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笹子川と桂川に挟まれた山域とその西への延長は、富士・御坂で問題ない(富士山と御坂山地を続けて歩く人はほとんどいないと思うが、御坂山地を独立させるのは他とのバランスが取れないからか、あるいは山と高原地図の区分に合わせたのか)。桂川と道志川に囲まれた山域は道志山塊と呼ぶのが一般的だが、しかしこれはヤマレコの選択肢にはない。さらに、道志山塊と奥多摩、大菩薩連嶺に囲まれた山域(権現山、百蔵山、扇山等を含む)には、もともとこれといった名称がない。
道志山塊やその北側の名無し山域を歩いたヤマレコの山行記録について、エリアの選択がどうなっているか見てみると、奥多摩・高尾が最も多い。富士・御坂、奥秩父、丹沢もある。甲信越というのもある程度あるが、これはユーザーが山域名として該当するものがないと判断して、その上の階層の行政地域区分のみにした結果だろう。中には関東というのもある。一般論として山梨県を関東地方に含めることはあるが、ヤマレコには甲信越という区分があるので、山梨県は甲信越に決まっているのだが。
奥多摩・高尾が多いのは山と高原地図「高尾・陣場」にこの山域が含まれていることの影響かもしれないが、私には奥多摩というのは多摩川流域だという意識があるので、それを相模川流域まで広げるのは違和感がある。さらに、ヤマレコの山域区分では奥多摩・高尾は関東の下位階層にあるので、道志山塊あたりを奥多摩・高尾に含めると、「そこは山梨県ではない」と言っていることになる。山行記録の画面では行政地域区分は表示されないので、この矛盾はあまり目立たずに済んでいる。最近、エリア区分とは別に都道府県名が表示されるようになって、自己矛盾のように見える場合がある。しかしまあ、こんなことを気にする方がおかしいのかもしれない。
実は、私自身の過去の記録でも道志山塊を関東としているものがあって、こっそり甲信越に修正した。それが何故かと考えると、どうも笹子峠までは関東地方だと思っていたような気がする。東京から中央線であるいは中央高速で、高尾から小仏トンネルを抜けると相模湖であり、名前からして神奈川県相模原市に入ったと意識する。すぐに境川を渡って山梨県上野原市に入るのだが、相模川沿いの景色は変わらないので、県境を跨いだという実感がない(実は川の名前は桂川に変わっているのだが)。30キロほど先で長い笹子トンネルに入り、それを抜けて開けた甲府盆地に出て初めて、ああ山梨県だという気がする。
山梨県民には失礼な話だが、全国的には大きな分水界が都府県境界になっている場合が多いので、特に私のような他の地方から流入してきた人間はこのような思い違いをしがちかもしれない。相模川と多摩川の上流域は山梨県、これは律令制の甲斐国以来というから千数百年の歴史があることらしい。こういう行政区分が生じた歴史にも興味はあるが、山域区分に話を戻す。
ヤマレコではそもそも山域区分の境界が定義されていないが、普通に考えれば空白が多すぎる。ユーザーが該当山域なしと判断すれば、上位階層の行政地域区分の「その他」に、ということになっている。ユーザー任せなので、まちがった山域や行政区分が選択されることがある。一方、山域が行政地域を跨いでいることは珍しくない。たとえば奥秩父は関東と甲信越に跨っている。行政地域区分の下の階層に山域区分を置くというシステムにも無理がある。山域区分は数が多いので、ある程度まとめて階層性を持たせる必要があるのは分かるが。
ヤマケイオンラインの山域区分は、広域山域の下に詳細山域があるという2階層のシステムである。広域山域に関東等の行政区分と南アルプス等の山域区分が混在しているが、これはユーザーの必要に応じた現実的なシステムなのかもしれない。
ヤマップはヤマレコやヤマケイとは全く違っていて、「地図名+都道府県名」という形でエリアを表示している。「地図」というのはヤマップが設定した10km四方程度のエリアで、その中の代表的な山名が地図名になっていて、都道府県名もセットされている。自分の知らない地域の地図名を見てもどこだか全く分からないが、都道府県名があるのでおおよその検討はつく。ヤマレコのようにユーザーが間違った山域名や行政区分名を選択してしまう余地はない。地図が現状で全国をカバーしている訳ではなさそうだが、ユーザーの需要のほとんどは満たしているのだろう。地図を跨ぐ長距離の山行はどうするのかと思ったら、単に出発点の地図名を示すらしい。
これは従来の山域区分とはきれいさっぱり決別したエリア区分である。初めに地図を選んで登山計画を作るというヤマップのシステムをそのまま反映したもので、慣れれば便利なのかもしれない。しかし、これで済ませていると、地形の持つ体系性・階層性といったものには関心のない登山者が増えそうな気もする。そのヤマップが「流域地図とは、私たちが暮らす場所を人間が作った行政区分ではなく、水の流れを基礎とした“流域”で表現した地図です。」という謳い文句で流域地図を売り出しているのは、皮肉な話である。
登山界で言えば、沢登りでは当然、水系でエリア区分をして来た。これは空白や重複がなく、階層性を持った理想的な区分システムである。一方、尾根歩きでは、これも当然ながらほとんどの山域は尾根系に基づいている。御坂山地、道志山塊、奥秩父等々。その中に、奥多摩のような水系や行政区分に基づいた山域区分が紛れ込んで、混乱が生じている。尾根系に基づいた山域区分を徹底すれば、沢登りの場合と同様な区分ができるはずである。これをヤマレコが採用するかどうかは別として、登山者としては興味ある問題ではなかろうか。
水系や流域のデータは、治水事業のために行政が整備しており、GISの発達に伴って新たな研究もなされている。ヤマップの流域地図はこれを利用したものである。一方、全国の尾根系図というようなものは見たことがない。しかし、水系と尾根系は表裏一体であり、流域界=分水界=尾根 であるから、尾根系図も半ば出来ているようなものである。
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