前巻の「ぼくらの民主主義なんだぜ」のあと、さらに朝日新聞に寄稿した時評一年分に併せて、他のエッセイもとりまぜたもの。タイトルはもちろんビートルズのA fool on the hill から。筆者の意図せざるところだろうが、読みながら懐かしい歌が頭から離れない。
美智子妃が自らの読書体験を語られた言葉にふれた「美智子妃のことば」、「もっと速さを」に引用された鶴見俊輔の言葉。高橋さんの本には、真実の深みがある人間の言葉がたくさん引用されていて、それはどんな現実を前にしても揺れ動かない本物の知性が発する言葉である。
高史明の息子、岡昌史(14歳)の自殺を知った鶴見さんの息子さんが父親のところに来て:
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「おとうさん、自殺をしてもいいのか」
とたずねた。私の答えは、
「してもいい。二つのときにだ。戦争にひきだされて敵を殺せと命令された場合、敵を殺したくなかったら、自殺したらいい。君は男だから、女を強姦したくなったら、その前に首をくくって死んだらいい。」
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鶴見さんの答えは「速い」。なぜ彼は即答できるのか、そこから高橋さんの思索が始まる。それを追っていくとちょっとした迷路に入り込んでいく感じ。アメリカ「プラグマティズム」の源流、テロと「シャルリーエブドー」とロバート・クラム、ル・グイン、ソンタグ、アーレント、そして太宰と谷崎へと話はひろがっていく。かれらはみな大きな時の流れとそれに同調しようという風潮に抗い、個として少数派を生きた人たちである。高橋さんの本は、自分にとっては読書案内のようなものでもある。
自伝的な「死者と生きる未来」で、ちょっと衝撃を受けた。高橋さんの過去、ここに書ける内容ではない。
「中東崩壊」日本経済新聞社編(日経プレミアシリーズ)
日経の記者たちが書いた中東の現状。一括して中東ではなく、中東の全ての国を一つずつ丁寧にとりあげて、政治、経済、宗教の視点で詳述しているところがこの本の特徴。UAE、クエート、オマーンなど小国の様子もよくわかる。第二次世界大戦以降の中東現代史を俯瞰するには適した本。とても読みやすいが、深いものではない。
「げんきな日本論」橋爪大三郎・大澤真幸(講談社現代新書)
こんな小見出しが並んでいる。
1.なぜ日本の土器は、世界で一番古いのか
4.なぜ日本には、天皇がいるのか
8.なぜ日本には、源氏物語が存在するのか
14.なぜ秀吉は、朝鮮に攻め込んだのか
17.なぜ武士たちは、尊王思想にとりこまれていくのか
書店でこれを眺めてすぐにレジに持って行った。聞いてみたいお話ばかり。この本は日本論というより、日本史の謎を二人の対談で読み解くもの。もちろん「ふしぎなキリスト教」のお二人で日本史の専門家ではないから、対談は自由闊達、視線が遠くまで届いていて、知的刺激に溢れる。歴史学者からの評判は厳しいものがあるかも(大胆なところも多数)、でも普通の人!にはなかなか面白い。
「『ニッポン社会』入門」コリン・ジョイス(NHK出版新書)
息抜きにちょっと古い本。塩野七生さんの「まったく、上質のユーモアという武器を持たせたら、イギリス人にはかなわない」という帯に惹かれて読んでみた。日本について、イギリスについて固定観念や偏見をきれいに払ってくれる、しかも暖かい。本当にイギリスの食事はまずいのか、勿論そんなことはないし、日本と英国は同じ島国だしとても似ている、なんて最もあり得ない誤解だという。英国人が日本土産を買うとして、何が売れ筋か、
「スルメは旅の土産としてはうってつけだ。ほんの数百グラムで、部屋にいる人みんながしばらく、その噛みごたえを味わうことができる。…そもそもこうした食感の食べ物自体がイギリス人にとって新鮮なのだ。」それを猫にやってみると
「猫はほとんど酒に酔ったように喉を鳴らし、スルメの入った小さなビニール袋の中になんとか頭を突っ込もうとしたのだった」という感じ。
10年前に書かれて、最近この続編がでたようで、本屋さんで見つけたらまた読んでみたい。
「風神の門」司馬遼太郎(新潮文庫)
大河ドラマ「真田丸」の後藤又兵衛の描き方がちょっと残念。「風神の門」では猿飛佐助が京都に続々集まってくる牢人たちに当座の費用を渡す場面があって、なかでも後藤又兵衛のエピソードはなかなかいい。この本では、いわゆる“真田十勇士”の一人、霧隠才蔵が主人公。「真田丸」では出番がないようだが(まさか“きり”が霧隠じゃないですよね)、幸村に惹かれて豊臣側となり、ついには徳川家康の首を狙うという設定。
司馬遼太郎の初期のエンターテインメント系の作品で、とても読みやすい。簡にして要を得た文体は司馬の特徴で、この本も一行目からもう作品世界に引き込まれる。
大河「真田丸」は面白くて毎週見ていますが、大坂方の描き方(秀頼・淀君・信繁の考えや役割など)には、「へえ〜本当なのかな・・?」と首をかしげちゃいます。
正確にわかっていないことについては自由に描いて良いのでしょう。まさにエンターテインメントなんですね
高橋源一郎さんの本、読んでみます。鶴見俊輔氏の答え、凄いですね。深い思考を迫られるようです。
cheezeさんの読書日記は良質な読書案内。でもなかなかこなし切れません
今、加藤陽子「戦争まで」を読書中。戦争に至るまで様々な選択肢があり、単純ではなかったことが良くわかります。
真田丸の件ですが、佐助が出るんだから雲隠才蔵も出してほしいですね
kamadam様、コメントありがとうございます。
雪の様子いかがですか。車の運転、十分気をつけてくださいね。
こちらも今外に出てみたら、庭が真っ白になっていました。このところ山に行きたい天気ではなく、家で読書したり、ご飯を作ったりしていました。今は宮城谷昌光さんの光武帝を扱った「草原の風」もうすぐ読み終わるところです。
久しぶりにDVDを借りてきましたよ。「オデッセイ」と「インターステラー」を見ました。前者は前に日記でとりあげた「火星の人」ですが、これは原作の方が面白かった。後者は難解もののSFですが、楽しめました。
真田丸、そろそろ終わりですね。北条氏政や秀吉、昌幸が活躍していた頃が面白かったですね。大河を全部見たのは私は珍しい 霧隠才蔵が言ってましたが(笑)「大阪が勝っても、秀頼の取り巻きがひどすぎて、平安の世はこない。徳川が勝つべき」みたいな。おっしゃるとおりですねえ。
景勝の「ひのもといちのつわもの〜」という叫びが一番印象に残っています。
加藤陽子さん「戦争まで」、今度本屋で探してみますね。
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