昨年は「僕はイエローでホワイトでちょっとブルー」で本屋大賞ノンフィクション部門の大賞をとった。キャッチーな装丁もかっこいいし、痛快無比な子育てとイギリスの学校制度、社会保障制度、そして労働者階級の人たちの生活をあからさまに描いた本当に面白い本で、たぶんかなり売れたし、読まれた方も多かったのでは。
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ところで、この本を読んで思い出したのがジョンレノンのこと。彼が1970年にソロでだした「ジョンの魂」の中に「ワーキング・クラス・ヒーロー」という曲があって(シングルだとイマジンのB面)、
A working class here is something to be
というリフレインが有名。政治的メッセージの強い歌詞だったが、ジョン自身は労働者階級の出身ではない。
もう一つ思い出したのは、1971年の「小さな恋のメロディ(原題メロディ)」という映画。日本で大ヒットした。自分も映画館に行った。小学生の男の子ダニエルが上流階級、ガールフレンドのメロディは労働者階級の子どもで、イギリスの、今はさびれた工場跡で教員たちと追いかけっこをし、トロッコで駆け落ちするエンディングが印象的。二人は階級の違いを理由に親に付き合いを反対されていた。(同じ学校には通っているし同じ授業も受けているのだが)遠い国のなんだか古臭い制度があるんだなあと当時思った(はず)。
ところが、あれから50年たった今でも、労働者階級は厳然としてイギリスに存在し、彼らの投票行動がブレグジット(イギリスのEU離脱)につながったといわれる。
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さて、ブレイディみかこさん。
80〜90年代にイギリスに単独で渡った日本人のパンク大好き少女が、向こうで平凡なアイルランド出身の男性と知り合い結婚し、男の子を育てる。その子の学校生活をめぐる様々な出来事、貧富の差、人種差別、階級差別、そういう中でも元気に仲間を作り成長する男の子(とお母さん)の成長が描かれている。この息子さんはなかなかクールで熱血のお母さんをうまくいなしながらかっこいいセリフを決めてくれる。移民大国であり厳然とした階級社会でもあるイギリスで、保母として働くお母さんが、時々見せる社会や政治に対する熱い怒りも、いまどきは、とても素敵だ。「きっぷのいい」という形容詞が似合う女性。
日本に一時帰国されてたブレイディさんが、生物学者の福岡伸一先生と対談していた記事が今年の元旦の新聞に載ってた。「多様性」と「エンパシー(共感)」という観点で、この本をまとめられていた福岡先生はさすがだった。
みかこさんは一介の保母さんにすぎないが、彼女の労働運動、女性運動、人権運動に対するスタンスはとても普通の人と思えない。あと二冊ほど紹介すると:
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「労働者階級の反乱」(ちくま新書)
はブレグジット(EU離脱)に至る階級と貧富の格差の歴史と労働者の投票行動について詳述されており、あまり目にすることのないイギリス社会についての評論系の本。特にイギリス労働党の歴史を知る上では、コンパクトでわかりやすい評論だった。
ブレグジットについて、日本の一部メディアでは、労働者階級のこの投票行動を「ポピュリズム」や「移民排斥」とかで説明するむきもあったが、そうではない。労働者階級の人たちはサッチャー以降続く保守党の「緊縮政策」に大反対で、「緊縮」がもたらしたものは社会保障制度の衰退だけということを身に染みて感じているのである。反緊縮の精神がブレグジットの国民投票に強く影響していたのだという。彼らは決して「踊らされた愚かな大衆」ではない。
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「This is Japan」(新潮文庫)
はブレイディみかこさんが日本に里帰りした折に、日本の底辺労働者やそれを守るNPOの人たちとのかかわりを描いたルポルタージュ。今の日本に、このように正当に怒りを表せる人はどれだけいるのか。すごいパワーだなと思う。
みかこさんは貧困家庭に育ち、若いころ日本でキャバクラなどでアルバイトしてお金をためてはイギリスに戻るというような、破天荒な暮らしをしていたのだが、そのキャバクラ生活(水商売生活)でさえも、もう昔のようなおおらかさはなくなって、とことん格差の中に落とし込められ、搾取されまくり、もう一攫千金などありえないという。
世の中はすでに至る所「貧困と格差」なのである。このルポの中で、保母であるブレイディさんは日本の保育園訪問を通して、反緊縮運動、反貧困運動がここからスタートできるのではないかと、その可能性を探っている。ブレイディさんは、書く本の面白さ以上に、この人自身のたくましさや生き方の面白さにひかれる。こういう人こそ、日本にいてグラスルーツの労働運動や人権運動を掘り起こしていってほしいと思った。
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イギリス労働党のジェレミー・コービンやアメリカの民主党左派バーニー・サンダースなど、若者に人気がある「老いた」左翼のおじいちゃんたちがいる。もうちょっと彼らが若ければね。そして日本にもそういう魅力あるリーダーがほしいと切に思った。
もう、何度も名前変えて、どこに行っちゃったのかとおもったら、チーズさん。
ブレディみかこさん、まだ読んでいないけどこれから読むところです。図書館待っていても全然来ないので、買いに行きます。
今年出た、「ワイルドサイドをほっつき歩け」タイトルが最高ですね。ルー・リードの「ワイルドサイドを歩け」に「ほっつき」を入れるだけでこんなにおもしろいのか!と感動しました。若くして日本を転げ出て、逆襲してくるもうひとりにヤマザキマリさんがいますけど、本当にたくましいですね。ついていきたいくらいです。
内田親子論もありがとうございます。ドライトマトもやりたいけど、畑のない町に単身赴任になってしまいました。
いつも書評楽しみにしています。
yoneyamaさん、コメントありがとうございます。ちょっとぶらっと放浪しておりましたが、また戻ってきてしまいました
名前も変えて生まれ変わって心機一転みたいな感じで
ブレイディさんは、生き方がパワーあふれて、ちょっと凄い人だなあと思っています。この濃い生き方、一回りして、今の若い人に受ければいいなあ。ブレイディさん、街場の平成論にも顔出ししてましたね。
ドライトマトはこの夏4回作りまして、いま冷蔵庫に少しストックあります。果物などは干すと(特に天日干し)だと味が深まりますね。
もう一つ、野菜や果物は、冷たいポタージュにしたり、シンプルにスムージーにしたりして楽しんでました。少しでも野菜を作っているといろいろ楽しみありますね。
また単身赴任になったようですが、暑い土地、体に気を付けて残りのキャリア頑張ってくださいね。
ではまた。
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