黒部横断 鹿島槍→剱 史上最速 ソロ パラグライダーハイクアンドフライ


- GPS
- 28:44
- 距離
- 44.2km
- 登り
- 6,520m
- 下り
- 6,687m
コースタイム
- 山行
- 12:50
- 休憩
- 1:12
- 合計
- 14:02
- 山行
- 12:30
- 休憩
- 2:12
- 合計
- 14:42
過去天気図(気象庁) | 2025年04月の天気図 |
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アクセス |
感想
5/6に編集し、正式な記録を記載しました。またスマホのGPSログが谷筋でバグっていたのでガーミンのGPSログに差し替えました(その結果水平方向のズレはなくなりましたが、飛行部分の軌跡が地上の移動と判定されるようになり累積標高が過大評価されています)。
パラグライダーを利用して黒部峡谷を横断しました。
【日程とルート】
4/30 大谷原→西沢→鹿島槍ヶ岳
5/1 鹿島槍ヶ岳→(パラグライダーによる飛行)→剱沢1400m付近→長次郎谷→剱岳→早月小屋→(パラグライダーによる飛行)→車道沿いの空地
以下は基本的に黒部横断というものをある程度知っている方向けの記述となっており、背景知識がないとよくわからないかもしれませんがご容赦ください。
【山行背景】
2023年の夏ごろに「パラグライダーを真に生かせる登山ルートはないだろうか?」と考え今回の計画に至りました。ここで「パラグライダーを真に生かせる登山ルート」とは、
・軽装トレランで行くよりパラグライダーで行った方が速い
・登山的な価値が一定程度ある
・パラグライダー初級者でも行ける(重要。私は初級者なため)
辺りの要件を満たすルートです。これらの要件は意外とシビアです。例えばパラグライダーは重いので季節やルートの条件によっては軽装でトレランした方が速いということは普通にあり得ます。また気象条件によってはパラグライダーを使って中央アルプス全山を丸ごと飛び越えることが可能なので「中央アルプスの端から端までだいたい稜線沿いに移動してください」というシンプルな設定の課題に対してはパラグライダーは徒歩とは比較にならないくらい強いのですが、流石に丸ごと飛び越えてしまうのは登山とは言えないでしょう。つまり純粋にパラグライダーを登山に役立てるのは意外と難しいのです。これはスキーが冬期登山の幅広い条件下で有用であるのとは対照的です。
以上のことを踏まえて黒部横断について考えると、直感的にパラグライダーが有用そうであると思われました。まず黒部横断はざっくり後立山連峰と立山連峰に対して垂直に進み、2回登り降りを繰り返すわけですが、これはパラグライダーに有利なルート構造であると言えます。なぜなら標高差を利用して水平距離を稼げるからです(もちろんパラグライダーはソアリングで稜線と並行に進むこともできますが、それでどの程度進めるかは気象条件や技量に左右される部分がかなり大きいです)。また、黒部ダムより下流の黒部峡谷は全体的に急峻なゴルジュになっており、通過するのに相当手間がかかるので、それを完全にスキップできるという点でパラグライダーはスキーと比較しても非常に有利です。
こういう話をするとそもそも黒部峡谷を飛んでスキップするのは黒部横断"登山"と言えるのか?意味があるのか?さすがにずる過ぎるのではないか?という疑問が生じます。これについてはもはや正解はなく個々人がどう考えるかという話になると思いますが、参考までに私の考えるポイントを挙げるとすると、
・現実の黒部峡谷横断では吊り橋やダムを渡るという手段がしばしば用いられる。そのような人工物を利用するのに比べれば空を飛んで超えるのは必ずしもずるいとは言えないのではないか。
・黒部峡谷を飛んで超えたとしても剱岳のどこかの尾根を登攀すれば登山要素は十分にあると言えるのではないか。
何はともあれ実際に黒部峡谷をパラグライダーで飛び越える試み自体前例がないし、壮観であることは間違いないので取り合えずやるだけやってみることにしました。2024年1月 - 4月および2025年1 - 4月にトライしたものの敗退し、今回ゴールデンウィークにようやく成功した次第です。ただやはり厳冬期と比較すると価値は相当落ちるので最終的には厳冬期に成功するところを見たいものです(他人事)。
【山行内容】
GPSログと動画を見れば内容はほぼわかると思いますので詳細は割愛します。以下では雑多な気づきや反省等を記載します。
・剱沢下流(1400m辺り)は電波が入る。もっと上流に行くと入らなくなる。
・二股から剱までは三ノ窓経由で行くのが素直だが、今回はトレースハンティングできることを期待して長次郎谷経由で行った。しかしGWにも関わらず長次郎谷にトレースはなく、完全ソロラッセル・踏み抜き祭りとなった。
・早月尾根は今回初めて通行した。難しいイメージがあったが雪が程よく付いていて踏み後もばっちりあったので簡単に感じた。ただし一か所デカザックだと狭いムーブがあり怖かった。
・長次郎のコルから剱岳本邦までの稜線上にはテイクオフ適地が複数あった。今回は風が良くなかった(無風+微妙に横風)のでやめておいたが、風が良ければ山頂付近から飛べると思う。
・早月小屋からぶっとびでも本来伊折の近くまで届くのだが、イメトレが不十分で空から見た景色がイメージと違ったり伊折の位置がよく分からなかったりしたのと、早月川の下流の方は河川敷の雪がほぼなくなっていたのでビビって馬場島付近の見るからに広い雪面に降ろしてしまった。
・早月小屋のそばの北向きの斜面は傾斜が緩いので無風でもリスクを感じずにテイクオフできた。
・剱沢下流のゴルジュ帯の残雪は一か所穴が開いているだけで全く問題なく通行できた。大昔の剱大滝登攀記録では5月上旬に3か所穴ありという記述があったので今回は下手すると完全断絶もあり得ると予想していたがやはり今年は積雪量が多かったということだろうか。
・鹿島槍山頂直下では雪が凍結しておりまともに風防を作れなかった(予想はしていた)。そのため少し降りた、風を防げる場所で頑張って雪を削ってツエルトを張った。
・鹿島槍山頂直下からテイクオフできるコンディションは2025年1月〜3月は月1程度しかなかった(4月は2,3回あったと思う)。鹿島槍山頂直下からのテイクオフに拘らず、より風の弱い牛首山からテイクオフする計画ならもっとずっと早く成功していたと思う。イメージ重視で鹿島槍山頂に拘ってしまった。仮に再びやるとしたら実用性重視で牛首山から飛ぶと思う。
・着陸直前の前傾姿勢が意識しても取れなかった。ザックの重さでどうしても足が上がってしまう感覚があった。もっと全力でやればよかったのかもしれないが操縦に影響することを恐れて今回はケツランを選択してしまった。
・やる前は冗談抜きで死亡するかもしれないと思っていたが、終わってしまうと簡単だったと感じる。剱沢下流のランディングは思ったより怖さがなかった。また5月に入っているので厳冬期より明らかに楽だった。そのため達成感があまりない。正直いっちょ前に動画化するに値する難易度ではなかったと思う(が、動画化しないとサンクコストが大きすぎるので動画化はする)。厳冬期より楽とは言え、厳冬期だったらできていなかったかというとそんなことはないと思う。結局鹿島槍からテイクオフする部分がボトルネックでそれが出来たら後は頑張るだけなので。
・内容的に体力のある人が気象条件の良い日にやればワンデイで行けると思う。
【山行動画およびお詫び?】
この動画はマス層向けであり、タイトルや内容等が、経験者から見ると不快に感じられることがあるかもしれません。なぜそうなっているかを一応簡単に説明します。今回の山行の諸々のコスト、特に事故のリスクは(少なくとも完遂前の評価としては)個人が趣味の範疇で背負える限度を超えていると判断していました。つまり単なる好奇心やロマン以外の目的がないとコスパが悪すぎて成立しない山行でした。そこで山行内容を動画として記録し、ある程度マス層も見れる内容に仕立てて公開し、ちょっとした社会実験的なことをして元を取れればと考えていました。その前提で見ていただければと思います。
【おまけ 日本でハイクアンドフライは流行るのか?】
50年後とかはわかりませんが、直近は残念ながら流行らないと思います。私が認識している大きな理由は2つ。
・カネがない(若者に)
・業界の理解がない
後者は私が直接業界の人と話して思ったことです(というか業界の人は皆知ってる話だとは思いますが)。私が話した相手の人が理解してくれないというわけではなく、業界全体として山岳飛行は基本的に危険行為扱いということです。まあ確かにエリアでプカプカソアリングしてるだけの人と山岳飛行する人のフライヤー保険料が同じというのは確かに筋が通らない感じはします。
ただやはりより大きいのは前者でしょう。最近はスキーでさえ厳しいのではないでしょうか?単に若者がアウトドアを好まなくなった、というわけではないでしょう。パラグライダー初級機が仮に5万円で買えたら間違いなく今より人口は増えるでしょうし。現役世代の可処分所得が停滞し続けているので買えない。年収300万円の人でも実質100万円近く社会保険料を天引きされているので厳しいです。
コメント
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おめでとうございます
ついに実行されましたね
素晴らしい
イヤーおめでとうございます
努力が実りましたね。
本当におめでとうございます!
ありがとうございます。長かったですねえ。というとやり切った感が出てしまいますが今回のは残雪期なので概念実証で本番は厳冬期だと思っています。
テイクオフから剣岳へ向かう様子を南峰から見ており、
素晴しい勇姿に感動しました。
おめでとうございます。
正式記録と動画を待ってます。
ありがとうございます。かなり昔からフォローいただいてますよね。大変お待たせしました。
私も鹿島槍ヶ岳からテイクオフを見て感動しました🥺
iPhone13で撮った動画があるので、必要だったら連絡ください😊
ありがとうございます。ぜひいただきたいです。
唯々、感動しながら動画を見させていただきました。
今日に至るまでのSugiyama123さんの不屈の精神力には尊敬の念しかありません。
おめでとうございました。
ありがとうございます。山岳アクティビティはしつこさがモノを言いますね・・・
文句なしに素晴らしいachievementです。
エポックメイキングですね。
尊敬しかないです。
長いこと応援いただきありがとうございました。
飛行中の撮影は自撮り棒と360度カメラでしています。さすがにドローンに追尾させるのは紛失リスクがありますしいくつかの観点で航空法に引っかかると思います(笑)
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