北岳厳冬2014 束の間のユートピア
- GPS
- 56:21
- 距離
- 46.0km
- 登り
- 3,814m
- 下り
- 3,815m
コースタイム
- 山行
- 6:50
- 休憩
- 1:21
- 合計
- 8:11
- 山行
- 6:37
- 休憩
- 3:45
- 合計
- 10:22
天候 | 28日:奈良田→池山吊尾根 標高2500地点 天気:晴れ 気温:-16℃ 風速:12m/s 29日:標高2500地点→北岳山頂→ボーコン沢ノ頭 天気:深夜から昼にかけて雪、昼以降は時々晴れ、夜は雪 気温:-7℃,風速:12m/s 30日:ボーコン沢ノ頭→奈良田 天気:朝から雪 気温:-12℃,風速19m/s (※気温、風速は朝6時時点の山頂予測値) |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2014年12月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
夜にアクセスしましたが、奈良田までの車道には鹿が多く20匹位と遭遇しました。 道路の真ん中で立ち往生している方も居られるので、衝突注意。 何度かヒヤリとさせられました。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
●奈良田ゲート 最初の関門? どうやって越えたかは秘密で・・・ ●奈良田〜歩き沢橋 歩き沢橋まで、約12kmの林道歩き。 林道には若干雪が残っていたがラッセルする程では無かった。 トンネルの天井には大きな氷柱が下がっているので頭上に注意。 また、凍結している箇所もあるので足元にも注意。 ●歩き沢橋〜ボーコン沢ノ頭 歩き沢橋前の登山口からは雪道。 雪は例年に比べると多めに感じた。 池山御池小屋までは八ヶ岳並みにトレースが付いており、 ラッセルの必要無く、迷うような箇所も無かった。 池山御池小屋から先もトレースが付いていたが、夜間に降雪があった為、 砂払手前でトレース消失。 ボーコン沢ノ頭までは膝下位までのラッセルになった。 ●八本歯ノ頭〜八本歯のコル これまでの道とは一変し、細尾根の危険個所が続く。 何箇所か巻いて通過する場所があるが、巻くのは全て右(北側) 2ヶ所ほど巻いて通過した後は急な岩場の下降(4m程度)となり、 積載重量や雪の状態次第ではロープでの懸垂下降が必要になる。 今回は軽装での山頂往復だったので、ロープは使用しなかったが、 念の為ロープは持参した方が良いかと思う。 懸垂下降箇所にはP型の支点があるが、若干ぐらつきがあるので、 これを支点として利用するかどうかは自己責任で。 ●八本歯のコル〜吊尾根分岐 吊尾根分岐主稜への登りは岩稜南側の夏道を利用した。 雪で覆われ、夏道は見えないが道に沿って鉄棒が等間隔で立っているので それを目印に登った。 傾斜は急で、雪の状態はクラストしてたりラッセルだったり、と色々。 クラスト斜面に薄らと雪が載ってる状態が一番厄介で、アイゼンが効きにくく 通過に神経を使った。 尚、北岳山荘へ続く夏道(トラバース道)は積雪期は雪崩の危険があるらしいので 利用しないほうが良い。 ●北岳稜線(吊尾根分岐〜北岳山頂) 稜線に上がると急に風が強まるので、防風防寒は必須。 (今回はかなり弱かったが・・・) 北岳山頂へ登りは、一般的には岩稜西側に続く夏道を利用されるが、 夏道には雪が堆積した事で雪壁状になり、急なトラバースが長く続く。 滑落危険があり、視界が悪い状態だとルートミスの恐れがあるので、 今回は夏道は利用せず、岩稜上を辿って山頂を目指した。 岩稜上は岩雪ミックスルートだが、傾斜は緩く特に難しい箇所は無し。 夏道入口付近から簡単に取り付ける。 少し進むとハッキリしたリッジ状になり視界不良時でもルートが判りやすいが、 強風時はバットレス側への滑落に注意。 バットレス側には雪庇が発達しているので踏み抜かぬようにも注意。 |
写真
装備
個人装備 |
長袖シャツ
長袖インナー
ハードシェル
タイツ
ズボン
靴下
インナーグローブ
予備手袋
防寒着
ゲイター
バラクラバ
着替え
靴
ザック
サブザック
アイゼン
ピッケル
スコップ
行動食
調理用食材(6日分)
水筒(保温性)
ガスカートリッジ(500g+250g)
コンロ
コッヘル
食器
ライター
地図(地形図)
コンパス
笛
ヘッドランプ
予備電池
GPS
ラジオ
筆記用具
ファーストエイドキット
針金
常備薬
日焼け止め
保険証
携帯
時計
タオル
ナイフ
カメラ
ポール
テント
テントマット
シェラフ
ゴーグル
ロープ(30m)
ハーネス
カラビナ
ATC
ハーケン
スリング
ワカン
テントシューズ
|
---|---|
備考 | ●当初の予定では白峰三山縦走だったので、食料と燃料は停滞日用も含めて 6日分持参したが、北岳ピストンに変更になったので2日分しか使用しなかった。 ●ハーケンは何かあった際の御守りとして持参。 使う機会はまず無いと思うけど、気休めで・・・ ●ワカンも未使用。 ボーコン沢ノ頭までトレースばっちしだったのでアイゼンだけで充分だった。 ●ロープ,ハーネス,クライミングギア類は縦走用の重荷で八本歯を下降する際、 もしくは雪の状態が悪い場合に備えて持参したものだが、雪の状態は良く、 軽装での下降だったので使用しなかった。 |
感想
「やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
山行初日の夜、思わずテント内で絶叫してしまった。
何をやらかしたか、と言うと・・・
シェルグローブを車に忘れてきてしまった。。。
今回の目的は白峰三山縦走。
縦走路の稜線上は低温、強風域であり、シェルグローブ無しで行ってはいけない領域。
にも拘らず、それを忘れてしまうとは・・・
あまりの不甲斐なさに泣きたくなる;;
困った状況になった。
これから車に戻るにしても、ここは池山吊尾根の標高2500m地点であり、
戻ってくるには2日はかかる。
予備日は3日程準備していたが、また奈良田からの長い道のりを歩く気は起きない。
“シェルグローブ無しで強行するか?”
とも考えたが、手元にあるインナーグローブだけでは凍傷のリスクが高すぎる。
厚手、中手、薄手の3枚を持参していたが、重ね着しても厳冬の稜線環境には
耐えられないような気がした。
凍傷のリスクを冒してまで縦走する勇気は無く、考慮の結果、白峰三山縦走は中止。
北岳往復に変更する事にした。
北岳往復であれば主稜歩きは短く、幸いな事に明日は風がかなり弱く、気温も高め。
今の装備でも行ける見込みがあった。
だが、このミスは痛い。
天候や体調不良での縦走中止ならまだ納得できるが、忘れ物で中止とは・・・
心理的なダメージが大きく、その夜はなかなか寝付けなかった。
翌日の朝、5時出発。
早い時間にボーコン沢ノ頭手前に到着し、そこにテントを張り北岳登頂のBCとした。
テント設営後は、しばらくテント内で待機。
この日の天候は予報通り風は弱く、気温は高めだった。
しかし、前夜から雪が降り続いており、視界があまり良くない。
北岳往復するにはまだ充分な時間があるので、雪が止むのを待つ事にする。
この雪は昼前には止み、午後は晴間が出る可能性があるらしい。
その晴間を狙って登頂しようと考えた。
その間、何名か登山者が通りすぎ、北岳方面へ向かっていくが、
殆どの人がボーコン沢ノ頭で引き返していく。
視界が悪いので登頂を断念したようだ。
確かに、この降雪の中、危険が多い八本歯や北岳稜線へ進む気は起きない。
果たして、本当にこの雪は止むのだろうか?
明日以降は再び強風となり、寒さも厳しくなってくる。
シェルグローブの無い私には、この日しか北岳登頂チャンスは無い。
不安になりつつ、雪が止むのを待った。
10時半になっても雪は止まなかった。
これ以上待っていては日没までに帰ってこれなくなるかもしれない。
しぶしぶテントを出発し、北岳へ向かう。
冬の北岳には過去に2度登っており、2回とも悪天下の登頂だった。
だから、それ程不安は感じないが・・・
またあの真っ白な山頂しか見れないのか、と考えると気が重い。
ボーコン沢ノ頭を過ぎ、淡々と八本歯へ向かっていくと、
早朝に会った4名のPTに出合う。
無事に登頂を終えて下山するところだったが、やはり景色は冴えなかったらしい。
この日、北岳へ登ったのは彼らだけで、これから稜線へと進む登山者は私一人になった。
八本歯を通過し、北岳稜線(吊尾根分岐)へ到着。
もうすでに時刻は午後になっていた。
しかし、まだ晴れ間は訪れない。
雪は止んでいたが、周囲はガスで覆われており、眺望は無し。
薄らと見える北岳の岩稜は「魔の山」といった風体を醸し出しており、
行く気が起きねぇ。。。
だが、少しであるが雲の合間から太陽が見える頻度が増えており、
確かに天候回復の兆候はある。
それを信じて重い腰を上げ、吊尾根分岐を後にする。
山頂へ行く為、北岳稜線へと足を踏み入れた。
積雪期の北岳山頂への最後の登りは、岩稜西側に続く夏道を利用される事が多い。
夏道は雪で覆われ雪壁状となり、急な斜面のトラバースが連続する。
3000m峰への最後の登りとして、なかなか手ごたえのあるルートであり、
出来ればこちらを行きたかった。
だが、視界不良の環境下ではルートミスのリスクが高く、斜面にピックを刺して
確保する場面が多いので、雪に触れる事も多い。
今の視界とグローブでは、ちょっとこのルートは厳しい。
なので、別ルートを選ぶ。
岩稜上へ進み、リッジ沿いを進む事にした。
このルートは岩雪ミックスルートとなるが、急な箇所は無く難度は易しい。
夏道入口付近から取り付き、しばらく登っていけばやがて明瞭なリッジ状になるので
ルートファインディングも容易。
視界不良時でも安心して進む事が出来た。
北岳稜線上とは思えないほどに風は弱く、手の冷えは感じず。
判断は正しかった。
この日の環境なら、今の装備でも耐えられた。
岩稜登りは順調に進み、更に標高を上げると少しずつ青空が見えてくる。
そして、登頂。
北岳山頂は・・・晴れだった。
正確に言えば、北岳山頂だけが晴れ。
山頂の下には雲が広がっている。
雲を抜けたのだ。
どうやら、この雲の上限は標高3000m付近らしい。
周囲の山は雲に隠れて全く見えないが、北岳山頂の上には青空が広がっている。
さすがは、日本第2位の高峰だ。
たぶん、この瞬間、周辺の山で晴間が見れたのは北岳のみだっただろう。
そう考えると嬉しくなってくる。
不思議な事に、山頂では無風。
北岳への登りでは常に風が吹きつけていたが、山頂に出た途端にピタリと止んだ。
雲の上とは、無風なのだろうか?
厳冬の北岳山頂がこれだけ穏やかな環境になるとは、驚きである。
日差しが入って温かく、じっとしていても寒さは全く感じない。
まるで楽園に居るかのような心地良さで、寝そべったりしてのんびりして過ごす。
過去に訪れた厳冬の北岳山頂は、それはそれは厳しい環境で、
5分もいたら下山したくなるような状況だったが、今回は去りがたい。
このままずっと、ここに居たくなった。
だが、夕刻になれば再び山は荒れ始めるだろう。
これは、束の間のユートピア。
日が暮れる前に帰らねばならない。
後ろ髪を引かれつつ山頂を後にし、BCのボーコン沢ノ頭へ帰る。
ボーコン沢ノ頭に戻った頃には、すっかり稜線は雲に包まれていた。
青空が広がっていた山頂も、今はもう雲の中か。
そう思うと感慨深い。
今後も厳冬の北岳を訪れる機会はあると思う。
だが、あの楽園のような北岳山頂を目にする事は・・・たぶんもう無い。
それを経験出来た今回の山行は極めて貴重な経験となった。
つまらぬミスで白峰三山縦走には失敗したが、悔いは無し。
厳冬の北岳に楽園のような場所があった。
その事は、この先ずっと忘れないだろう。
あ、もちろん雪山登山で忘れ物をしてはいけない。
その事も、この先ずっと忘れないだろう^^;
(たぶん・・・)
コメント
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新年おめでとうございます。
まいどハードな冬山山行、勉強させて頂いてます。
グローブ置いてけぼり、しかも車中でしたか
大幅な計画変更、残念でしたね 。
が、結構みなさんやってると思いますよぉ
ただ、レコにはアップしないだけで……
かく言う私も、グローブではありませんが何度か…
Luskeさん、正直だから
あけましておめでとうございます
忘れ物での計画変更、誠に不覚であります
もっと出発前に入念にチェックすべきでした><
前回の船形山での飲みすぎに続き、今回は忘れ物、と。
どうも、最近の私は初歩的なミスが多いような気がします^^;
今年は初心に帰ってみる必要がありそうですね。
こんな私ですが、今年も宜しくお願い致します
Luskeさん
当日いろいろと情報教えていただきありがとうございました。
それにしても一日違うだけでこんなにも状況が変わってしまうのかと驚いてしまいました
私達も12/29にアタックする予定ではいたのですが、いろいろと事情があり、BCの持ち上げに終わってしまいました。
12/30はかなりキツイ思いをして山頂まで行きましたが、どうせなら晴れた山頂の方が良いですね。 を見てしみじみ感じました
その節はどうも御世話になりました
nyorotan15さん達のテントが隣にあったので安心して幕営出来ました。
私が登った29日は比較的条件が良かったですが、翌日は・・・
nyorotan15さん達がアタックされた日は厳しかったかと思います。
小生、冬の北岳には3回登ってますが、晴れたのは今回初めてです。
雪山はタイミングが難しいですね。
次回、nyorotan15さん達が北岳に登られた際は晴天の山頂、
となるよう願っております。
また山でお会いしましょう!
2015年もよろしくお願いします。
あの状況下でもすばらしい景色をみられたのですね、普段の行いがいいんでしょうね
自分は、・・・。レコ上がるのかなり遅くなると思いますが、見てやってください。るすけさんも行こうかなと思うルートかもしれません。
北岳、結局ボーコン沢で撤退してからごぶさたなので、このレコを参考にさせていただきたいと思います。輝くあの頂をぜひ訪問したいものです。
自分も歩きながら、るすけさんはあの悪天の中どうされたのかなと思ってました。ご無事でなによりでした。
あ、自分も今回忘れものしましたよ。
ぺミカン・・・気づいた時は本当にへこみました
普段の行い、あまり自信はありませんが、今回晴れたのは良かったです。
それにしても、今年の年末年始はどうも天気が優れませんね。
よりによって最強寒波到来とか・・・タイミング悪すぎです><
metaさん達は、どのように対処されたでしょうか?
レコ、楽しみにしております。
あの山は是非、私も登りたいと思っている山ですので
なんと、ぺミカン忘れてしまったとですか@@
冷蔵庫に入れっぱなしで、そのまま忘れてしまった・・・
なんてオチが予想されます(笑)
お互い、忘れ物には注意しましょう><b
って、Luskeさんでもあるんですね…(@_@。ウソォーン…
年末年始の南アルプス。
Luskeさんは今回どんな参考するのかなって楽しみにしておりましたが、お正月のアク天候(全国的にそうだったのかは???ですが)また小屋で停滞とかありなんだろうか…とか勝手にいろいろ考えちゃったりしていました。
…が、シェルグローブ忘れとは残念でした。
北岳山頂限定の晴れ、素晴らしいです(^‐^)♪
山での忘れ物、しょっちゅうやってます^^;
でも、計画変更せざるを得ないような酷い忘れ物は、今回が初めて。
良い教訓になりました><
もしシェルグローブを忘れていなかったら、29日に北岳山荘に到着し、
翌日の30日は山荘で停滞。
31日の早朝から昼にかけて縦走し、その後の運命は・・・神のみぞ知る、
という結果になっていたかと思います。
31日以降は厳しい天候の日が続いたようなので、計画中止とは言え、
その前に下山で来たのは運が良かったのかもしれません。
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