北岳散々山行/風雨の下山


- GPS
- 11:58
- 距離
- 17.0km
- 登り
- 2,232m
- 下り
- 2,237m
コースタイム
- 山行
- 4:42
- 休憩
- 1:37
- 合計
- 6:19
- 山行
- 3:48
- 休憩
- 0:55
- 合計
- 4:43
AKU
天候 | ▽6日:曇り時々晴れ・2000m以上ガス ▽7日:稜線暴風・山腹大雨 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2025年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
復路:広河原12:00発甲府南口 |
コース状況/ 危険箇所等 |
■往路:稜線はガスの中でも道迷いの恐れは少なく、険しい岩稜登攀もない。 ■復路:ガスで視界不良の中、北岳トラバースから八本歯のコルへ右折する所が分かりにくかった。目印に棒が2本ほど立っているが、コースが岩の堆積で足元に気を取られ、通り過ぎそうになった。 |
その他周辺情報 | 甲府駅北口徒歩12分(バス朝日5丁目徒歩1分)に昭和レトロの銭湯「喜久乃湯温泉」がある |
写真
感想
【6日】
出だしからつまずいた。甲府駅前で仮眠する貸ルームの予約日を間違え、当日夜中に予約し直す羽目に。寝不足で乗った早朝の広河原行きバスは路線バスタイプで、しかも山道を走るから車中でゆっくり居眠りもできなかった。
登山口の天気は雲が優勢なものの、時折り日差しも出る状態。吊り橋を渡ると、堰堤の脇を通っていきなり急登が始まった。7月下旬の予定を一度延期しており、山は2か月ぶりでいささか体が重い。一応、奈良田まで白根三山縦走の計画を出したが、明日は雨予報でもあり、間ノ岳だけ寄ってピストンする第2プランに心は傾いている。
40分で第1ベンチを通過。林の中のきつい坂が続く。さらに1時間余を経てようやく白根御池小屋に着いた。出発準備中の登山者を横目にテントの並ぶ池の畔をかすめ、再び急坂にかかる。木々のない開けた草地は、まさにお花畑の様相だ。後ろに鳳凰三山が見えるものの、頭は雲に隠れている。とりあえず足元の花々を励みに一歩一歩高度を稼ぐことにした。
午前10時前、木々の背が低くなり、行く手に雲が迫ってきた。腹もすいたので植生保護柵の説明版がある所で早昼に。温かいものはいらないのでパンとコンビーフで済ます。食べているうちにガスが退き、視界が広がってきた。歩き始めて振り向くと、鳳凰三山がようやく頂上までの全身を現した。特徴的なオベリスクもよく見える。
じきに小太郎分岐で稜線に出て、森林限界の上のハイマツ帯となった。日差しのない分歩きやすいが、標高2800mを超すので登りは息が苦しい。30分ほどして再びガスが巻いてきた頃、肩の小屋に到着。同着した若い男女の記念撮影を手伝いがてら、「書いてある通り“北岳に来ただけ”になっちゃった」と嘆き合った。
景色がないので再び足元の高山植物を愛でながら、さらに30分で北岳山頂に到着。見事に白い霧に包まれた無景の登頂だった。ここで折り返すという先ほどの男女とあいさつし、こちらは北岳山荘を目指す。
それなりの急斜面を下って行くと、標高3000m付近で風と共に突如雲の帳がちぎれ、部分的ながら行く手の視界が開けた。日差しが戻り、雲間に遠くの峰々や甲府盆地も覗く。山荘もチラリと見えた。トラバースルートから来たという女性に「山頂はどうでした?」と聞かれ、ガスで視界ゼロだったと答えたものの、今なら雲が切れるチャンスがあるかもしれない。ただ、西風はがぜん強くなった。再び雲が増えて視界のなくなった午後1時前、お世話になる北岳山荘に到着した。
大きな山荘だが、この日の宿泊者は15人ほどでテン場のテントもパラパラ程度。2階の「間ノ岳」という部屋に通されたが、相部屋は韓国人男性1人だけだった。
さて、なまった体は疲れているが、明日は天気が悪そうだし、まだ時間も早いので水筒とレインウェアを携行して間ノ岳方面へ出かけた。ガスの中、さすがに片道1時間以上の間ノ岳はかったるいので、中白根山のピークを踏んだことで満足して折り返す。人気のコースだが、平日でこの天候では行き交う登山者も少ない。そんな中、ちょうど間ノ岳まで行ってきたというご夫婦と前後しながら小屋へ戻った。
日暮れ前、部屋の窓を見ると間ノ岳方向の雲が消えて夕日に山体が映えた。手前の尾根が邪魔して間ノ岳本体は見えていないのだろうが、とりあえず写真に収めた。東南方向には諦めていた富士山も裾野から姿を現しつつある。暗くなる直前にはすべての雲が取れて端正なシルエットを拝むことができた。
【7日】
午前2時ごろ、窓を鳴らす暴風の音で目が覚めた。時々床が揺れるような感覚もある。うつらうつらしては風の音や窓をたたく雨の音にハッとする。ほとんど台風並みの風のようだ。4時半に山荘の電灯がつき、勇を鼓して起床してみたものの、外は相変わらずの風雨だ。
早立ちするつもりで弁当にしてもらった朝食を結局山荘の食堂で食べ、今日の行動を思案した。間ノ岳から農鳥岳の縦走は問題外で、本日停滞とするか、広河原まで下山するか。同宿者の判断は半々くらいのようで、出発準備を整える人がいる一方、部屋で布団にくるまっている人もいる。
停滞しても明日の天気が良いという保証はない。反面、外の風雨は若干だが夜中より弱くなった様子だ。スタッフに聞くと、稜線はとても無理だが、西風なので陰になるトラバースルートから八本歯のコルを経て御池小屋なら、足場に注意すれば下りられるという。
悩みつつ部屋から窓の外を眺めていると、同宿の韓国人、サムスン社員の李さんから声を掛けられた。当方の超片言の韓国語も李さんの片言日本語も意思疎通には不十分で、されば英語でと頭で構文を組み立てようとしたら、李さんがサムスン自慢のスマホで翻訳ソフトを起動した。「下山するなら同行させてくれませんか?」
甲府にホテルを取っていて、できれば今日中に下りたいらしい。北岳経由で戻れますかと尋ねるので、山荘スタッフの「無理」という判断を伝えたが、八本歯のコルルートを説明するのは困難だ。言葉は通じなくとも、この荒天では当方も一人より二人で歩く方が心強い。「いいですよ。一緒に行きましょう」と請け合った。
準備を済ませ、6時過ぎに出発。雨はこやみで冷え込みもないものの、風は強い。他の同宿者と前後しながらトラバースルートを辿った。54歳という李さんはなかなか健脚の様子で、こちらは自分のきつくないペースを保てば良いので歩きやすい。
北岳の山体が風を弱めてくれているものの、時には「グワンッ」という感じで突風が襲ってくるので気が抜けない。しばらくしゃがんで風をしのがざるを得ない場面もあった。
踏み跡の分からない岩の堆積のような区間に至り、吊り尾根分岐か?とも思うが、道標が見つからない。雨の中、やっとスマホでヤマレコをチェックすると、確かにここらで右に曲がるようだ。翻訳ソフトが使える状況ではないので、かろうじて覚えていた韓国語で李さんに「右へ」と声をかけた。
ただの棒が立っているのが見え、目印らしいと見当を付けたところへ少し前に追い抜いた男性登山者が追い付いて来た。教えを請い、棒を辿れば良いと聞いて一安心。我々は若干行き過ぎていたようだが、無事に吊り尾根ルートに入り、ほどなく八本歯のコルに着いた。
下ってカール地形に入ると、うそのように風が消えた。ホッとするが、足元の方は丸木の梯子だか階段だかが繰り返し現れる剣呑なコース。山荘の人が危ないコースと言った理由が分かる。気を付けて下ろうと思っていたが、お約束のように足を滑らせた。丸木の横木と横木の間に右足が落ち、体が前にのめる。両手で下の段をつかんだ瞬間、右のかかとが上の横木に引っかかり、膝がミシっと逆側に曲げられた。
体を横に捻って何とか脚を抜いたものの、はずみで下半身は梯子段の外に落っこちた。最下段だったので地面に着地できたのは幸いだった。李さんが心配そうに日本語で「大丈夫?」と声を掛けてくれたが、屈伸してみてもほとんど痛みはない。「大丈夫、ありがとう」と答えてすぐに出発した。情けないが、寄る年波を考えてこの手の区間はもう少しペースを落とすよう心掛けねばならないだろう。
雨が激しくなり、レインウェアがあまり役立たないことを嘆きながら、カール底の沢筋を下る。踏み跡を外しかけると、山慣れているらしい李さんが見つけてくれるので助かる。同じく山慣れた感じの単独女性が少し先を歩いていたことも心強かった。
大樺沢二股から森の中のトラバース道に入り、コルから1時間半で白根御池小屋に到着。先を急ぐ李さんとはここで臨時パーティーを解散、お別れした。小屋の軒下で休憩しようとすると、今度は出発準備中の韓国人団体登山者一行と遭遇。あちらで人気の山なのだろうか。
軒下のベンチで座っていると、濡れた体が冷えてきた。汗かきなので雨水ではなく汗で濡れたのだろうが、濡れたことには変わりない。小屋のコーヒーにも誘惑されたが、ずぶ濡れの体を温めるには歩くしかないから出発することにした。
雨は降り続いているので、安全な区間では折り畳み傘をさして歩く。おかげでじきにレインウェアの表面は乾いて来た。急ぐ必要はないので、再び濡れた道で転ばないようゆっくり下ったが、やはり一度だけ尻餅をついてしまった。どうもいけない。右膝も今は良いが、かすかな違和感はあるので、靭帯が多少伸びたくらいの損傷はあるのかもしれない。
いったん上がりかけた雨が再び強さを増す中、辿り着いた広河原インフォメーションセンターの軒下で体裁を整え、市営広河原山荘へ。体を乾かしがてら昼食をいただくことにした。
◇・・・・・・◇
下山後、翌8日が絶好の登山日和だったことを知った。その8日、当方は痛み始めた右膝にシップを貼ってJRの忘れ物センターへ急いでいた。甲府から帰るJR車中で落とした定期入れを回収するためだ。最初から最後までツイていない山行だった…と決めつけたら身も蓋もないので、嵐の中で李さんを無事下山させ、なくした物も正直な人のおかげで無事に戻ってくるという、稀有な体験に富んだ山行だったということにしておこう。
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