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2016年12月13日 15:07山たびの軌跡全体に公開

餓鬼岳〜常念岳(台風の間隙を突く)

山たびの軌跡44 北アルプスの奥深く、ブナ立尾根から水晶岳へと進んで、読売新道を降りる計画であったが、台風接近で、あえなく自宅沈殿となった。ところが天気予報とは裏腹に、青空も広がる絶好の登山日和である。台風の動きも単純で、スピードを上げて通り過ぎ、あまり影響の無い気配である。神さんは、台風の動きよりも、今、目の前に広がる青空に、お出かけ虫が、ウズウズし出したようである。なんか言い出すのでは無いかと思っていると、メンバーの山友から電話がある。この天候の回復に山行意欲が再燃したらしい。

だからといって、読売新道へはとても行けないが、当初案に上がっていた、餓鬼岳〜常念岳縦走であれば、柔軟な対応が可能で、この案で出かけることになる。準備は整っていたので、決まってから一時間くらいで出発となる。登山口と下山口が離れていて周回は難しいので、下山口から登山口への戻りはタクシー利用とする。出来れば車を中間あたりに置ければいいんだけどなあ、などと神さんと話していると、旅行で知り合ったMさんに頼んでみると神さんが言いだした。まったくの偶然であろうが、Mさんは、ほんとに下山口と登山口のちょうど真ん中あたりに住んでいるのだ。

神さんが電話を入れると、車は置いて頂けることになった。車を置くどころか、Mさんの家に泊めて頂いて、送迎までして頂くことになったとのこと。神さんは、旅行後たびたび連絡を取り合っていたらしい。神さんとMさん御夫婦とどんな話をしたのかはわからないが、いくら何でも泊まるわけにはいかないであろう。神さんはいいとしても、私と山友は何の関係もない。しかも初対面である。そんな簡単にお世話になるわけにはいかないのだ。車だけ置いていただくことにして出発となる。

Mさんの自宅近くと思われる辺りで電話すると、直ぐそばがMさんの家であった。国道19号線に面した、少しばかり高台にある。直ぐに旦那さんが近くの温泉に連れて行ってくれた。戻ってくると、美味しそうな料理がテーブルいっぱいに広げられていた。こうなると、もうMさんの好意を、素直にお受けするしか選択の余地はない。ビールを飲みながら、美味しい料理をごちそうになっていると、口も軽くなってきた。

神さんが、アポイ岳登山のことをラジオ番組に投書して、それをMさんの奥さんが聞いた、という話が飛びだした。私のまったく知らない話だが、小屋番の人に厳しい所があるから「ビールなんか飲んじゃダメ」と言われたが、実はもう飲んだ後だった。“吞兵衛”のことは見ただけでわかるのか、というような内容だったとか。それが面白かったと、なお一層盛り上がってしまった。越後の山では、女の人もぐいぐい飲んで、別に珍しくもないが、他ではコソッと飲むとか。そんな話も面白かったようである。なんだか旧知の仲間のように大騒ぎしてしまって反省しきりである。しかし、登山口で幕営のつもりが、温かい温泉につかり、美味しい料理をごちそうになり、フカフカの布団に寝せて頂いて本当に有り難かった。

曇ってはいるが、雨は降ってはいない。天気予報のとおり半日は持ちそうである。雨が降り出す前に、幕営地に着きたいものである。白沢登山口へは、町からはずれて、鬱蒼とした赤松や、楢林の道を行く。雨模様のせいか、林の中に引き込まれそうな寂しい感じのする所である。Mさんと別れて、登山道を歩き出す。私達を心配して、昨日、懇意にしている山岳会の会長さんに、コースの状況などを聞いたというMさんは、さすがに心配そうな顔をしていた。あとで聞くと、会長さんから厳しい話を聞いて、これが「今生の別れ」か、と思ったそうである。そんなこととはつゆしらず、美味しい料理で歓待を受け、ふかふかの布団で寝たせいか、いつもは調子のでない初日から、快調なピッチで歩を進める。

白沢とは、花崗岩の河床が、白く見えるところから付いた名称であろう。木製の橋を、8橋位渡り、岩壁の桟道を歩く。橋や桟道が無ければ完全な沢登りである。大きな滝は、紅葉の滝と魚止めの滝の二つがある。最後の水場を過ぎると、樹林の中の急登となる。フェーン現象の影響か、汗がポタポタと落ちる。苦しい登りも大凪山までで、そこから百曲がりまでは、まばらなオオシラビソの樹林の中を行く緩い登りとなる。

最後の詰め、百曲がりの途中から雨が降り出した。合羽を着けようか着けまいか、迷うような雨であるが、早めに合羽を着ける。百曲がりは、ダケカンバの中を行く開放的な道だ。百曲がりとは、九十九折りの、百のカーブがある急登ということなのであろうが、カーブは百には遠く及ばず、勾配もそれほどではない。

百曲がりを過ぎると、直ぐに餓鬼岳小屋である。中沢岳へ峻険な岩場が続いている。稜線の北側にガスがわき上がり、なお一層、峻険な様相を見せる。餓鬼とは、広辞苑に[破律の悪業の報いとして餓鬼道に落ちた亡者。やせ細って、のどが細く針の孔のようで飲食することができないなど、常に飢渇に苦しむ]とある。峻険な[やせ細った尾根]から連想して、餓鬼岳という名が付いたのだろうか。頂上往復後、台風接近を考慮して、小屋泊まりに変更する。小屋は私達3人だけの貸し切りだった。天気予報どおり、20時頃より風雨が強まる。横殴りの雨風に、小屋泊まりに変更して正解であった。

雨は降っていないが、風が強く、まだ黒い霧が流れていた。少し様子を見ることとして、出発を遅らせる。8時頃まで模様を見る予定であったが、霧の流れが速くなり、天候の回復が早いと見て、再度、餓鬼岳頂上往復後、6時過ぎ出発する。小屋の管理人さんが、親切にコースのアドバイスをしてくれた。「天気予報を読んだ人は、登ってくるかもしれないね。と、話していたが、テントと聞いてびっくりした。」と、如才無い。

「剣ズリ」の名がある、中沢岳は、岩の連続だ。岩の道は東沢岳まで続く。ニョキニョキと天に突き刺さるかと思うような、針峰を突き上げている。高瀬ダム湖の向こうに、急登のブナ立て尾根が現れた。本来ならば、昨日はあそこを登っていたのである。東沢岳から降りていくと、地元の人らしい登山者に会う。昨日から初めて出会った登山者である。台風接近という状況もあるが、静かな山である。

東沢乗越から燕岳の稜線へ登り返す。写真で見慣れた花崗岩の巨岩がボコボコしている。ザラザラとした、真砂の乾いた道である。さすがに燕岳は人が多かった。槍の穂先は見えないが、天候は回復し、360度の展望が広がった。

燕山荘で大休止することにする。ところがピッチがガクッと落ちた。いわゆるシャリバテであろう。行動食の取り方に問題がありそうだ。東沢乗越から、注意して行動食を取ったつもりであるが、もう少しエネルギー源を取るべきであったと思う。神さんが生ビールを調達してきて乾杯する。渇いたのどにチリチリとしみた。大天井岳も立派な山である。そこが今日のテン場である。ここから約3時間の道のりである。先ほどのことがあるので押さえ気味に歩く。人が多いのもこの辺りだけで、また、静かな稜線歩きとなった。

テントを張る前に大天井岳を往復する。槍ヶ岳はなかなかしぶとく、ついに穂先は顔を出さなかった。日が陰るとさすがに冷えた。若い男性が、半ズボン姿で、ビデオを自撮りしながら、「寒い寒い」を連発していた。一人でぶつぶつと話しながら写している様は、いささか異様な光景にうつる。テント場の眺望はすこぶる良いが、終始パタパタと風がテントを叩いた。お月様がご来光のように輝き、明日の晴天を予感させる。

早朝、テントを出ると寒くてガタガタ震えた。360度の大展望である。昨日、しぶとく抵抗していた槍ヶ岳も、すべてを現した。頸城三山・浅間山・八ヶ岳・御嶽山・南アルプス・中央アルプス・槍・穂高・鷲羽・水晶・剣岳・立山・鹿島槍ヶ岳・針ノ木岳・蓮華岳、そして富士山。贅沢な展望を独り占めして歩く。ただ一つの気がかりは、迎えに出てくれるという、Mさんとの約束の時間。15時に三股に着けるかどうかである。あれだけ親切にしていただいて、待たせるわけには行かないのだ。しかし、大展望を目の当たりにすると、そんなことは忘れてしまい、写真を撮るのに忙しい道行きである。

常念小屋で、登頂乾杯用のビールを調達して山頂をめざす。ピークが見えていて、山頂まで40分の標示に、一気に登るが、そのピークはだましで、その先に山頂が見えた。とても一気には無理と、そこで一息入れる。40分というのは、下りの時間で、一時間が標準と聞いて納得する。山頂は、賑わっていたが、記念撮影の順番待ちはなく、静かな山頂である。風を避けて、岩陰で大休止する。富士山を眺めながら乾杯。大展望を楽しみながらひと時を過ごす。

山頂から少しばかり下がって、前常念岳の一等三角点に出る。常念岳の山頂は岩の山頂で、三角点が設置出来なかったのであろう。ここからは、岩の積み重なる急下降となる。樹林帯に入るまでは気の抜けないところである。このコースは、急登部分はここだけであるが、全体として距離が長く、容易ではない。結構登ってくる人もいるが、前常念岳から戻る人もいて、みな一様に難儀しているようである。

樹林帯まで降りて一安心する。15時には三股に着ける目安もついた。だが、ここからが長いのである。長いのではなくて、疲れのため長く感じるのかもしれない。沢音も聞こえて、あと一時間と読む。ところがすれ違ったグループが、2時間かかったとのこと。それでは1時間半はかかる。約束の15時が怪しくなった。どうしても15時には降りたいのでピッチを上げると、神さん達もピッチを上げて追いついてきた。見覚えのある迂回路の標示を見て、約束の時間に間に合うと、ホッとする。

三股の駐車場に向かって歩いていると、Mさん夫妻の姿が見えた。大きく手を振ると、同じく手を挙げて応えてくれた。約束の15時より5分ほど早かったが、ほとんどピッタリの時間である。三股の駐車場は舗装され立派になっていた。林道も舗装されていた。駐車場は、ほぼ満車の状態である。ここから入る人は、ますます増えるであろうと思われた。Mさん夫妻が、わざわざ「ほりでーゆ四季の郷」に寄ってくれて、私たちが汗を流すのを待っていてくれた。恐縮ものだが、早めにさっぱりできて感謝である。

Mさん宅でお茶をごちそうになる。奥さんの手作りお菓子も出て、疲れた体には何よりのごちそうだ。何から何までお世話になったが、おかげさまで、北アルプスの一端を心ゆくまで楽しむことが出来た。それよりも何よりも、Mさん夫妻の親切が身にしみた山行である。

写真左:白沢に沿って進む
写真中:二日目は大天井岳へ向かって奇岩奇峰群を行く
写真左:最終日行程は、槍、穂高のパノラマ(合成写真)が展開する
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