グラニット・ピーク Granite Peak(3904m)

- GPS
- 77:39
- 距離
- 51.9km
- 登り
- 1,306m
- 下り
- 1,294m
コースタイム
- 山行
- 7:40
- 休憩
- 0:42
- 合計
- 8:22
- 山行
- 3:05
- 休憩
- 0:05
- 合計
- 3:10
- 山行
- 8:04
- 休憩
- 1:34
- 合計
- 9:38
- 山行
- 6:41
- 休憩
- 0:20
- 合計
- 7:01
過去天気図(気象庁) | 2023年07月の天気図 |
---|---|
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
飛行機
|
写真
感想
大学山岳部時代の友人と私の妻と3人で、アメリカ・ワイオミング州とモンタナ州の山に登ってきました。
メインイベントのグランドティートンに先駆けて7月9日に、モンタナ州最高峰のグラニットピークへ、マイナーな南面のルートから向かいました。
針葉樹林を抜けて、氷河湖の点在する谷を遡り、その最奥に聳えるピークに南西壁から登ります。そこはまさにウィルダネスで、7月半ばで下界は猛暑というのに、上半部は雪に埋まり、完全に残雪期の様相。川の渡渉に急峻な雪渓、岩壁と変化に富んだ素晴らしいルートでした。
連日の夕立ち雷雨と雹、テントのポールが曲がるほどの強風に加え、下部では強烈な蚊の襲来も受け、2泊3日の予定がもう1泊を要してしまい、最終日以外は誰にも会いませんでしたが、マーモットやシロイワヤギなど野生動物にはたくさん会い、全員が登頂することもでき、大変さを遥かに上回る満足感を与えてくれました。
7月9日
7時半、2泊3日分の予定でグラニット・ピークへ向けて歩き始める。ピッケル、アイゼン、ヘルメットは持ったが、ロープや登攀具は置いていく。
グラニット・ピークは、アメリカ各州の最高峰の中でアラスカのデナリに次いで登るのが難しいとも言われる。最もポピュラーな登頂ルートは北面からのものだが、山頂に達する最後の東稜は高度感のある岩登りで、帰りは懸垂下降が必要。死亡事故も起きている。そのうえ、全行程の大半が変化に乏しいプラトー上の歩きで、帰りには登り返しもある。そんなわけで我々は、それよりは変化に富んでいそうな南面のルートを選んだ。針葉樹林の川沿いの道から、点在する氷河湖をたどるようにU字谷を遡り、カール地形の源頭部から山頂の南西壁に達するルートだ。南西壁も落石は怖いものの、技術的には比較的容易。ただ、何箇所か渡渉が必要なところがあり、距離も長め。ここからは全く見えない山頂まで、3日で行って帰ってくるには、是非とも今日は、山頂が間近に望めるスカイトップ・レイクスの一番上の湖あたりまではキャンプを上げたい。明日山頂をアタックし、明後日に戻ってくる計画だ。
歩き始めるとすぐ、煉瓦積みの煙突など鉱山の遺構や、スクラップになった古い車、小屋などが現れ、道=レディ・オブ・ザ・レイク・トレイルは高さ20m以上もあるひょろ長い細い針葉樹(ミヤマバルサムモミ?エンゲルマントウヒ?)の林の中に入っていく。1時間ほどで長さ1km、幅2〜300mほどの湖=レディ・オブ・ザ・レイクに着く。振り返れば国道の向こうのパイロット・ピークの岩峰が見え、鏡のような湖面には逆さパイロット・ピーク。ところで『レディ・オブ・ザ・レイク』はスコットランドの国民的詩人・作家ウォルター・スコットの叙事詩のタイトル(日本語訳『湖上の美人』)で、ロッシーニによってオペラ化もされているが、この湖がなぜ、そう名付けられたかは不明。ちなみにレイモンド・チャンドラーの『湖中の女』はThe Lady In The Lake。
バターカップ(キンポウゲ)やインディアン・ペイントブラシなどの花が咲いている。朝から虫除けネットを被っているが、蚊は想像以上に多い。
このあと、草原の中を流れる川を、沢靴やサンダルに履き替えるなどして何回か渡渉し、複雑な川筋を沢から沢へと渡り歩くようにスカイ・トップ・クリークの狭い谷間の道に入って行く。あとは基本的にはこの谷を遡っていけば、グラニット・ピークの山頂直下に達することになる。川の傾斜は強まり、白波が立ってくる。
やがて針葉樹林と岩場の間の草地に幕営適地が現れるが、まだ昼前でテントを張るには早い。強力な蚊の攻撃は止まず、手袋の上からも容赦なく血を吸われて手が腫れあがってくる。ギンザンマシコ(英名Pine Grosbeak)のつがいに遭遇。ゴルジュを抜けると谷幅が広がり、傾斜が急になった斜面の残雪を踏んで上がると、そこから世界が一変。一気に視界が開けてローン・エルク・レイク(湖)に出る。氷に閉ざされた世界。あたりは広く平らで、木もあまりなく、湖は半ば凍って残雪も多い。奥にはマウント・ヴィラードとギザギザの岩峰ザ・スパイアーズが見える。今日は、あの尾根の向こう側まで行かねばならないのだが、まだまだ遠そうだ。雲もかなり出てきた。
ローン・エルク・レイクの左を通って、より大きなラフ・レイクに出る。半島部や島、入江が入り組んで迷路のようなので、行き止まりにならないよう、川=スカイ・トップ・クリークの左岸を保って右へ右へと、残雪と沢と岩の間を縫うように進む。半分凍った大河のようなラフ・レイクを下に見ながら、その南岸を東へ進むと、スカイ・トップ・クリークは傾斜が少し急になっている。この川は上で左(北)へ大きく屈曲しているようなので川通しには行かず、飛び石で右岸に渡渉。雪の斜面、谷状のガレ斜面を登って左の尾根を乗越しショートカット。スカイ・トップ・クリークの上流に出る。このあたりまで来ると、トレイル=道がどこにあるのか、あるのかないのかも分からない。緩やかな雪面をトラバース気味に、川に沿って登っていく。
17時過ぎ、今日の目標のスカイ・トップ・レイクスの最上部はまだ遠く、山頂も見えてこない。日が長いので21時ぐらいまでは行動できるが、ちょっと疲れたので、半分雪に埋まった小さな湖の畔でテントを張った。標高3200メートル足らず。昼間崩れかけた天気も回復し、夜には北斗七星が見えた。
7月10日
6時に出発。谷の小滝を右下に見ながら雪の斜面を上がると、U字谷の上部が見通せるようなる。谷は右にカーブする形で伸びているので、正面に見えるのは右岸側の稜線、昨日下から見えたマウント・ヴィラードとザ・スパイアーズの反対側だ。谷の最奥部、右端に位置するグラニット・ピークは、稜線の陰になってなかなか見えないが、少しずつ、その台形状の姿を現し始める。今日も空はどこまでも青く、山々もくっきり。まさにビッグスカイ・カントリー、モンタナ。
谷を埋めた雪は、かなり凹凸の大きい洗濯板状で歩きにくい。草地には小さなケルンや、石がブロック塀のように積み上げられたところがある。2つの大きめの湖を巻くように右岸側を進むと、左のザ・スパイアーズの東壁が標高差4〜500mのスラブとなって迫る。浅い湖を飛び石で左岸側に渡り、草地を登ると、標高差400mほどの頂上岩壁がほぼ全貌を現す。あそこを登れるのか?再び、谷を埋めた雪渓は次第に傾斜がキツくなり、幅の広い水流の脇を上がると、そこが昨晩の幕営地に予定していた湖の畔だった。一段上はモレーンの段丘となっており、そのさらに上に山頂岩壁が覆いかぶさっている。大岩のそばにテントを張る。このあたりの雪渓は、地形図では氷河ということになっているが、他の雪渓と区別がつかない。
まだ9時半前。これから山頂アタックも可能だが、昨日の経験からも分かったように、ここは天気が変わりやすく、毎日のように夕立があるらしい。山頂岩壁で雨に当たりたくはないので、今日の行動は3時間ちょっとで終了とする。ということはしかし、明日山頂アタックしてから、トレイルヘッドまで帰ることはなかなか難しそうだから、食料を節約して明後日まで食いつながねばならない、ということになる。
テントの外にマットを出して昼寝していると、人懐っこいマーモットが盛んに現れる。岩の間の穴を通り抜けてやってくるのだろう。花もいろいろ咲いている。穏やか。天上の楽園のようだ。雨も降らない。今日アタックするべきだったか?鳥もやってきた。その夜も星がよく見えた。
7月11日
いよいよアタック日。今日も晴れているが、谷底のためになかなか日が昇らず、寒い。風も強い。6時に出発する頃には西の稜線に日が当たってくるが、頂上岩壁は未だ黒々。雪の斜面を100mほど登ってモレーンの段丘の上に出ると、窪地に水が溜まったカール湖になっている。頂上岩壁の取り付き地点となる細い雪渓に向かうと、あたりは崖錐斜面で、頂上岩壁が崩れて落ちてきた大小の岩で埋まっている。これは落石が怖い。やはり日が当たらないうちに登るのがいいのか。しかし、寒い。
アイゼンを付けてランペ状の細い雪渓を左上方へと登ると、一度雪が途切れた後に、傾斜が増す。まだ日が当たってはいないが、雪はあまり硬くない。標高差100mほど登って、ガレと雪の混じった斜面を左へ、大きなスラブの下をトラバースする。200mほど行くと右上へと斜上する明瞭なランペが現れる。summitpost.orgにSouthwest Ramp=南西ランペとして紹介されているルートだ(その後購入したガイドマップではSouthwest Couloir Right-Hand=南西クーロワール右股といったところ)。ここはちょっと窪んだ溝=クーロワール状のため、中は陰になって下からは見えず、日もあまり当たらないので、しっかりと雪が残っている。下の雪渓より斜度はきついが、やはり雪は柔らかめ。雪が消えてからはガレ場登りとなるが、落石も心配でかえって大変そう。
小岩峰に向かって登って行く感じのこのランペは、私の中では、エベレスト南西壁の左クーロワールの出口から南峰の基部へと右上するランペのイメージ。ドゥーガル・ハストンとダグ・スコットの気分で、アイゼンを利かせて登っていく。途中、残置支点とフィックスロープのある岩を過ぎると傾斜が強まるが、小岩峰から上に続く細い岩尾根と並行してクーロワール状に細く雪が続いている。これを登り続けていくと、岩が頭上に覆いかぶさるようになり、やがて岩尾根のコルに出る。前方は切れ落ちて深いガリーになっている。ここから尾根の上を左へ巨岩が積み重なった中を登って行き、平らな頂上稜線に達したら右へ。どん詰まりまで行って最後に大岩をよじ登ると、平らなその上が、3901m(12807ft?12799ft?)の山頂だった。時に9時30分。
岩に埋め込まれた円形の金属板が三角点で、U.S. GEOLOGICAL SURVEY BENCH MARKという文字とGRANITE PEAKという山名、三角形の中に十字が入っている三角点のマーク、1953という測量年が刻まれているが、なぜか海抜のフィート数は空白だ。ここにはまた、レジスターと呼ばれる赤い金属製の箱もあった。登頂者が名前や感想などを書き記すノートや、新約聖書、木製の十字架も入っている。昔の登山者が名刺やメモ書きを
山頂の空き缶に残した話は読んだことがあるが、現物を見るのは初めて。我々も名前を記す。このノートを信ずる限り、通常ルートも含めて昨年の9月から誰も登頂していない。今年は我々が最初の登頂者のようだ。
山頂から東側の下を覗き込むと通常ルートの急峻な稜線が見え、その先には、このルートの要のプラトーが広がっている。目を南に転じれば、眼下に、一昨日以来登ってきたスカイ・トップ・クリークが延びている。小さく我々のテントも見える。細かく山座同定できないが、360度あらゆる方角に山と谷、湖が望める。この山頂以外に人工物は見当たらない。
50分も滞在したのち、山頂を後にして来た道を戻る。岩稜も雪のランペも、時間をかけて慎重に下る。ずっと快晴ではあるが、この日は強風が吹き荒れており、キャンプに戻ると、テントが風で倒れそうになっており、ポールは曲がってしまっていた。
登頂の余韻に浸って今晩もここに泊まりたいところだが、まだ14時で、明日の行動を考えると、今日のうちにできるだけ下まで降っておきたい。撤収作業をしていると、この辺りの山の名物であるシロイワヤギの家族がやって来た。見られないのかなと思っていたので、ちょっと嬉しい。15時に降り始めると、1時間ほどで空には雲が広がり、振り返っても山頂は見なくなった。風も強いままで雨も降り出す。ラフ・レイクまで降る直前の草むらと針葉樹林の中に、テントを張ろうとしたが、なかなかいい場所がなく、まだ17時半なので、さらに降ることにする。ラフ・レイクの南東岸の段丘の上の草地は、どこでもテントが張れるが、吹きっさらしの地形なので、強風のこの日の幕営地には適さない。さらに降り、ようやく、ラフ・レイクの南、ローン・エルク・レイクに近いあたりの岩陰にテントを張った時には19時近くなっていた。この夜は大雨が降ったが、夜半には晴れて星空が広がり、月も登った。
7月12日
この朝もまた、雲ひとつない空が広がっていた。撤収を終えて6:15に降り始めると、割と軽装の単独行者二人に出会った。足元は運動靴、トレランシューズ、雪の多さに登頂は諦めて降るとのこと。人に会うのは4日ぶりだ。樹林帯に入り、渡渉を繰り返していくと、今度は高校生ぐらいの女子がメインのグループに出会った。引率者はモンタナ・ウィルダネス・スクールのTシャツを着ており、犬も連れていた。トレイルヘッドに着いたのは13時30分だった。
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