両俣小屋-間ノ岳-農取小屋-農鳥岳-広河内岳 〜今ここにいられること〜
- GPS
- 24:09
- 距離
- 37.1km
- 登り
- 2,759m
- 下り
- 3,897m
コースタイム
- 山行
- 4:20
- 休憩
- 0:06
- 合計
- 4:26
- 山行
- 7:40
- 休憩
- 0:44
- 合計
- 8:24
- 山行
- 6:44
- 休憩
- 0:43
- 合計
- 7:27
- 山行
- 2:55
- 休憩
- 0:01
- 合計
- 2:56
天候 | 8/9(前日)晴れのち雨 8/10(第1日)雨 8/11(第2日)晴れ 8/12(第3日)雨一時晴れ 8/13(第4日)雨 |
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過去天気図(気象庁) | 2021年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
8/10高遠駅発7:30(伊那市営バス、310円)仙流荘着8:01(接続)発8:05(南アルプス林道バス、1070円)鹿の沢着8:45(徒歩、シャトルバス)北沢峠着9:05 8/13奈良田温泉発9:50(早川町営バス、1000円)下部温泉駅着11:00 ※季節運行の「ジオライナー」は、路線バス仕様。仙流荘に運んでくれる貴重なバスだが、運行状況は注意が必要。http://www.jrbuskanto.co.jp/local_emergency/chino.html |
コース状況/ 危険箇所等 |
北沢峠〜両俣小屋 野呂川出合からの林道は、崩落や倒木などで車両通れず。林道終点からは野呂川左岸を歩くが、道を見失った者がとやかく言える立場にあらず。 両俣小屋〜三峰岳 急登して仙塩尾根に乗ってからは小ピークを3つ越えて高度を稼いでゆく。三峰岳は岩峰ゆえ鎖場手前でストックは仕舞う。 三峰岳〜間ノ岳 ところどころ岩場。ストックは仕舞ったまま、かな。 間ノ岳〜農取小屋 眼前に小屋、左に不思議な光景を見ながらガレ場、ザレ場をひたすら降下する。 農取小屋〜農鳥岳〜下降点 岩稜帯ゆえ雨中雨後注意。 下降点〜広河内岳往復 道は明瞭で快適な稜線歩き。 下降点〜大門沢小屋 急坂通過後も気を抜かず右岸を下る。 大門沢小屋〜奈良田 何と言ってもこの区間が問題だった。樹林帯を緩やかに気持ちよく下っていると突如として眼前に立派な橋。見れば立ち入り禁止の札。脇の木段を下りて河原に出ると、増水もあって渡渉できない。結局、その立派な橋を渡って、工事完了後にできた新しい道を慎重に進んだ。 |
その他周辺情報 | 前日の宿:高遠さくらホテル 長谷循環の始発バスに乗るため前泊利用。全室、湖ビュー。早期のネット予約、ビジネス・登山プランで6800円。https://www.ina-city-kankou.co.jp/sakurahotel/ 初日の宿:両俣小屋 長い林道歩きの末に辿り着く素敵な山小屋。星さんの手料理はとても美味しい。夕食付7400円 http://ryoumatagoya.com/?page_id=46 二日目の宿:農鳥小屋 言わずと知れたオヤジの山小屋。覚悟を決めて向かったが、昔ながらの良き山小屋だった。ロケーションもとても良い。素泊まり寝具付き6000円 ホームページが無いので楽しいブログを。https://yama2iruyo.exblog.jp/23662253/ 三日目の宿:大門沢小屋 コロナ対策でカプセルホテルのような空間にきれいなシュラフ。勿論、南アルプスの天然水は飲み放題。素泊まり寝具付き6000円 https://www.daimonzawa.com/index.html 最終日の温泉:奈良田の里温泉「女帝の湯」 夏場は8時半から営業してくれている。550円。ぬるめのとろとろ湯。休憩場所は有料。https://www.hayakawa-zaidan.net/ |
予約できる山小屋 |
北沢峠 こもれび山荘
|
写真
感想
今回も素敵な方々に出会った。感謝してもしきれない人とも会った。雨に悩まされながら、思うように動かない身体に呆れ、それでも計画どおり歩き通せた。夢の中ではなく、現実と向き合えた時間だった。今、あらゆる出来事に感謝している。
5月、様々なコースを思い浮かべながら、山小屋や交通機関を予約した。1ヵ月前、目的地を農鳥岳にし、北岳に近寄らず、仙塩尾根を歩く、という条件でルートを絞った。そして胸躍る楽しそうなプランが残った。
それは、前日、高遠町を回遊、初日は両俣小屋に泊まり、翌日は仙塩尾根を歩き、間ノ岳を経て農取小屋へ、三日目は農鳥岳に立ってから広河内岳の往復をしたのち大門沢小屋に宿泊、最終日は下山後、奈良田温泉に浸かる、全行程36キロメートルを19時間半で歩くという計画だった。
よもや山行初日に挫折しそうになることなど思いもせずに、8月9日11時、高遠駅に降り立った。見上げれば青空が広がり、散策には十分な陽気だった。観光地に人影は少なく、お目当ての蕎麦屋には待たずに入れた。
桜の季節には花見客で溢れる高遠城址公園を歩く。気が付くと厚い雲に覆われ、予報どおり雨が降ってきた。台風が残した風も吹いている。今日の宿に急ぐ。かくしてこの旅最初のずぶ濡れ状態で駆け込んだ。
交渉の結果、12時半にもかかわらず入浴を認めてもらい、一息ついたのち、湖を見ながらコーヒーを飲む。多忙を極めた日常と、待ちに待った山行との間のひと時を大切に過ごした。
8月10日、満ち足りた一夜を経て高遠駅に向かう。午前7時30分、バスは定刻に発車した。予想どおり乗客は一人、これから訪れる瞬間たちに思いを馳せた。南アルプス林道バスは、長谷循環バスの到着を待って発車する。落ち着いて20と書かれた場所に並んだ。
北沢峠に到着したのは9時過ぎ。降車後、図ったかのように雨が降って来た。予報では昼過ぎに止む、パーカーのフードをかぶり、出発した。間もなくして、後ろで大きな声がしたが、私に投げかけられた言葉と思わずどんどん歩いていると「…行けない…がけ崩れ…両俣」などの言葉が断片的に聞こえてきた。たぶん「広河原へはがけ崩れで行けない、両俣小屋へ行くのなら」そう言っているに違いない。そのまま立ち止まらずに進んだ。このことが後に不安と挫折を生み出すこととなる。きちんと応えなかった報いだろう。
野呂川出合を過ぎる頃、本降りになった。不本意ながら雨具を装着した。通行禁止の札を横目に、しっかりとした林道を進むうちに台風の爪痕が現れ始めた。倒木、落石、土砂がそのまま放置されている。慎重に歩いた。
覚悟していたとはいえ、林道歩きの好きな私でもさすがに飽きてきた。野呂川に流れ込む幾つかの沢を横切り、峠を出てから3時間が経過した頃、ようやく林道終点に到達した。この時すでに、小屋までたどり着けない不安が頂点に達していた。
恐る恐る下降してゆく。増水し、河原を呑み込んだ野呂川がそこにあった。不安は的中したのだ。しばらく川沿いを進むとやがて道は消失した(と思い込んでいた)。仕方なく林道終点まで戻り、長い間、人の歩いて無さそうな道を進んでみる。道は崩落していた。万事休す。3時間をかけて北沢峠に引き返すしかない。観念したとき、彼に出会った。
しばらく話したのちに、彼は「標識に、あと15分ちょっとと書いてあるじゃないですか。行きましょう」帰ろうとしている私にそう言ってくれた。再び河原に降りてゆく。釣り人であるその人は、遠くを見つめたのち、「渡りましょう」。一瞬、何を言っているのかわからなかったが、「膝の高さです。何とかなります」そう言うと躊躇いも無く川に入って行った。
それからの45分間、彼に従いながら4度渡渉を繰り返した。初めての経験ゆえ、「はい!」我ながら良い返事を口にしていた。ようやく小屋が見えた時、目が潤んだ。引き返さず、山行を中止せず本当に良かった。深々と頭を下げ、小屋の引き戸に手をかけた。
受付を済まし、「渡渉は大変でした」私の言葉を聞くや否や、小屋番の星さんは、「左岸伝いに来られるのよ。きっと頭の中が真っ白になったのでしょう」優しく微笑んでくれた。全身ずぶ濡れ状態のまま呆然と立ち尽くしたのち、彼にもう一度礼を言い、缶ビールを手渡した。
その晩、星さんの手料理を味わい、食後は同宿者と会話を楽しんだ。単独行の二人の女性は、聞けば聞くほど強者で、30代の私でも到底敵わない山行を続けていた。珍しく就寝時間は19時過ぎとなった。
翌11日は、4時過ぎに起床、朝から晴れていた。明るくなったのを確かめ、星さんに挨拶をして出発した。急登を経て野呂川越に到達、テント組は仙丈ヶ岳方面へ向かって行った。仙塩尾根北部を南下する。三峰岳までは3時間の行程だ。気持ちの良い樹林帯だが、時折遠望が利く。甲斐駒ヶ岳、仙丈ヶ岳がはっきりと見え始め、時計を覗くと時刻は8時半、何故だろう3時間が経過している。そんなはずは、ぶつぶつ言いながら動かない足を強引に動かしては立ち止まる。やがて鎖場を迎えた。
鎖に頼らないことで何とか通過した後が正念場となった。両俣から担いでいる2リットルの水のせいだ、昨日の雨で水分を含んでしまったせいだ、言い訳をつぶやく。塩見岳はやはりいいなあなどと撮影を繰り返す。座り込もうと思った瞬間、彼女が現れた。「熊鈴を落としていませんか」ポケットから見慣れたそれを取り出し、笑顔で渡してくれた。聞けば、朝食をしっかり取ってから出発、ここまで2時間と少しで来ている。コースタイムの半分だ。まるでNHKのあの番組のよう。敬意を払い、頭を下げた。
三峰岳は前回の仙塩尾根縦走の際、最も印象に残っている山だ。標高2999メートルの静かな山頂からは、極上の眺望が得られる。わかっていたが、岩頭部に上がる気力は無かった。下りて来た彼女を富士山と共に収め、間ノ岳へ向かった。体力どころか気力も残っていなかった。岩場を必死に乗り越えながら、コースタイムの1.5倍をかけてようやくたどり着いた。
不思議なほど多くの人の声。幻聴かと思えるほど耳障りだった。標柱を写真に収め、南へ場所を移す。少しだけ喧騒から逃れて、そして倒れた。ここまで疲労したことはあっただろうか。仰向けになって青空を見つめ、目を閉じた。30分の間、ゼリーを流し込んだほか何もしていない。だが1時間の歩行分の気力は得た。
農取小屋が眼下に見える。遠い。ガレ場を慎重に下りて行った。彼がこちらを見ている気がした。二重稜線を確かめながら進み、赤い屋根が建ち並ぶ小屋に到着した。両俣小屋を出てから8時間半が経過していた。
静かだ。人の気配がない。こんにちは、3度繰り返すと、はい、大きく低い声が返ってきた。名高き深沢氏との対面である。少しだけ緊張して、ウケツケをお願いした。何故か最初に年齢を訊かれる。答えると一瞬顔を覗かれ、今度は自分で名前を書く。そしてこの小屋のしきたりを説明され、ようやくザックを定位置に置いた。
のどかな時間が流れていた。風は無く、気温もちょうど良い。眼前の富士山を見つめていると、何も考えられず、何もできなくなっていた。気が付くと同宿者が二組到着している。どうやら今日は4名で「広間」を貸し切れるようだった。夕食は16時半から。彼は、素泊まりの私に味噌汁をごちそうしてくれた。お世辞なく旨かった。
明日は早いうちから雨が降るからできるだけ早く出発した方がいい。彼は就寝を促す。17時過ぎに皆、毛布の中にいた。夜半、叩きつけるような雨音に目覚める。三度ずぶ濡れになる姿を思い描いた。
8月12日午前3時半、オヤジの起きろ!の声で全員目覚める。山行中、たたき起こされるのは初めての経験だった。皆が朝食を取っている間、出発のタイミングを見計らっていた。風が少し収まった4時半に小屋を出た。彼の「グッドラック」に見送られながら。
西農鳥岳への登り、ご来光は望むべくも無いが、徐々に周囲が見通せるようになった。相変わらず体が重いが、何とかコースタイムどおりに山頂に達する。視界はゼロ、すぐに今山行の目的地である農鳥岳に向かった。岩稜が続く。ストックを仕舞った。
午前6時20分、標高3026メートルの農鳥岳に居た。何も見えず、音が無い。静けさに、穏やかさに、そして今ここにいられることに感謝した。動けずにいた。未だ離れたくなかったが、大門沢下降点に向う時間がやってきた。濃霧は全く晴れそうもなく、行き交う人はいなかった。静けさは続いていた。
広河内岳への往復はオプショナルツアーで、一気に奈良田に下りるためには避ける必要があったが、下降点でその迷いは無かった。既に予定どおり大門沢小屋に宿泊することを決めていた。
しばらく進むと日差しが出てきた。そして霧が晴れる直前、霧に自身の影が浮かび上がった。虹色の綺麗な輪郭に見とれているうちに撮影のタイミングを失した。ブロッケン現象を見るのは初めてだった。吉兆であることを祈った。
広河内岳、予想以上に素晴らしい場所だった。塩見岳と仙塩尾根南部、赤石岳がよく見える。思わずバーナーに火を灯した。30分は瞬く間に過ぎた。名残惜しいが、下山を開始した。
大門沢小屋には12時に到着した。日光での転倒以来、木の根には乗れず、急坂では以前のような快速下山ができない。それどころかこの区間もコースタイムより多くの時間を要している。認めたくはないが、明らかに体力の低下。今後、計画は1割増しの方が良いのかもしれない。
「南アルプスの天然水」は飲み放題であり、寝室はコロナ対策が徹底されていた。眺望は無いが気持ちの良いところだった。14時頃から止まない雨が降り始める。小屋番曰く、今後1週間傘マークです。明日の、雨の中の下山と温泉に飛び込む姿を思い浮かべながらラーメンを食べた。昨日同様、17時には横になった。
最終日は3時45分に起床、ひどい雨の中、4時半に出発する。小屋を離れる際にまごつく。前日、明るいうちに下見をしていないからこうなる。いつまで経っても教訓が生かされない。節目の歳、初心に帰ろう。まだまだ登りたい。
その後は順調、緩やかに、時に高巻きをしながら沢沿いを下ってゆく。もはや雨は気にならない。それほどずぶ濡れだった。
やがて雨が小康状態になった頃、道を誤った。治山工事による真新しい橋が架けられていたが、何故か進入禁止のフェンスがあったため、その脇の木段のある道を下りて行った。そして増水した沢に行く手を阻まれる。結局その「渡るべからずの橋」まで戻る。念のため真ん中を歩いた。
15分ほど足踏みしたので、意識して速足で進むと程なく第一発電所のゲートに到着した。さあラストワンマイル、車道を歩き始めようと思ったその瞬間、「門番」さんから、間もなくバスが来ますよ、のお言葉。なんというタイミング、なんという幸運、こりゃブロッケンのお蔭かな、浮かれていると頼もしいバスが現れた。
そんなこんなで奈良田にはほぼ予定どおりに到着。30分後、独り温泉に漬かりながら五日間の山旅を思い返していた。真っ先に思い浮かんだのは、山頂から見た山並みではなく、音の無い世界でもなく、出会った人々の笑顔だった。もうそういう歳なのかな。
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