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態様別では道迷いが1021人で相変わらず一位だが、最高だった2022年より2割減少した。この道迷いの減少が、遭難者数全体の減少の大きな要因であったことは間違いないだろう。逆に増加しているのは、転倒、疲労である。年齢層別では、60代以上が半数を占めるのは相変わらずだが、前年との比較では60代と70代は減少し、80代以上では微増した。
山岳遭難統計を見る時に常に問題になるのは、母数となる登山者数やその年齢分布が良く分からないことである。たとえば、高齢者の遭難者数が多いのは、そもそも高齢の登山者が多いからではないか。ヤマレコ社長のユーチューブのコメントに、「昨年の遭難数が減ったのは、昨年夏の悪天のために山行数が減ったからではないか」というのがあって、ドキりとした。私自身、昨年はこの原因で山行数が減ったからである。
日本の登山者数や年齢構成を推定する資料としては、レジャー白書と社会生活基本調査がある。レジャー白書は日本生産性本部が1977年から毎年行なっている調査で、約3千人を対象としたアンケートに基づくものである。レジャー白書は各地の図書館に所蔵されている他、後述のJMSCAの事故調査報告書に過去の推定登山者数が引用されている。社会生活基本調査は総務省が1976年から5年ごとに実施しており、約20万人を対象としたアンケートに基づくものである。1996年以降の調査結果が総務省のウェブサイトで公開されている。残念なことに、2001年の調査では調査項目から登山が外されている。
日本の推定登山人口は、レジャー白書によれば1996年から2002年までは800から900万人台だったが、2003年から2008年までは600万人前後にまで減少した。2009年(山ガールブームの時)に倍増して1200万人となったが、その後急速に減少して、現在は500万人弱である。社会生活基本調査では、細かな変化は分からないが、1996年の1500万人から2006年には1100万人に減少し、その後2016年まではあまり変化しないが、2021年には850万人に減少している。
社会生活基本調査では、年齢は5歳ごとに区分され、さらに年間の登山日数として、7つの選択肢(1〜4日、5〜9日、10〜19日、20〜39日、40〜99日、100〜199日、200日以上)から選択するようになっている。このデータから登山日数の推定を行った。その際に、各選択肢の最小の日数を仮定して計算した。ただし、1996年の報告にはこのデータが含まれていないので、解析できるのは2006年以降だけである。
年齢層ごとの登山人口推移を社会生活基本調査で見ると、1996年では40歳代後半の年齢層が最も多い。この年齢層は1947年から1949年の間に生まれたいわゆる団塊の世代を含んでおり、ベースとなる人口自体が最も多い。その後の調査でも、この世代が年齢層をシフトしながら最大の登山人口を占めてきたが、2021年には2016年から一気に半減し、ついにこの世代のピークが消滅している(これはコロナ禍による一時的なものである可能性もあるが)。
しかし、登山日数について見ると、2021年においても依然としてこの世代が最大である。年間の一人当たりの平均登山日数は、年齢が高くなるほど多くなる傾向がある(80代以上を除く)。団塊の世代で登山を継続している人の平均登山日数は、年齢とともに増加している。登山日数の少ない人からリタイアして行き、残ったのは筋金入りの猛者ばかりということだろう。
2021年の遭難率を登山日数10万日当たりの遭難者数として計算してみると、10歳代から70歳代まではいずれも7人前後で大差ない。60歳代70歳代の遭難数が多いのは、この年齢層の登山日数が多いからであって、1回の登山での遭難率が高いわけではない、ということが言えるかと思う。ただし、80歳以上ではこの数字が一気に17.4人に増加する。
警察庁の報告では、遭難者数が都道府県別、態様別、年齢別に算出されているが、相互の関係は分からない。国立登山研修所の専門調査委員会調査研究部会が、警察庁と長野県警から元データの提供を受けて、この相互関係を解析した結果を7月に公表した。これには社会生活基本調査の結果も反映されている。長野については、性別による解析も実施されている。
・コロナ禍以降の山岳遭難データから読み取る年代別の特徴とその対策 -警察庁提供データ2021-2023から-
・コロナ禍以降の山岳遭難データから読み取る年代別・男女別の特徴とその対策 -長野県警察提供データ2021-2023から-
遭難の統計については、警察庁のものとは別に、日本山岳・スポーツクライミング協会(JMSCA)が独自データの解析結果を「事故調査報告書」として2003年以降毎年公表している。独自データというのは、同協会と日本勤労山岳連盟に所属する各種山岳団体の会員が保険金請求を行う際に実施するアンケートに基づくものであり、警察庁のデータよりはるかに詳しい分析が可能である。ただし、両団体の会員総数は2021年で60585人であり、登山人口の1パーセントに過ぎず、また未組織登山者とは事故態様が異なっているということに注意が必要だが、参考になる点も多い。
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推定登山者人口のグラフを訂正した(2025年8月13日)
・社会生活基本調査の2006年の値が間違っていた
・単位を千人から万人に訂正した
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