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二日間の単独行を終え、膝丈ほどの草が覆う一般登山道への斜面をゆっくりと登り続ける。
左頬には、やや遅い時間の朝日が当たり、チクチクとした不快感を覚えるが、今回の目的地に首尾よく到達を果たした今となっては、当初20kg程あった肩に食い込むザックのショルダー部の痛みと共に、あまり苦に思えない。
ふと顔を上げると、視線の先にある御浜小屋の脇では、見知らぬ初老とおぼしき男性登山者が一人怪訝そうな表情でこちらを見つめている。
どうやら眼下に広がる湿原の果てから突如現れた妙な格好をした登山者が到着するのを待っているようだ。
傷ついたヘルメットに、穴が開いた長靴、背中に背負ったくたびれたザックにはザイルやシュリンゲ、カチャカチャと音をたてる下降器やカラビナなどがぶら下がっており、小綺麗でクールな格好が似合うこの山域では、明らかに場違いな格好だ。
折角なので、登山道で待つその登山者を目指して暫く歩みを進め、やや苦笑い気味に挨拶を交わし、今回の行程を聞かれるままにお話しすると、思いがけず驚きと称賛の言葉をいただき、少しの間立ち話をした後に一人悦に入りつつその場を後にした。
久しぶりに歩く整備された登山道を、気持ちも軽く穴が開いた長靴で下り続けると、すれ違いざまに「長靴!」っと叫ばれたり、まじまじと見つめられたり、中には長靴での山行を誉めてくれる登山者もいたりしたが、晴れた日の2000m級の山を長靴で歩く私が皆余程珍しいとみえる…。
道なきみちを進む登山では、スパイク長靴が必須のアイテムなのだが…。
気を取り直して更に下ると、岩に腰掛けて休憩中の二人組の女性に声をかけられ、象潟口から御浜小屋までの所要時間を尋ねられた。
見れば一人は然程でもないが、連れの方は頬を紅潮させ、かなりお疲れのようだ。
人は見掛けで判断してはならないが、服装や首から重そうな魔法瓶をぶら下げているあたり、恐らくはあまり登山経験の無い方々なのだろう。
聞けば、今日の目的地は御浜小屋までとの事。
自分が目指したあの山や鳥海湖の景色を眺めたくて御浜小屋を目指しているものと勝手に解釈して嬉しくなったが、既に一時間半以上は登り続けたであろうこの方々に、通常は一時間半で到着しますと伝えるのは少し酷に思えたため、やや多めの二時間から二時間半位で到着できる事を伝えると、少し気分が和らいだようだった。
某登山地図では、約二時間と記されているので、個人差を考慮すると間違いではないだろう。
そんな話しの中、お二人の姿を見て、ふと5年程前に初めて登山らしい登山をした頃を思い出す。
一人で帽子もかぶらず、上下共綿の衣類に通勤で使っていたペラペラのウインドブレーカーを着用し、足元には通勤用の防水機能がないシューズ。
そして背中にはナップサックといった出で立ちで岩木山の山頂に到達し、目の前を流れる雲の合間から見える下界の景色を眺めながら食べたおむすびの味が今でも忘れられない。
「やった感」を強く感じる道なき道を進む単独行も良いが、昼食のおむすびをザックに詰め込んで、水筒を片手に景色を楽しみながらゆっくりと登る山行もいいなぁ…。
そんな事を思いながら、お二人の安全を願ってその場を後にし、暫くゆっくりとしたペースで歩き続けると、昨日愛車を停めた駐車場が見えてきた。
いよいよこの旅の終わりも近い。
さてと、次はどこを目指そうか…。
秋晴れの水色の空の下、流れ行く雲を眺めながら、ゆっくりと大好きなおむすびを頬張れる場所がいいなぁ…。
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