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2016年09月28日 15:15山たびの軌跡全体に公開

錦秋の穂高連峰(ババ平〜北穂高岳)

山たびの軌跡42 夜中に目を覚ますと、雨である。雨の音で目が覚めたのかもしれないが、予報に反しての雨である。風も強い。この状態では、大キレットの通過は無理だ。せめて氷河公園くらいまでは行きたいなあ、などと思いながら、起床時間を遅らせて模様を見る。雨の音がしなくなったので、テントの外を覗いてみると、黒い雲が覆っているが、千切れるように雲が流れ、ところどころ明かりが差していた。これは好天の兆しである。寒冷前線が、通り過ぎたのに違いない。いや、それが未だだとしても、早晩、通り過ぎることは間違いがない。急ぎ起き出して出発の準備にかかる。

計画より1時間遅れの起床であったが、出発は10分遅れの6時10分であった。まあ、ほぼ計画通りである。槍沢の左岸通しに歩を進める。水俣乗越の分岐あたりから、カール状地形が広がる。広い圏谷にナナカマドの赤が映える。まさに錦秋である。槍ヶ岳がガスの中から姿を現しては消えた。もう晴れ上がるのは時間の問題である。槍ヶ岳への分岐を左へ進み、ガレたカールを横切る。ちょうど中程にナナカマドの一群があって、カメラマンが列をなす。深紅のナナカマドとカール地形、槍ヶ岳、青い空。絵になる構図ではあるが、十人が十人、同じ時間帯に、同じ構図というのも面白い。

カールの端から灌木帯を登って、少し下ると天狗池である。直径5m位の小さな池である。透き通った冷たい水が、池尻から流れ出している。すでにカメラマンが池の周りに陣取っていた。池を右回りに進んで対岸に回ると、池の向こうに槍ヶ岳がそびえている。その姿が池の水面に映っている。槍ヶ岳がガスの中から姿を現す一瞬がシャッターチャンスである。しかし、ガスばかりではなく、風もまたシャッターチャンスを左右する。水面が波打つと、そこに写る槍ヶ岳が崩れてしまうのである。「ガスだあ〜」「風だあ〜」と賑やかなものである。私達は、運良くグラビアに出てくるような光景を見ることが出来た。

天狗池の光景だけが喧伝されているが、それだけではない。この辺は地形図には天狗原、と記載があるが、一般的には氷河公園といわれている。公園の名が付くだけあって、この辺一帯の光景がユニークなのである。南岳カール、槍沢カール、ツバメ岩、アップダウンを繰り返す東鎌尾根、累々と重なった岩屑。それらを埋める紅葉群。それらが渾然一体となって創り出される光景。それは北アルプス随一の光景といっても過言ではない。ただ、その光景を目の当たりに出来るのは、まず第一に天候に恵まれなければならない。風や、ガスがかかっていれば、この雄大な光景は想像でしか味わえないのだから。その晴天に恵まれた僥倖を素直に喜ぶ。

稜線から延びる尾根に向かって、岩の積み重なる、なだらかな道を進む。岩畳の道は、踏み跡の判然としないところもあるが、歩きやすい所を登れば良いので、悩むことはない。ひと登りで尾根に乗る。北穂高岳や前穂高岳・常念岳・燕岳などが目に入った。穂高連峰に抱かれて、異次元の世界に立っているという雰囲気がある。ここから戻るグループも多い。これだけの景色を楽しめれば、それで十分である。

ここからは岩の道である。出だしはなだらかな道だが、稜線直下は鎖の下がる急な道である。喘ぎ喘ぎ一踏ん張りすると、穂高連峰の主稜線である。360度の大展望。さすがに北アルプスは雄大である。槍の穂先が微妙に傾いて、アンバランスに見えるのは一興だ。南岳小屋に降りていくと、風が強くなった。風力計のプロペラが、ヒュンヒュンと音をたてて回る。しかし、小屋前の石積みの影にはいると、ぴたりと風が遮断された。これからが今日の難所、大キレットである。たしかに大キレットは難所である。が、一回通っているので状況は分かっている。どうってことはないが、大休止して気持ちを切り替える。

獅子鼻のザレたルンゼから大キレットは始まる。崩れやすいルンゼだが、丸太で土留めがしてあり、手入れは行きとどいている。右へ移って、鉄製の梯子を二カ所降りる。北穂高岳まで、痩せた岩稜が続いているが、長谷川ピークまでは、特に危険と思われるところはない。長谷川ピークはナイフエッジ状のピークである。そのエッジを乗り越す。乗り越して、ピークに上がる時よりも、下る所が難しい。あとは、鎖もついているので安心である。下がりきったところがA沢のコルである。「いやあ、久しぶりに緊張した」と、言いながら若い男性グループがやってきた。後からまだ仲間がやってくるらしい。その後に、もっと時間のかかっているグループもいるとのことである。

ここから「飛騨泣き」の難所である。大きな岩に鉄筋が打ち込まれ、それを手がかり、足がかりにして登る所が一カ所ある。鉄筋が無ければ、ここが大キレット一番の難所である。それからも気の抜けない岩場が続く。男女グループがやってきて、ジャージー姿の女性が、おっかなびっくり歩いていた。先ほどA沢のコルで話題になったグループであろう。女性のリュックは、仲間が担いでいた。「大丈夫なんだろうか」と、他人事ながら心配になる。

ルンゼ状の8m位の鎖場を登りきると、核心部は終わる。そこからしっかりしたトレースを踏んで、北穂高小屋のテラスに出る。テラスは混んでいたが、直ぐにテーブルの席を確保出来た。さすがに標高3000m、吐く息が白い。暖かいコーヒーを飲みながら歓談しているグループもいるが、ここはやっぱり生ビールである。厳しいアルバイトで、乾ききった喉に、生ビールがしみる。テラスは、頂上より一段下がっているので、西側の展望は利かないが、槍ヶ岳や常念岳のパノラマを「肴」に飲むビールは格別である。見ず知らずの、お隣さんとのおしゃべりも、また、楽しい。こういうところでは、のんびりと行こうではないか。

ここのテン場もババ平よりは距離は短いが、小屋から少し離れている。テラスから北穂の山頂までは、距離にして20m、比高5m位だが、息が切れる。さすがに標高3000mを超すと、空気が薄い。いや、ちょっと中ジョッキ2杯の生ビールが効いたのかも。テン場は南稜の肩の斜面に、段々畑のように作られている。360度の大展望と行かないところが少しばかり寂しい。懐電無しでは歩けない時間になっても、テントを張るグループや北穂の小屋を目指している人がいる。太平洋高気圧がもたらした晴天なのであろう、暖かい夜である。見上げれば、満天の星。

写真左:氷河公園から槍ヶ岳
写真中:大キレットから北穂高岳
写真左:テントを開けると常念岳                 
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