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序章
世界最高峰は“エベレスト”である。これは周知のとおりである。しかし、その名は“チョモランマ”ともいい“サルガマタ”ともいう。エベレストは、山の高さを測量した英国の関係者の名前。チョモランマはチベット名で“大地の母”。サガルマタはネパール名で“世界の頂上”の意味だという。
ヒマラヤ登山の草創期、エベレストや日本が初登頂したマナスルなどは、ベースキャンプから前進基地を延ばして山頂へ至る方法が採用された。これを極地法(ポーラーメソッド)という。登頂という目標に向かって、メンバーが協力しながら積み上げていくという方法は、日本の最も得意とする方法だ。現在もそれが主流であることは間違いないが、単独登攀や無酸素登山、長大壁からのアタックなど、より多様な方法が取られている。国内での採用は限定的なものであろう。
ベースキャンプ型の登山としては、このほかに放射状登山がある。これはベースキャンプを拠点に、あの山、この山と放射状にアタックを繰り返す方法だ。たとえば、上高地を拠点に焼岳・霞沢岳・前穂高岳・奥穂高岳・蝶ヶ岳や槍ヶ岳を日帰り登山することが考えられる。そんなことを考えていたら、南アルプスの甲斐駒ヶ岳と仙丈岳。これはいいなあ、と思った。北沢峠にキャンプして一山ずつ登れば、形而上は放射状登山だ。
何よりも、北沢峠までバスで入れば、テン場までは徒歩約10分。荷物の多寡は気にならないし、山小屋も多くあるので何かと便利であり、気楽である。何よりも日帰り装備で登れるというのが魅力である(^^)/
アプローチ
夢を見ていて、4時の起床予定を30分ばかり寝過ごしてしまった。腕時計のアラームにも気づかないで夢を見ていたらしい。神さんの起きた気配で目を覚ます。いつもは早い神さんも寝過ごしたようである。今日は、甲斐駒に登るのだが、テントを設置してから駒ヶ岳の往復である。多少暗くなって戻ったとしてもどうってことは無い。そんな状況が、緊張感を無くしているのであろう。
長谷村営バスセンターからは、鋸岳の峨々とした山容が望まれる。ロープ頼りに登下降を繰り返すという鋸岳の縦走路はどんなところなのだろう。鹿窓とはどんなものなのだろうか。鋸岳のギザギザの稜線に興味は尽きない。甲斐駒よりも仙丈よりも、気になる鋸岳である。
バスは、人が集まると随時出発した。運転手のガイド付きで、北沢峠まで小一時間である。ガイドつきは良いのだが、切り立った断崖を行く道路である。運転がおろそかになりはしないかと、ハラハラする道中でもある。峠近くでは、カモシカも姿を見せた。峠はオオシラビソの原生林に覆われて、昼でも薄暗い感じである。展望はまったくない。
山梨県旧芦安村側へ少しばかり歩いて、左手に下りていくと北沢峠のキャンプ場である。沢沿いに良く整備された、広いテント場であるが、ほぼ埋まりつつあった。人気の甲斐駒仙丈である。仙水峠方面を見上げれば、摩利支天の白い岩峰がわずかばかり顔を覗かせていた。
甲斐駒ヶ岳
沢に沿った登山道を登る。仙水小屋で水を飲み顔を洗う。冷たい水である。小屋は小さく、テント場も狭い。しばらく登るとガレ場となる。岩の積み重なった道をたどり、行き着いたところが仙水峠である。甲斐駒ヶ岳と鳳凰三山へ向かう三叉路でもある。摩利支天を正面に眺める、良い休み場で大勢の人が休んでいる。小仙丈岳は見えているのだが、それより高い所は雲がかかっている。駒ヶ岳も摩利支天から上は雲である。双児山のコースが合流すると、なお一層賑やかになる。駒ヶ岳山頂へは岩の尾根が続く。
いったん下がった鞍部に、六方石と名付けられた巨岩がある。ここで直登コースと巻き道コースと分岐する。巨岩の積み重なる直登コースを取る。岩のかすかな踏み跡をたどると途中で行き詰まってしまった。右手へ進んで道に出る。この道が本来の直登コースで、六方石から少し登ったところに分岐の標識がある。本来の直登コースに戻ると、単なる岩っぽい、何でもない道である。
山頂は大きな岩が散在するちょっとした広場となっている。若者が3m位の岩でボルダリングをして、キャーキャー騒いでいた。足場を切ったコースもあるが、手掛かりの無い正面のコースで遊んでいるのだ。私も、若者グループが終わったのを見てトライする。重登山靴で登るのは私だけのようである。一回目は失敗。気合を入れ直して二回目に成功する。どこからともなく拍手が起きた。神さんも一般ルートから登ってはしゃいでいた。
霧がかかって来て、遠くの眺望だけでなく、近くの見通しも悪くなった。それでも切れ切れの晴れ間を楽しみながら、山頂で一時間半を過ごす。日本百名山だけあって、頂上をめざす人の切れ目は無い。下りは摩利支天で昼食を取る。あいにく雨が落ちてきたが合羽までは必要がない。
駒津峰からは尾根コースをたどる。いったん下って双児山に登り返す。双児山からはシラビソの原生林となる。花の写真を撮っていると、山頂でカメラのシャッター押しを頼まれた夫婦連れが話しかけてきた。それからは、山の話などをしながら一緒に降りる。いつものことだが、最後の下りは長く感じるものである。しかし、見ず知らずの人でもおしゃべりしながら歩くのは、楽なものである。
仙丈岳
今日は一三時のバスに乗る計画である。一五時五〇分のバスもあるのだが、温泉にも入りたいし、夕飯はちょっと美味しいものを食べたい、となると帰りが遅くなるので、どうしても前者に乗りたいのである。まあ、乗れなくても、一五時のバスには間違いなく乗れるであろう。その点、気は楽であるが、ある意味でプレッシャーであることは間違いがない。
三時前に目が覚める。山の朝は早い。ポツポツと、テントに明かりがともっている。まだ暗いが、テントをたたんで出発したグループもある。神さんが、長衛小屋に余分な荷物のデポを頼んでおいたので、そこまで行って朝食を取る。懐電をつけて歩きたくは無かったが、大平小屋あたりまでは懐電となる。
直ぐに樹林帯の急登が始まる。沢コースの常で、滝などの悪場を乗り越える巻き道であろう。九十九折りの道が終わると、休み場があり藪沢大滝が眺められた。中高年グループが弁当を食べていた。だらだらと登っていくと徒渉点に出る。ここで一休みする。他にも休んでいるグループが多い。ほんと登山客が多い山域だ。下手には駒ヶ岳が全容を見せる。
沢沿いの道は花が多い。沢から離れると直ぐに馬ノ背ヒュッテである。仙丈岳の山頂が、流れる霧に見え隠れする。大きな藪沢カールの中程に、工事中の仙丈避難小屋が眺められる。ドリルの音が聞こえている。来年からは「幕営禁止」と張り紙があった。大きく、新しくなった小屋と引き替えに、またひとつテント場が消えていくのは寂しいものである。
山頂は思ったより狭く、人も多かったが、時間が早かったせいか、休む場所の余裕はあった。霧がかかって遠くの眺望は無い。時たま霧が晴れることがあり、延々と続く仙塩尾根が望まれた。その先に南アルプス中枢の山並みが広がっているはずだが、霧は一向に晴れる気配がない。昨日のように1時間半も休んでいる余裕もなく、30分の休みで下山にかかる。
時々霧の中から表れる、小仙丈沢カールの縁に沿って下る。小仙丈岳まで来ると、霧が上がった。振り返ると小仙丈沢カールの縁の向こうに、仙丈岳山頂が望まれた。北岳の裾野も見え始めた。時間に余裕があったので、ここで大休止する。栗沢山から鳳凰三山へ続く稜線。地蔵岳のオベリスクが稜線からポツンと飛び出していた。オベリスクは鳳凰三山の象徴である。南アルプスはどっしりと、雄大だ。
摩利支天と甲斐駒の中間あたり、標高2800m位の所に、雲の線があって、そこから上は晴れそうもない。30分休んで下る。樹林帯に入るまでに、姿を見せてくれと祈った北岳は、とうとう最後まで山頂は現れなかった。3000m以上の高山は、そう簡単にはお会いできないということか。
12時前に北沢峠に着き、バス停で待っていると運良く12時20分に臨時バスが出て、それに乗ることが出来た。バスは満員で、ザックを抱えて乗る。これは窮屈であったが、あっという間の感じで、バスセンターに着いた。
高遠温泉「さくらの湯」で汗を流す。こぢんまりした、落ち着いた施設である。スベスベする温泉である。石鹸が落ちないのかと思って、落とそうとすると、さらにスベスベとなった。ユニークな温泉である。
“放射状登山”と銘うった登山は成功裡に終わった。しかし、反省点もある。正確に言うと反省というよりは願望。願わくば、キャンプサイトに食料品店やレストランがほしい。さらに温泉と酒屋さんがあれば、極楽、極楽。次は、そんなベースキャンプを探したい。
写真左:北沢峠テント場 僅かに摩利支天が臨まれる
写真中:甲斐駒ヶ岳は岩の山だ
写真右:藪沢カール(仙丈岳)
myoukohiutiさん、こんばんわ。
ベースキャンプ登山いいですね。
北沢峠なんてバスがバンバン走れるんですから、
もう少し、補給物資くらい置いてくれる店が
あってもいいように思いますね。。
そういう意味では、補給はしにくいけど、
温泉があって、景色のいい雷鳥沢なんかは
極楽ですね。1カ月くらいのんびりしてみたいです。
k-yamaneさん こんばんは
雷鳥沢はいいですね。何といっても3000m級が眼前ですから。雰囲気が全然違います。温泉付きみたいなとこですからね。ただ、日本は南北に細長いですから、放射状となるとチョット不利ですね。それで山の麓をベースにしたらどうかと考えたことが有るんです。
道の駅、 奥飛騨温泉郷上宝なんてどうですか。オートキャンプが出来て温泉も有ります。これなら焼岳、西穂、笠ヶ岳、乗鞍辺りは行けますね。日帰り空身で。あとは高山見学でもして。って、いつも計画倒れ、というのが多いです(-_-;)
奥飛騨温泉郷はいいですね。
昔、トンネルのなかった頃、新穂高の湯あたりで
車中泊スキー合宿みたいなことは
していたことがあります。
ただオートキャンプは金額が張りますから(笑)
南ア方面だと道の駅蔦木宿。。こちらは河原のキャンプ場無料です。
温泉もありますしね。
ここから道の駅白州まで8キロ。温泉なし車中泊なら
こちらのほうが地理的によく、甲斐駒、鳳凰、
茅ケ岳、八ヶ岳あたりまで足を延ばせそうです。
この周辺も温泉はいくつかありますし。
八ヶ岳なら蔦木宿のほうが近いですが。
こんにちは〜
確かに、確かに。オートキャンプ場高いです(-_-;) オートキャンプ場は一回泊ったきりです。周りはレジャー用のテントで、こっちは登山用のテント。異次元の世界に迷い込んだような違和感が。それで一般キャンプ用のテントを買いました。格安の特売で。しかし、一回使ったきりでお蔵入りです(-_-;)
蔦木宿も白州も使えますね。地理的にいいですね〜。グルリと山が囲んでますから。道の駅は、公の施設で駐車禁止?なんて心配する必要が無く、安全面でも優位だろうと良く使います。いい道の駅紹介有難うございました。ではまた。
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