白神山地へ足を運ぶのは、今年既に三度目となるが、今日も登山口駐車場より1.5km程手前からのスタートとなった。
林道脇に車を停め、6時26分、20kg程ある装備を身に付け、白神岳山頂を目指して駐車地を後にした。
今日の登山は、冬季縦走訓練の為、イグルー製作での1泊2日の山行を予定しており、ビバークの練習も兼ねている為、シュラフは持参したが、使用はしないこととした。
夜が明けたばかりの林道は、風もなく静寂に包まれており、雪深い林道には、雪を踏みしめるスノーシューのザクザクという音のみが聞こえている。
目の前の林道上には、小動物の足跡が延々と続いており、足跡の主を追いかけるように歩みを進めた。
暫くして、三角屋根の記帳所にて登山届を済ませ、森の中へと続く小さな足跡を辿り、白神山地の森の奥へと更に歩みを進めた。
積雪は先日より一層増しており、山道が判別できなくなった斜面は、滑落の危険を伴う場所もあり、一歩一歩足場を形成しつつ前進し、暫くして夏道を離れ、最初の難関である蟶山へと繋がる急登が続く尾根へと取り付く。
足掛かりが乏しい斜面と装備の重さに苦労しながらも登りきり、先ずは最初の難所を一つこなしたが、早くも息が上がり、肩に重くのし掛かるザックを下ろし、一息入れることとした。
少しして、静かな森の中には何やら楽しげな人の声が聞こえ、三人組のパーティーが後方から登ってくるのが見える。
姿を現したパーティーと簡単な挨拶を交わし、先へと追い越して行く彼らを見送った。
颯爽と列をなして登って行く三人の後ろ姿に励まされ、少ししてザックを背負い再び登り始める。
そして9時50分、先程のパーティーが休憩中の蟶山山頂へと到着した。
今日の足下の雪は、以前よりは締まっているのだが、それでもザックの重さとぬかるむ足下の雪で足取りは重く、今日もさっぱりペースは上がらないが、視線を上げれば、青空と真っ白な雪を纏ったブナの木々とのコントラストが美しく、絵になる風景が気持ちを後押ししてくれる。
さて、まだ先は長い。
先に出発したパーティーを追い、延々とアップダウンが続く尾根上を進むと、暫くして、ブナの森の隙間からは、真っ青な空の下、白神岳山頂へと続く真っ白な稜線が見え、その先には山頂付近のトイレ棟が小さく見える。
その美しい白神岳の姿に、つい一時歩みを止め、感動的な景色に見入る。
標高は既に900mを超えており、山頂の高さまで残すところ300m程だ。
しかし、この先の山頂へと続く稜線に上がるには、まだかなりの急登が待っている。
予定では、山頂付近でイグルーを製作して一泊する計画だったが、今日のペースとイグルーを製作する時間、そして残された体力を考慮し、登頂は明日に変更することとした。
宿泊に適した場所を探しつつ尾根上を進むと、少しして標高970m付近の左手に都合の良い広場を見つけた為、ここを宿泊地とすることとした。
東には山頂へと続く真っ白な雪を纏った稜線が迫り、西には青い海と、その海岸線の街並みの中にクルクルと回る発電用の風車が立っているのが小さく見える。
この絶好のロケーションに、一目見てこの場所を気に入った。
時刻は、11時20分、イグルーを製作する前に、先ずは雪で作った簡単な椅子に腰掛け、昼食とした。
真っ青な空の下、風もなく穏やかな景色を眺め、パンをかじりつつ湯気が立つ水筒のお湯を口に運ぶ。
ただの菓子パンとお湯がこんなにも旨いのは、山のなせる業か…。
暫くして視線の先には、先程のパーティーが稜線へと繋がる急登を登って行く姿が見える。
後もう少しだな…少々羨ましくもあるその姿を確認し、そろそろイグルーの製作に取り掛かることとした。
先ずは、雪面に1.5m程の円を描き、その内側を踏み固め、スノーソーで切り出したブロック状の雪を積み重ねて行く。
一段、二段、三段…六段目を最後にイグルーの形は出来上がり、更に室内を掘り下げ、ブロックの隙間を雪で埋めて形を整え、後は持参したグランドシートで入り口を塞いで完成だ。
初めて実践で作った割には、満足な出来映えだ。
時刻は、まだ13時30分。
意外にもあっさりと出来てしまい、半日程の暇をもて余すこととなったので、周辺の記念撮影の後、また雪の椅子に腰掛け、心地よい疲れを感じながら居眠りしつつ、ゆったりとした時間を過ごした。
暫くして、聞き覚えのある声と共に登頂を終えたパーティーが戻ってきたので、山頂の様子などを伺ったが、未だ興奮冷めやらぬといった彼らの言動から察するに、どうやら素晴らしい景色が待っていたようだ。
そして少しばかりの言葉を交わした後、下山する彼らを見送った。
彼らの話し声が遠くに消えた後は、辺りは再び静寂を取り戻した。
そしてイグルーの中で早めの夕飯を済ませ、外に出てみると、いよいよ西の空は赤く染まり、穏やかな海へと日は落ちて行く。
東には、真っ白な稜線の上の紺色の空に月が昇り、黄色い輝きを放っている。
さて、明日の出発も早いので、イグルーの中にローソクを灯し、上下のダウンを着込み、はやばやと眠りに着くことにした。
深夜日付が変わる頃、入り口のシートを上げ、 外へ出てみると、空には無数の星が瞬き、海岸線には町並みの明かりが並んで見える。
雪面には月明かりに照らされた木々の影が伸び、風に揺れ動くこともなく、辺りは静寂を保っている。
現在、外の気温はマイナス6℃。
深夜の白神山地の冷たい空気を肌で感じた後は、またイグルーに入り、眠りについた。
翌朝、既にローソクは消えており、身震いするような寒さで目を覚ました。
早速バーナーに火を入れ、両手を炙りつつ朝食の準備に取り掛かる。
今日の予報では、日本海の低気圧から延びる前線の影響により、午後からは積雪が見込まれている為、天気が崩れる前に登頂を済ませ、少なくとも午後には森林限界より低い高度まで降りることとした。
簡単な朝食を済ませ、道具の撤収をし、東の空が朝焼けに染まった6時45分、装備を整え、一晩世話になったイグルーを後にし、白神岳山頂を目指して歩みを進めた。
夜の間に少し雪が降ったらしく、昨日登頂を果たしたパーティーが残していった凍ったトレースの上には、雪が積もっている。
小さなピークを一つ越え、その先の斜面を覆うブナの林を抜けると、やがて目の前には稜線へと繋がる最後の急登が現れた。
見上げれば、青白く雪化粧をした稜線が横たわっており、その上には朝日を浴びて虹色に輝く彩雲が浮かんでいる。
もう何度もこの場所には訪れているが、始めて見る美しい光景に感動し、はやる気持ちを抑えつつ急登にスノーシューを蹴り込み、一歩また一歩と登って行く。
暫くして急登を登りきり、大峰分岐に到着した。
ここで進路を東から南東へと変え、シュカブラで埋め尽くされた緩い丘を越えると、ただっ広い稜線上の先にはトイレ棟が見え、いよいよ山頂も間近だ。
そして、目の前に広がる雪の平原を、山頂を目指して一直線に進んだ。
前方左手の雲も疎らな青い空には朝日が昇り、眩しい光を放っている。
足元には、日の光を浴び、宝石の様にキラキラと輝くシュカブラ。
一歩踏み込む度に空中へと舞い上がるサラサラの粉雪。
振り向けば、雪原に点々と続く自分だけの足跡。
正に見るもの全てが美しく、感動的だ。
やがてトイレ棟と、軒先まで雪に埋まった避難小屋を通りすぎると、視線の先には山頂の小高い丘が見え、7時48分、白神岳山頂へと到着した。
そよ風が流れる山頂からは、360°のパノラマが広がっている。
気温はマイナス8℃。
物音一つしない山頂の上空は晴れ渡り、眩いばかりの太陽の光が燦々と降り注ぎ、吹き渡る冷たい風は、そよそよと火照った頬を優しく撫でて行く。
北東の方角には、尖った稜線が続く向白神岳と、その先には雲の合間から山頂を覗かせている岩木山。
南の方角には、能代平野と、その外れには火力発電所の煙突が煙をたなびかせている。
一通りの景色を満喫した後は、背中からザックを下ろし、ペットボトルの水で渇いた喉を潤した。
気がつけば、日本海の上には、寒冷前線のものと思われるモクモクとした灰色の雲が横一線に並んでいる。
予報通り、近いうちにこの場所も荒れた天候に見舞われることだろう。
少しばかりの休憩の後は、名残惜しいが今日も素晴らしい景色を見せてくれた白神岳に感謝し、今日の訓練の工程をほぼ達成できたことにより、足取りも軽く山頂を後にした。
さて、いよいよこれで今季の課題としている新たな縦走登山への準備は整った。
目指すは勿論、あの頂だ。
イグルー作って寝たことはあるのですが,マット+シュラフでした。
正直快適でした。
aoirousagiさんが寝るときは,シュラフなしとの記述でしたがどのよ
うな装備で就寝されましたか?後学のためにご教授ください。
海の見える素敵な別荘ですね!!
こんばんは(^_^)
コメントありがとうございます。
今回の服装の上半身は、メリノウール+化繊Tシャツ+フリース+ハードシェル。
下半身は、化繊下着+メリノウール+フリースパンツ+ハードシェルです。
就寝時は、これに上下ダウンを着用しました。
イグルーの中は、入口から垂れ下げたグランドシートをそのままイグルーの床部分まで敷き、それに30cm四方のウレタンシート(厚さ1cm)を座布団代わりにしました。
登山靴は履いたままです。
イグルー内は、ローソク一本でプラス5℃程度、ローソク無しだと0℃でした。
また、バーナーに火を灯すと、プラス8℃程度まで上昇しましたが、天井からの水滴が激しくなりました。
以上、ご参考になれば幸いです。
アドバイスありがとうございました。
当方山スキーなので,着衣はほぼ同じです。
ダウン上下+シュラフバーあれば十分ですね。
一人でイグルーするなら面倒なので石棺型(掘って蓋するだけ)
練習しようか検討中です。本番安全にお楽しみください。
そうですね(^_^)
登山では、経験や知識、技術の引き出しが多い程アドバンテージに繋がりますし、いざという時の気持ちの余裕にも繋がりますので、私も今後、色々と習得に努めたいと思います。
ありがとうございました。
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