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心配された台風が、日本列島を避けて中国大陸の方に進み弱まるとの天気予報を聞いた上での決行でした。私の決断は正しく、ずっと晴天続きの快適な山行を楽しむことができました。山旅最終日、赤石小屋で朝を迎えると、素晴らしい晴天で、空気も澄み、視界もすこぶる良好でした。しかし、風がものすごく強く、主稜線上は歩くのも困難だろうと想像されるすごい風でした。ああ、中国大陸に上陸した台風が、こっちにやってくるんだろうなと直感的に想像しました。
椹島に下山中、大きいザックを背負った若い女性の単独行者とすれ違いました。聞くと、北岳まで縦走するとのこと。「すごいですね〜」などと会話していたら、「明日、ものすごく荒れるんですよね」とうかない顔。「大荒れだったら、山小屋で停滞するしかありませんね」と私。「そうですね」と彼女。「安全第一で、がんばって下さい」と言って別れました。山の上では、下界の情報からまったく隔離されていた私。帰りの車の中で、爆弾低気圧が明日日本列島を通過するという情報を耳にして驚きました。この時期に爆弾低気圧?
何故元々台風だった熱帯低気圧が、中国大陸に上陸して弱まったのに、日本列島に近づくと温帯低気圧として再び爆弾低気圧として急激に発達するのか?素人気象予報士だが、少しうんちくを語らせていただきたい。
熱帯低気圧(台風)と温帯低気圧は、そもそも発達の機構が違います。結論から言うと、台風のエネルギー源は、水蒸気が凝固するときに発生する蒸発潜熱。温帯低気圧のエネルギー源は、冷たい空気と暖かい空気の温度差による発生するエネルギー(位置エネルギーが運動エネルギー変換されるため)によるものであります。
熱帯低気圧は、低気圧周辺に湿った暖かい空気があることが条件になります。この空気同士がぶつかり合い、上昇気流が起こると、上空の冷たい空気に冷やされ、水蒸気が凝結し、細かい雲粒(水滴)ができ、その時に熱が発生します(蒸発潜熱)。熱が発生すると、空気が暖められ、その部分は周りと比べ暖かくなります。周りに比べ、暖かくなると、その部分の水滴を含んだ空気は軽くなり、自然に上へ上へと上昇する力が生まれます(浮力)。上に空気が運ばれると、それを補うために、下界の湿った暖かい空気が次から次へと流れ込み(言い換えると、自然と下界のエネルギーが供給され)、これも上昇していきます。これにより、巨大な雲壁ができます。下部の湿った空気は、どんどんこの雲壁に吸い上げられることにより、強い風となります。これが、熱帯低気圧が発達する原理です(図1)。従って、熱帯低気圧の発達は、海上でしか起こらず、大陸に上陸すると、湿った空気が供給されず(エネルギー源が絶たれてしまい)、急速に衰えてしまいます。
温帯低気圧は、西側に冷たい空気、東側に暖かい空気があることが条件になります。温帯低気圧の周りは、図2に示すとおり、反時計回りに西側は北から冷たい空気が、東側は南から暖かい空気が流れ込んでいます。冷たい空気と暖かい空気の境界線を考えてみる・・・これは、密度の違う空気(冷たい空気は重い空気。暖かい空気は軽い空気)が鉛直に立った壁を境にして並んでいる状況と同じです(図3の左側の図)。この壁を取り除くと、重い空気は軽い空気の下に潜り込み、軽い空気は重い空気の上にのっていきます。もし、空気が混同しなければ、最後は図3の右側に示したように重い空気は完全に軽い空気の下にきます。図3の左側の図と右側の状態を比べてみると、右側の状態の位置エネルギーは、左側の状態より小さくなります(空気全体の重心の位置が変化します)。この位置エネルギーの差異が運動エネルギーの源になります。実際の温帯低気圧では、西側では冷たい空気の下降運動をしており、東側では暖かい空気が上昇運動をしています。これは、まさに全体の位置エネルギーが減少させる体制で、減少した量だけ運動エネルギーが増加中の状態です。すなわち、温帯低気圧に伴って吹く風が強まっていく状態であります(小倉,1995)。
爆弾低気圧は、風の鉛直シェアが大きい(上空にジェット気流が吹いていることが条件。鉛直シェアが強くなるのは一般的に冬。秋になるのは珍しい)等という複雑な条件も絡みますが、基本的には、この温度差が極端に大きい時が、その発生の条件になります。今回の爆弾低気圧は、一度中国大陸に上陸して弱まった台風が、北上し、温帯低気圧の性質に変化し、再び急発達してきたケースであります。
今回の爆弾低気圧により、せっかく見頃を迎えたアルプスの紅葉が、全部散ってしまうのではないかと心配しています。さらに、下山途中で会ったあの登山者は今はどうしているのか?気になるところであります。まー、山慣れた感じなので、きっと赤石避難小屋か荒川小屋で小屋のご主人と酒などを酌み交わして談笑していることと想像します。
参考文献:小倉義光;「一般気象学」第17刷,東京大学出版会,p.188-189, 251. (1995)
Atsumiyaさま はじめまして
爆弾低気圧通過中の強風や大雨も心配ですが、通過後の北西からの風も寒気を呼び込んでいるので、気を付けなければなりませんね。
早速中国地方には、北西からの風が吹きそうですが。
shokunpapa様
はじめまして、コメントありがとうございます。
おっしゃるとおり、今回の爆弾低気圧の後は、
強い寒気が入ってきて、一時的に強い冬型になりそうですね。
北アや北海道や東北の山々はもちろんとして、
もしかしたら、大山あたりも初冠雪なんてあるかもしれませんね。
今年の冬は早く来そうです。
その前に錦秋の山を存分に楽しみたいですね。
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