夜叉神峠〜鳳凰三山縦走☆追憶を辿って雲上のトレイルへ


- GPS
- 07:57
- 距離
- 19.3km
- 登り
- 1,974m
- 下り
- 2,243m
コースタイム
- 山行
- 7:10
- 休憩
- 0:47
- 合計
- 7:57
天候 | 晴れのち曇り |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2022年09月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
下山は青木鉱泉よりバスで韮崎に |
コース状況/ 危険箇所等 |
良好に整備された一般登山道 |
写真
感想
今年の夏は山行の計画を立てるものの天気が良くないせいで片っ端から計画が流れてゆく。泊まりがけの山行が実行できたのは7月下旬の南アルプスを北岳から蝙蝠岳、白根南嶺と縦走した山行のみであった。
この週は木曜日から金曜日にかけて甲斐駒ヶ岳から鳳凰三山への縦走を目論みてはいたものの明らかに中部地方の天気が悪く断念することになる。天気予報は週末にかけて雨マークが並んでいただが、週末が近づくにつれて日曜日の予報は雨は消えるが、晴れになったり曇りになったりと見るたびに予報が変わる。好天を信じて、土曜日に東京から甲府に移動し、駅前のホテルに投宿する。
鳳凰三山は思い出深い山だ。初めて家族でテン泊山行をした山である。私が小学校4年の時、43年前のことだ。父の口からヤシャジン峠とかホーオーサン山という聞きなれない地名はどことなくアニメに出てくる怪物や化物を想起させた。
テントは40年前のものと現代のものは大きく違う。まずはその重量である。なにしろ私の妹も含めて家族四人が寝ることが出来るテントなのでそれなりに大きく、かなりの重量である。後に中学時代に友人達との山行のために使ったことがあるが、その重さに辟易した覚えがある。今でも四人用のテントは3kg近く重量になるが、当時のテントは5kg近くあったのではないかと思われる。
子供の頃、両親が多くの山に連れて行ってくれたものの、残念ながら山行の景色はほとんど記憶に残っていない。しかし、この鳳凰三山の南御室の小屋でテントを張ったのだが、そのテントを張った場所の景色がなぜか脳裏にしっかりと焼き付いている。記憶に残るその光景を再び実際の現場で確かめてみたいと思っていたのだった。
甲府のビジネス・ホテルは出張の荷物を預かってくれるとのことであったが、朝チェックインしようという段になって、明日は営業しないので昼の12時までに戻ってきてもらえますかと言い出す。仕方がないので慌てて甲府駅のコインロッカーに荷物を預けにいく。こういうこともあろうかと、甲府駅の広々としたコインロッカーはこの時間でも空いていることは以前に確認済みである。
広河原行きの登山バスに乗り込んだのは私を含めて11名。数えたわけではないが、出発早々に添乗員が乗客の数を無線で会社に報告するのが聞こえてくる。繁忙期はバスが5〜6台になることがあるというから、11名というのはかなり少ない方だろう。いつもこんバスの添乗員は道中、さまざまな話をされることが多いのだが、この日は眠っている登山客が多いせいもあるのだろうか、すらりとした長身の女性添乗員は終始無言だ。
甲府の上空は雲が広がっていたが、山が近づくにつれて急速に晴れ空が広がっていく。夜叉神峠に到着した時には空にはすっかりほとんど雲のない快晴の蒼空が広がっていた。夜叉神峠の登山口で下車したのは私を含めて3組だった。登山口には車が10台以上は停められている。
まずは夜叉神峠に向かって広々とした段差のない峠道を緩やかに登ってゆく。登山口のあたりは肌寒く感じられるほどだったが、歩き始めるとすぐに落葉松の樹林の中を渡るそよ風が心地よく感じられる。登山道沿いには古い石垣が現れる。石垣に生える苔が峠道の古い歴史を物語っているようだ。
高度が上がるにつれ、東の空から林の中に朝陽が差し込み、落葉松の樹幹や林床の笹を黄金色に輝かせる。小屋のある夜叉神峠に到着すると北岳、間ノ岳、農鳥岳と連なる白根三山が雲ひとつない蒼空を背景に大きく視界に飛び込む。農鳥岳から視線を左手に移すと、しばらく前に縦走したばかりの白根南嶺の稜線が綺麗に見えている。
夜叉神峠からは鳳凰三山に連なる長い尾根を北上することになる。尾根には広葉樹の大樹が頻繁に現れる。ひび割れた樹皮からすぐには判らなかったが、白樺のように思われた。やがて登山道は尾根の左側をトラバース気味に登るようになる。登山口を出発してからかなりの間、他の登山客の気配を感じなかったが、先を進む二組の男女に追いつく。
苺平を過ぎると、辻山への分岐が現れる。道幅の広い一般登山道をこの辻山の東側をトラバース気味に緩やかに下降していく。
南御室の小屋は見覚えがあった。そして、テント場に向かうとすぐに当時、テントを張った場所がわかった。テント場にはまだ数張りのテントが残っていたが、肝心のその場所には有難いことにテントは張られていなかった。古い記憶の中にある光景と現実の目の前の景色が重なる瞬間というのは、意外にも何かが込み上げてくるような感動的な体験だ。
テントを張った場所ののすぐそばにある樹も記憶にある。というのも、テントを張るとこの樹に可愛らしい小動物が現れたからだった。ヤマネという動物であることを誰かが教えてくれた。大はしゃぎでその枝を見上げていた少年と同じ位置から再び樹の枝を見上げる。ヤマネが遊んでいた樹の枝は記憶の中の残像よりもかなり低く思われたが、よくよく考えてみると当時よりも数十cm身長が伸びているので当たり前だろう。動物園は別として、後にも先にもヤマネを山中で見かけたことはない。
南御室の小屋の裏手からは滾々と清水が湧き出しているので、ここで水を補給する。南御室から先に進むとダケカンバの低木帯を進むようになる。すれ違う登山者の数が多くなる。
唐突に樹林が切れて、樹木のない砂礫の稜線に飛び出す。正面には薬師岳、そして左手に続く稜線には観音岳が見える。いよいよ鳳凰三山のハイライト、白砂青松の光景が。そしてこの稜線の光景を際立たせているのはあたかも石仏のように山肌からニョキニョキと突き出している無数の花崗岩の岩だろう。
薬師岳の山頂部をみると確かに如来像を顕すかのような大岩が山頂に聳えている。振り返ると急速に東側の斜面から雲が上昇し、瞬く間に稜線が雲に呑み込まれてゆく。
稜線を辿ると小さなコルに薬師小屋が現れるが、稜線に雲がかかるかもしれないという懸念から素通りして山頂へと急ぐ。しかし、その懸念はすぐに現実のものとなる。薬師岳の山頂は完全に雲の中となり、全く展望がない。
山頂には数組の登山者が休憩しておられた。そのうちの一組は鉄緑会alipine clubと記されたブルーのTシャツを着た若者の集団だった。この日、初めの行動食であるコロッケ・パンをほおばりながら雲の切れるのを待つが、一向に晴れないので諦めて観音岳に進むことにする。
観音岳の山頂が近づいたところで、ようやく雲がとれて、山頂の上空には蒼空が広がった。山頂に立つと地蔵岳へと続く稜線から急速に雲が取れていき、オベリスクがすっきりと姿を見せる。どうやら雲を免れているのはここだけであり、北岳、甲斐駒ヶ岳はいずれも雲の中だ。東側には果てしない雲海が広がっている。背後を振り返ると薬師岳も雲の中から姿を現した。
観音岳の山頂でひとしきり眺望を堪能すると地蔵岳のピークへ向かう。観音岳から鞍部に向かって降り始めるとすぐにも稜線を雲がかかり始める。
地蔵岳のオベリスクはやはり鮮烈であり、この光景は以前の山行の時から脳裏に刻み込まれている。オベリスクの前からは砂地の急斜面をジグザグに下降してゆく。観音岳への稜線はすっかり雲の中だった。砂地の下降が終了し、樹林帯に入ると、すぐにも周囲には霧が立ち込めるようになる。
当時、私は一人で先頭を歩いていたのだが、家族の他のものがなかなか来ないと思うと、妹が風邪を引いたのか高熱を出したらしい。父は鳳凰小屋に荷物を置いて御座石鉱泉に妹を背負って下ったのち、再び御座石鉱泉から鳳凰小屋に荷物をとりに戻ったらしい。その日は当然ながら御座石鉱泉に泊まることになった。
鳳凰小屋に到着すると休憩所の前の蛇口からふんだんに水が流れている。若い男性の小屋番の方が「水を飲んで休憩していって下さい」と声をかけてくれる。男性によるとコースタイムでは御座石鉱泉までは3時間半、青木鉱泉までは4時間半と教えてくれる。時間は11時、ここまでほぼコースタイムの半分で歩いていると思われる。バスまでの時間がなければ御座石鉱泉に下るつもりであったが、青木鉱泉からの午後のバスは15時発なので、十分に時間の余裕はあるだろう。
滝を見ながら青木鉱泉に降るつもりであることを告げると、小屋番の男性が「五色の滝はとても立派なので是非、立ち寄って下さい。是も今日はこの天気なので五色の滝がよく見えないかと思います」と云いう。
霧の立ち込める落葉松の林を下降して行くと右手の谷に近づいたところで五色の滝、大きな案内標が現れる。右手の滝の方に向かって下降する小径がある、斜面をトラバース気味に下降すると霧の中から落差の大きい滝が朧げに見える。小屋番の男性の仰っておられた意味がよくわかった。落差があり過ぎて、確かに滝の上の方は霧のせいでよく見えないのだ。しかし霧を介して眺める滝の幽玄な雰囲気も悪くはないものだ。
少し下降すると登山道が谷に近づいたところで白糸の滝の展望台に至る。数名のパーティーが休憩しておられた。白糸の滝は登山道からすぐ近くに展望することが出来るが、樹や岩に阻まれて滝の全貌を見ることが出来ないのが残念だ。
次は鳳凰の滝だ。登山道に滝への分岐を示す道標が現れる。細い小径を辿って谷に出ると、上流の左岸から谷に流れ落ちる大きな滝が見える。沢に近づいて上流を眺めると、さらに大きな滝が左岸から落ちているのが見えた。望遠レンズを携行していなかったのが残念だ。ふと足元をみると谷の岩の間には随所にピンク色の花の群落がある。
下降するとすぐに南精進滝に至る。この滝は水量も多く、落差が大きな二段の滝だ。直近で滝を眺められるのはいいが、滝が大きくてカメラの視野に写真が収まりきらない。
南精進滝を過ぎると小さな展望地が現れる。雲の下に出たせいで、眼下にドンドコ沢の谷の展望が大きく広がっていた。下降が緩やかになり、トラバースが続く。やがて谷に大きな堰堤が現れると、なだらかな河岸段丘の広い道となり、青木鉱泉に到着する。
青木鉱泉は泊まってみたくなるような木造の古風な建物だが、宿泊は週末のみで、しかも素泊まりのみだ。温泉の周囲には登山者の車が数多く停められているようだが、駐車場代のみでもそれなりの収入になるのだろう。車で訪れる登山者は周回がしやすいので、御座石鉱泉ではなく、この青木鉱泉を訪れる方が圧倒的に多いだろう。
まずは温泉に入る。入浴料は¥1000と高めだ。温泉は数名が入れる程度の浴槽のある内風呂のみである。風呂に入ると薬師岳の山頂で見かけた鉄緑会の若者達のパーティーが入っていた。丁度、登山者が下山されるタイミングなのだろう。次々と入浴客が訪れる。
風呂上がりに缶ビールを購入し、温泉の建物の前で本を読み始めると、ポツリポツリと雨が落ち始めた。登山者休憩所の広い東屋に移動すると、すぐにも大粒の雨の驟雨となる。東屋で雨宿りをしていると、バスの出発時刻が近づいたところで雨は小降りになってくれる。
バスに乗り込み、韮崎に向かう。山あいから出て、釜無川沿いの市街地に出ると雲の合間から陽が差し始めた。しかし鳳凰三山のあたりを振り返ると相変わらず山の上の方は重苦しい雲がかかっている。この日は午後の方が天気が良くなる予報ではあったが、やはり夏山の午後に晴天を期待するのは難しいのだろう。
この縦走ルートいいですよね。巧い事三座踏めるのでプランニングしてあるんですけどコロナ禍にて不都合なことがあり延期のままでして…
どのように甲府駅からの始発バスに乗られたのかと興味津々でした。そうか、駅前ホテルに前泊されたんですね。
京都駅から甲府駅経由のウイラーに乗ると甲府駅にam4:00に到着するので、始発の広河原行きに乗れたんです。ただ、コロナ禍で運休となってしまいました。
試しに先ほど調べてみると、このバスが運行再開されている模様。
甲府駅からのバスの乗客は11名ですが繁忙期はバスが5〜6台とのこと。この始発バスを調べていた時に頭に浮かんだのが… 「こんな早朝に皆さんどのような手段で駅前に来られるのか」なんです。山猫さんのように前泊される方も多いのかな? 乗用車だと芦安へ行かれるだろうし。まあ、半分どうでもいいようなことに考えがいっちゃうんですよね。
下山はドンドコ沢ルートで青木鉱泉へ下りられたご様子。このルートを下りに使うのは具合悪いかなとプランは御座石鉱泉へ降りることにしていたのですが、山猫さんレベルだから下りも問題なしなのかな?
なんて考えていたらビックリ。日帰りだったんですね。凄いです。
この滝ルートも見たいし、韮崎へのバスだと青木鉱泉発なのでその方がいいんじゃ?なんても考えておりました。御座石鉱泉からバスに乗れないことってあるの??とか。
有名処なんで、無線連絡などでバスへ全員乗れるようにはしてくれるんでしょうね。
話がズレますが、上高地から焼岳へ登るのに中の湯に自家用車を止めて、釜トンネル入り口の中の湯バス停から上高地行きのバスに乗り、帝国ホテル辺りから登るのが面白そうと調べてみると、沢渡からの上高地行バスに満員で乗れないことがあるとか聞いて不安だったことを思い出しました。途中のバス停乗車は要注意かな。
ガスが濃くて残念でしたが、各ピークの写真を見ると青空やガスも切れたり、下山後に雨が降ってきたりと山猫さんは強運の持ち主です。
苔の樹林やザレた場所に岩場まで変化に飛んだ面白そうなルートですね。日帰りでは無理ですが薬師岳小屋泊ででも歩いてみたいルートです。あれ?山猫さんのログだと9時過ぎに薬師岳??
7月の南アルプスへの山行はその甲府willerの夜行バスで朝の4時に到着し、広河原行のバスに乗り継ぎました。東京からだと甲府周辺のホテルに泊まる方も多く、繁忙期には駅前のホテルが埋まってしまうこともありますので、要注意です。昨年の夏に北岳から塩見に縦走した時には夜中にホテルがなくて困っている方がおられました。
それから青木鉱泉からのバスは無線で確認していましたので、御座石温泉からでも大丈夫ではないかと思います。
南アルプスは樹林が美しいところが多い一方で、森林限界を抜けた稜線が少ないのですが、この鳳凰三山の稜線の美しさは一度は訪れる価値のあるところだと思います。青木鉱泉の17時発のバスを目指せば日帰りは十分に可能だと思います。鳳凰小屋からのドンドコ沢ルートは全く危険な個所はありません。ただ、この日もそうだったように南から湿った風が入り込む気圧配置だと早い時間には稜線にはガスが出る可能性が高いと思います。
私もここは何度でも訪れたいところで、秋か冬にテン泊してみない・・・と考えております。ののさんも機会があれば是非。
今年の夏はいつになく不安定な天気が多くて悩ましいですね笑
私も何度、計画変更したことかしら笑
鳳凰三山はとても行きたいお山なので興味深く拝見しました。
緑美しく滝も見事ですね。
私は9月末に予定していますが果たして計画通り行けるかどうか笑
晴れてくれるのを祈るばかりです笑
今年の8月は振り返ってみると山らしい山に登ったのは8月下旬のyukkyさんとの山行くらいでした。
9月は今後、少なくとも立て続けに二つの台風に見舞われることになると思います。下旬になれば晴天が多くなることを私も祈っています。yukkyさんの鳳凰三山のレコ、楽しみにしています。
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