短歌百名山 (5) 大雪山
(深田久弥の「日本百名山」の順序に沿って、このブログを書いているが、私にとって大雪山は百名山達成の山にあたる。
2012年の8月31日に登ったのだ。北海道の百名山集中登山で、100番目の記録達成は大雪山をおいて他にないと思ったからだ。翌日には苫小牧からフェリーで帰る。)
大雪山について深田久弥は、大雪山と言う和名は大正時代につけられており、もともとは「ヌタクカムウシュペ」と呼ばれていたと記している。
「古い五万分の一の図幅にも、ヌタクカムウシュペを主にして、大雪山は括弧の中に入っていた。図幅名も「ヌタクカムウシュペ」であった。ところが新版では「大雪山」に変った。青函連絡船に大雪丸があり、急行列車が大雪号と呼ばれ、大雪山国立公園が広く宣伝されるようになっては、アイヌ名は次第に影をひそめて行くばかりだろう。北海道の山名にアイヌ語が存在すること、私たち古典主義者には大変なつかしいのだが、時世の勢いは如何ともしがたい。」
いまは急行大雪も青函連絡船もなくなった。時代は著しくかわるものだ。
「もとはヌタプカムウシュペで、「川がめぐる上の山」の意だそうだが、プ音は呑まれて明瞭ならずク音に聞えるので、ヌタクカムウシュペとなったという。「川がめぐる上の山」とは、原始民の直截素朴な、まことに当を得た名づけ方であって、石狩・十勝の一大川がその源をこの山塊から発し、その麓をめぐって流れている。」
「しかし今や大雪山である。大雪山国立公園は十勝や石狩の連峰もきんでいるが、私ここでは元のヌククカムウシュベ、つまり旭岳を中心とする火山群に局限する。その火山群とは、北鎮、白雲、北海、凌雲、比布、愛別、その他の峰であって、すべて一千米を越える。北海道で一千米は貴重な存在であって、この一群は北海道のどまん中を占め、文字通り北海道の屋根をなしているのである。」
と深田は大雪山国立公園に十勝や石狩の山域を含めることに異を唱えている。言われてみるとそれぞれ違うエリアであると私も思う。
この大雪山には、恐らく調べれば北海道の歌人が歌い上げていると思うが、私が短歌に深くかかわっていた時代に目にした歌人の歌を上げる。
雪白き大雪の山分け入れば紺るりの湖ひとつしずまる 宮柊二「忘瓦亭」
大雪山の老いたる狐毛の白く変わりて一人径を行くとふ
夕日今し沈まむとして大雪山山なみの秀の雪光あり 佐々木信綱
雲と雪けじめなくして山の上に大雪山はしばし見えたる 々
神々の庭(カムイソダラ)先住民の呼びたりし大雪山にひとひらの雲
幾筋の噴気残雪の頂もともに映して緑色の水 矢島京子(短歌現代 91.4)
ヌククカムウシュベもカムイソダラも日本語的には美しく響かない。大雪山とはよくつけた名前だとは思うが、実は大雪山と言う峰ははないのです。この山域の、と言うよりは旭岳を盟主として御鉢平を囲む山々を総称していうのが大雪山なのだ。最高峰が旭岳であるから、そこを踏んで大雪山を登ったことになるが、間宮岳・北海岳・黒岳・北鎮岳・中岳を踏まないと大雪山に登ったことにはならないのではないか。さらに比布岳・愛別岳と言う2000m級の山も含まれる。まさに北海道の天井と言える。本州の3000m級に匹敵するのだ。
まあ、しかし短歌の世界では大雪山だ。
宮の老狐は自らのことだと言うが、「行くとふ」という表現にこだわる。これは「行くという」という伝聞的表現になるとおもうが、「色白く変わりて」とあるから見たのだと思う。そういう「老いた狐は自ら死に場所を探すのだと聞いている」とするならば狐への思いと自らの老いとを重ねている歌になる。自分もこういう歌にはこだわる。歳だから。
佐々木の歌、1首目はどこから見たのだろうか。旭川の街からかな。二首目は時間がいつか気になる。それと雪と雲のけじめがないと言うのはよほど天気が良くない日で、大概は区別がつく。なにか矛盾した表現に思えて大先生の歌にしては絵になりづらいと感じる。あまりピンとくる歌がないな。
矢島の二首目は姿見の池でを詠う。宮の1首目も姿見の池かもしれない。私は先住民とは使わない。
アイヌ人(びと)またはアイヌの人ら、としたいな。深田の説明には「神々の庭」説はでてこない。
むしろ、この山域を歩いて地質学的に興味を持った。あの御鉢平が噴火口なのか気になった。
↓
大雪ものしり百科:自然編|大雪山の歴史:その1 | 上川総合振興局地域創生部地域政策課
リンク
www.kamikawa.pref.hokkaido.lg.jp
ネットで大雪山の歌を探すが、うまくヒットするものが無く、上にあげた歌しか今のところないのが残念だ。北海道の歌人で検索しても歌までは紹介されておらず、唯一、十勝の歌人、時田則夫を幌尻岳の短歌探しで知った。歌集2冊をアマゾンで注文した。
ウィクペディアで「北海道の歌人」を検索して得た情報は下記の通り。
歌人 違星北斗:1901年(明治34年) - 1929年。余市町 「アイヌの啄木」と言われた
違星北斗 北斗帖
リンク
www.aozora.gr.jp
⇒アイヌ人であることを背負って歌を詠んでいて、今後気になる歌人の一人。
バッケイやアカンベの花咲きましたシリバの山の雪は解けます(北斗帖)
岡しのぶ:旭川市(恵庭市生まれ)
加藤千恵:旭川市
斎藤史:旭川市(東京都生まれ) 女流歌人として有名
時田則雄:帯広市 『ポロシリ』という歌集がある。
中城ふみ子:帯広市
浜田康敬:釧路市
柳澤美晴:旭川市
山田航:札幌市
雪舟えま:札幌市
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今後、山にまつわる歌を、私は探す。いずれの歌人も北海道の大地とは時田をのぞいて縁がなさそうだ。残念。
私は2012年の8月31日に百名山最後の山として大雪に登った。
私は朝一番のロープウェイで姿見駅に行き、旭岳から間宮岳、中岳分岐から姿見駅に戻った。お鉢平の縁を通って、西半分を歩いたことになる。
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