荘を出発。池にかけられた小さい木橋を渡り、登山道に入る。雨足が思ったより強く、立ち止まってカッパのフードを被ろうとしていると、お向いさんの二人連れが追い越して行く。彼らは槍ヶ岳まで行こうと云っていたが、連れの女性はやる気がなさそうで、ちょっと無理のよう。もたもたしていると、今度は3人組もやって来る。こちらはわたしと同じく笠ヶ岳に行くと云っている。またお会いしましょうと云って3人組を先にやる。鏡平山荘から笠ヶ岳に登るのは、どうやらわたしとこの3人だけのようである。樹林帯を抜けトラバース気味に大きく右に曲がり、ちょっと急登になった辺りで2人組と3人組が休んでいる。これを追い抜いて先に進み、登りついたところが弓折乗越。小屋から1時間弱、ここでひと休みしていると、まず2人組のうちの男がやってきて、そのまま双六方面に登る。ついでその片割れの女がやってきて、両手を袖の中に入れ、やる気がなさそうに乗越でぶらぶらしている。この二人、どういうカップルだろうかと興味がそそられる。そして3人組、おじさんは瀬戸から、おばさん二人は尾張旭から来たと云う。おじさんは年季の入ったピッケルを持っている。もう40年使っていると云うヴェテラン。3人組は少し休んだだけで弓折岳に向かう。今日はたっぷり時間がある、慌てることは何も無い。ゆっくり休んでからわたしも出発。5分ほどで弓折岳に着く。T字路で本当の山頂はもう少し奥のようであるが、そのまま下りにかかる。行く手に大ノマ岳が待ち受けているが、どんどん急な下りが続く。大ノマ乗越を知らないうちに通り過ぎ、いつの間にか大ノマ岳への登りにかかっている。チングルマの草紅葉、濃い赤褐色の葉が雨に濡れてつやつや光っている。何の草だろう、長い茎がしなだれ、その赤みがかった茎に露の玉がびっしり連なって垂れ下がり、ひかり輝いている。自然の成せる業に感動し、心が洗われる。大ノマ岳を巻いて登る登山道、少し広まった所でひと休み。雨も止んだようでカッパの上着を脱ぎ、ザックに収める。わたしは長袖シャツも脱ぎ、Tシャツ一枚となる。大ノマ岳からの下り、目指す笠ヶ岳も見え始め、右にゆるく曲がると左下が切れ落ちている狭い道。一気に展望が開け、北の尾根から笠ヶ岳へ続く稜線が一望のもとに見渡せる。笠ヶ岳から左俣谷に落ちる山の端は45度の急角度、明日はあそこを下るんだがちょっとしんどそうだな。左俣谷、右俣谷を雲海が覆い、二つの谷の間から中崎尾根とそれから連なる奥丸山が頭を出している。左下がざっくりと切れ落ち、岩が重なる道を、なるべく下を見ないようにして慎重に下る。眼前には谷を隔てて切り立った荒々しい岸壁がそそり立ち、一層険しさを醸し出している。狭い道を下り終え、右に少し回りながら登ると、下に秩父平が見える。10時に秩父平に到着し小休止。抜きつ抜かれつしていた3人組がおりてきてそのまま登って行く。見上げればカールが広がり、稜線に向かって登山道がジグザグに続いている。しばらく休んで登り始めるとすぐに3人組が休んでいて、弁当をひろげている。これをやり過ごし、ゆっくりとカールを登る。途中、振り返ると、雲海の上に穂高の峰々が黒々と浮かんでいる。西穂から北鎌尾根まで、白い雲をバックにギザギザの稜線が立ちはだかっている。ひと頑張りして岩ゴロゴロの道を登り、カールの稜線に達すると北側に黒部五郎も現れる。南側は笠ヶ岳に続く稜線から、ハイマツで被われた緑の山肌が、右手にゆるやかにそして雄大に打込谷に落ち込んでいる。その向こうに小笠を従えた笠ヶ岳、まだまだ遠い。稜線を蒲田川側に行ったり、打込谷側に行ったり、軽いアップダウンを繰り返しながら歩く。蒲田川側に出ると穂高連峰が迎えて呉れる。昨日とは打って変わって白い雲を浮かべた青い空が広がっている。山は雨と晴れでは大違い、昨日の憂鬱な気分は何処へやら、気分爽快、足取りも軽い。抜戸岳へ寄り道、グラグラ揺れる積み重なった岩を登ると大展望が待っている。稜線からずっと見てきた穂高連峰であるが、ここからは一層大きく身近に見え、槍の穂先に手が届きそう。北側には今来た稜線が続いているのが見えるが、例の3人組の姿は見え無い。左程危険な箇所も無かったので大丈夫だろうとは思う。抜戸岳から降りて程なく笠新道と合流。ここから先はかって歩いたことがある道、笠の姿も少し大きくなってくる。12時も過ぎてガスが上がり始め、笠も乳白色の中に消える。ガスが流れると再び姿を現す。抜戸岩をくぐるともう笠は目の前。一つもテントが張られていないテン場を過ぎ、平べったい石の積み重なった斜面の上、石垣の上に建つ笠ヶ岳山荘まであと僅か。左程の斜面に見えないが、これが結構しんどい登りである。1時5分、鏡平山荘から6時間、笠ヶ岳山荘に到着。2階のひと部屋に案内され、下段の布団1枚を使えと指定される。団体客もあり混み合いそうだと云うが、今日はそれほど多くの人がやって来るとは思われない。寝場所を確保してから食堂に降り、遅まきながら昼食を摂り、ついでに缶ビール。窓からあたたかい陽が差し込み、眠気を催してくる。お腹がふくれたところで頂上に登ることにし、ペットボトル1本だけ持って外に出る。小屋の周りは風の通り道、Tシャツ一枚だけでは寒く、部屋に戻って長袖を着込む。ジグザグに登ること20分で山頂に着くと、例の3人組がいる。わたしが小屋で休んでいる間に登って来たらしい。再開を喜びあう。平ぺったい黒い石が積み重なった標高2898m、雲の上の山頂は、風も無く暖かい陽が照り、昼寝も出来そうなおだやかさに包まれている。座り込んで回りを見渡す。乗鞍、御嶽の山頂部が雲の上からのぞいているが、残念ながら穂高連峰は雲の中。陽が照っていてガスがかかっている、これはブロッケンが現れる絶好の条件、立ち上がって幡隆平を見下ろすと、出ている出ている。丸い虹の中に自分の影、今まで遭遇したどのブロッケンよりもはっきりしている。三人組も大喜び。しばらく頂上で過ごしてから下山、小屋の前から眺めると奥穂が雲の上から頭を出している。小屋の前のベンチに腰をおろし、缶ビールを飲みながら夕食前のひと時を過ごす。5時からの夕食、オカズも沢山、圧力釜で炊いたご飯が美味い。3本目の缶ビール。夕食後に外に出ると、暮れなずむ光の中、穂高の稜線が黒々と、右手から西穂高岳、ジャンダルム、奥穂高岳、涸沢岳、北穂高岳、大キレットを挟んで南岳、中岳、大喰岳、そして最後に槍ヶ岳と連なっている。大キレットの上には満月が輝いている。そうだ、今日は中秋の名月だ。何という幸運。月の上には鰯雲がたなびき、感動的な世界が広がっている。30分程あとにもう一度外へ出て見ると、鰯雲の中に名月が入り、真ん丸の月の周りに明るい輪を作っていた。部屋に戻り、一人一枚の布団で余裕を持って寝っころがるが、いつものごとく眠ったのか眠っていないのか、うつらうつらと夜を明かした。
 4時半に起床。ヘッドランプの明かりでゴソゴソと行動開始。5時から朝食、圧力釜で炊いたご飯に生タマゴ、これは美味いと3杯食べ、お味噌汁もお代わり。5時半、外に出てご来光を待つ。白んだ空を背景に、槍・穂高の峰々が黒々と立ちはだかり、日の出を遮っている。寒いのを我慢して待っていると、5時45分、大キレットの真ん中から朝日が顔を出し、一気に昇る。山の上からご来光を見るなんてことには全く関心が無く、白山でも富士山でも暗いうちから登る人々を尻目にようやく静かになったと喜んで眠っていたものだ。しかし大キレットから現れた真っ赤な太陽、雲ひとつ無い空をほんのりと染め挙げて行く様子を実際に見ると、わたしでもちょっと感激。昨晩は大キレットの上に中秋の名月、今朝は大キレットからご来光。こんな幸運には滅多に出会えるものでは無いだろう。朝日で笠ヶ岳のモルゲンロートを期待するが、これは成らず。6時15分、笠ヶ岳山荘をあとにする。平ぺったい石英斑岩の重なる斜面を下ると、昨日登ってきた時にはひと張りのテントも無かったテン場に、色とりどりのテントが張られていた。鏡平山荘の寂しさに比べこの笠ヶ岳の賑わい、ほとんどの人は笠新道を登ってきたのだろう。岐阜県には槍・穂高、白山、恵那山、伊吹山等、百名山に名を連ねる山は多いがいずれも長野県や富山県、滋賀県との県境の山であり、岐阜県単独の百名山はこの笠ヶ岳だけである。その笠ヶ岳がこんなにも賑わっているのを見ると何だか嬉しくなってくる。笠ヶ岳をバックに、アップダウンを繰り返して稜線を進む。碧空、朝の冷たい空気を胸一杯に吸い、槍・穂高を眺めながら歩くなんて、こんな幸せは無い。霜柱が立ち、チングルマの綿毛が寒さで震えているが、じきに汗が出始める。立ち止まって長袖を脱いでいると団体さんが追い抜いていき、鏡平の3人組もやってきて先に行く。右下に広がるカール、幡隆平の端っこには「緑の笠」、これを眺めながら休んでいる団体さんと3人組を追い越して、今度はわたしが先に進む。笠ヶ岳山荘から1時間15分、笠新道の分岐に到着。急坂を登り切った稜線上でひと休み。今日は10月4日、ゲン(長男)の子供の出産予定日から4日過ぎている。携帯電話の通信状態は良好なので、ゲンに電話するとまだまだ気配も無いとの事。そこに団体さんがゼイゼイ云いながら登ってきて、そのまま下って行く。こんなに頑張らないといけないツアーは厭だな、ツアーはもっと余裕をもって計画を立てなくっちゃ。3人組もやってきて、こちらはわたしと一緒にひと休み。今座っている場所から笠ヶ岳に続く稜線はさらに南に延び、クリヤの頭を越えて錫杖岳へと延びる稜線に続き、その左側は蒲田川へ向かって落ち込んでいる。今日は全くの快晴、雲海も無く、上から下まで全て見渡すことが出来る。これから下る笠新道は、燕岳の合戦尾根、烏帽子岳のブナ立尾根と合わせて、北アルプス3大急登と称されるほどの下り。出だしは大きな石英斑岩がゴロゴロ転がる広い尾根、ジグザグに続く急坂を下って行く人の姿を眺めながら、たっぷり休息をとって英気を養う。いつまでも休んでいるわけにもいかず、3人組を置いて下山にかかる。ダブルストックで膝の負担を和らげて、岩ゴロゴロの道を下る。平べったい石の上の小石にバランスを崩され尻もちをつく。肛門の周りが痛いが、そんな事を云っている余裕は無い。急ではあるが、時々立ち止まって見る穂高連峰、噴煙をたなびかせている焼岳、その向こうの乗鞍岳、またまたその向こうの御嶽山、見飽きることのない山々が元気を与えて呉れる。50分程で勾配は緩やかになり、杓子平に降り立つ。杓子平カールを横切った所で小休止。穴毛谷の源流を挟んでみる笠ヶ岳は見上げる程の高さになり、振り返ると今下ってきた岸壁帯、その一番上の稜線も結構高い。3人組がやって来て、休まず追い越して行く。わたしも杓子平を発つ。少し登って抜戸岳から南へ続く尾根を越えると再び急降下が始まる。岩ゴロゴロの道はいつしか樹林帯に入り、穂高連峰も見え隠れするようになり、それが徐々に高さを増して行く。奥丸山とほぼ同じ高さまで下っても槍ヶ岳はまだその穂先を見せている。短い鉄バシゴが何本も現れ、これを慎重に下る。だんだん膝がフラフラしてくる。樹間から蒲田川が覗き、ヘリポートの青い荷物も見えるようになるが一向に近づかない。眼下の中崎尾根の向こう、右俣林道をいつまでたっても見下ろしながら下る。抜きつ抜かれつしてきた3人組とも会うことが無くなり、ひたすら急降下を続ける。いい加減見飽きた穂高連峰、一向に姿を消そうとしない。杓子平から2時間半ほど、ようやく右俣林道も見えなくなり、中崎尾根と同じ高さになる。それでも尾根の上から奥穂とジャンが頭を見せている。これも中崎尾根の稜線に隠れ、さあもうひと頑張りと思う間もなく樹間から林道が見え、あっけなく笠新道登山口に降り立った。水場で顔を洗いひと息つく。この先は木漏れ陽の林道歩き、膝も大喜び、気持ち良く歩く。一昨日の雨で水量を増した蒲田川、急な流れでは純白色、流れの緩やかなところは美しいコバルトブルー、川底まで澄み切っている。中崎橋の鉄製の欄干はひん曲がっているが、これは車の当たった跡では無い、恐らく土石流の仕業だろう。蒲田川には巨岩がいたるところに鎮座し、山裾には岩壁が崩れて落下した大岩が積み重なっている。ひと度自然が牙を剥けば、人間なんてひとたまりも無い、クワバラクワバラ。それに逆らうように人間が作った穴毛谷に並ぶ砂防ダム、もう石で埋め尽くされていて何の意味も無い。こんな工事は止めて欲しい。最初は楽しかった林道歩きにも飽き、立ち止まって振り返ると、「緑の笠」が左手に笠ヶ岳、右手に抜戸岳を従えて格好良く聳えていた。新穂高のゲートをくぐったのは12時18分、笠ヶ岳山荘を発ってからおよそ6時間、標高差にして1,700mの下りであった。バスターミナルの食堂で昼食を摂り、深山荘で汗を流し帰路に着いた。
 涸沢から奥穂に登る予定が、西鎌尾根から槍ヶ岳に登ることになり、大雨でこれも取り止め、急遽選んだ笠ヶ岳であったが、その後は天候に恵まれ、今が盛りの紅葉を堪能し、中秋の名月、大キレットからの御来光、今まで見た中では一番のブロッケン、思いもかけない自然に触れ、至福の山旅を味わう事が出来た。でも、さすが北アルプス屈指の急坂下り、その後、下肢の脹れと痛みが4日間続いた。


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