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2022年04月07日 07:37未分類全体に公開

単独行〜鳥海山・残雪期 外輪山縦走1日目

2022,04,02
月明かりも無い横岡第二発電所近くの空き地には、風も無くサラサラと流れる鳥越川の音だけが響いている。
一泊二日分の食料と装備を詰め込んだ22kgのザックを背負い、スノーシューとトレッキングポールを装備し、1時、鳥越川に沿って続く林道に歩みを進めた。
予定では、1ヶ月程前にこの山行を実行するはずだったが、休日と天気に恵まれず、今スタートすることとなった。
しかし、今年は例年になく積雪が多い年となり、額のヘッドライトに照らし出される林道には、未だ1m以上の雪が残り、昨年3月上旬の景色と変わらないように思える。
今季はもう無理かと思い、半ば諦めていたところだが、待てば海路の日和あり、と言ったところだろうか。
両脇を覆う杉林の中を、ザクザクというスノーシューの音を響かせながら、一人歩き続ける。
ふと立ち止まり空を見上げれば、満天の星が輝いており、ヘッドライトの明かりを消して少しの間眺めてみる。
どうやら今日は、鳥海山からの絶景が期待できそうだ。
はやる気持ちを抑えつつ、一路新山山頂を目指し、歩き続ける。
暫くして林道から離れ、獅子ケ鼻湿原の脇を通り抜け、林の中を進むが、以外にもトレースは無く、木々の間を縫うようにして歩みを進め、雪で埋まった鳥越川支流を渡り、暫くすると木々は疎らとなり、振り向くと眼下の暗闇の中には、町並みの明かりがキラキラと輝いているのが見える。
時刻は、3時24分。
既に2時間半程歩き続けていることに気が付き、一息入れることとした。
気温は-8度。
人里離れた静かな山中にて、少しばかりの休憩をとった後は、また暗闇の中に歩みを進める。
暫くして右手には、頭上に迫るうっすらとした外輪山の影が浮かび、もう大分標高が上がったことを実感させられる。
そして、更に歩みを進めた5時、右手の外輪山の影は、いつの間にか朝の日差しを浴び、雪で覆われた岩肌を赤く染めている。
行く手には、稲倉岳の姿を確認でき、更にその先には、この山行での難所となる、蟻ノ戸渡とジャンダルムを確認できる。
昨年も往復した場所だが、果たして今回はあの場所を通過できるだろうか…一抹の不安を覚える。
気がつけば、既に森林地帯を通り過ぎ、目の前には人影も無く滑らかな雪面に覆われた広大な斜面が広がっており、比較的緩やかな斜面にルートをとり、更に高度を上げ続ける。
やがて右手に切り立った険しい岩肌が迫る千蛇谷へと差し掛かると雪質は変わり、今まで固く歩きやすかった足下の雪は、進むほどにぬかるみ、体力を奪われ、息を切らせながら登り続けると、正面に見える新山の陰からは、ギラギラと輝く太陽が顔を覗かせ、降り注ぐ太陽の光は非常に暑く、ぬかるみで疲れた体に更に追い討ちをかけてくる。
疲れと暑さで、堪らずに雪面に仰向けに転がり空を仰ぐと、目に飛び込む澄みきった青空がなんとも清々しく、背中には雪面の冷たさがひんやりと伝わり、火照った体を癒してくれる。
そして耳を澄ませば、切り立った外輪山からは、微かな風の音が聞こえてくる。
雪面に身を任せ、暫く心地好い気分を味わう。
しかし、先はまだ長い。
気を取り直し、新山を目指してぬかるむ千蛇谷をまた登り続ける。
暫くして千蛇谷から続く谷間から左手へと上がり、鳥海山大物忌神社があるはずの場所へと到着したが、僅かに屋根が確認できるだけで、後は全て雪に埋まっており、積雪の深さを今更のように実感させられた。
さて、どこから山頂へ向かおうか…。
少し東側へ下った先には外輪山から繋がるスノーブリッジが確認できるので、先ずはそこへ向かってみることとした。
到着してみると、更に東側にもう一つのスノーブリッジが形成されており、その上を歩く今日初めて出会った登山者に声を掛けられ、挨拶を交わした。
そして目の前の山頂へと向かうルートを思案するが、どうやら山頂に向かうには、このスノーブリッジの急な側面を登らなければならないようだ。
スノーシューをザックにくくりつけ、アイゼンへと履き替え、ピッケルを斜面に突き刺しながら登りきると、山頂まで往復した先程の登山者の足跡がある。
どうやら、本日二人目の新山登頂者となりそうだ。
肩に食い込むザックをここにデポし、足跡が続く緩い斜面を登り、新山山頂と思われる雪に覆われた岩の上へと9時42分に到着した。
山頂からの360°開けた景色は非常に美しく、風の強さを物語るボコボコとした真っ白な雪面の上には、真っ青な空が広がり、その視線のやや下側には真っ白な雲が所々に浮かび、周辺の主峰が見え隠れしている。
正に言葉を失う程の絶景が広がっている。山頂に一人貸し切りの絶景を楽しんだ後は、たった今到着した登山者との僅かな会話を交わし、山頂を後にした。
デポ地に戻り、まだまだ続く山行に備え、これから向かう外輪山を眺めながら腹ごしらえにパンを頬張っていると、先程の登山者がスノーブリッジを越え、こちらに手を振っているのが見え、手を振り返した。
気の良い方だ…思わず笑みがこぼれる。
腹ごしらえを終えた後は、スノーブリッジを渡り、外輪山へと上がった。
先ずは、七高山へと向かい、更に北側の先にある一番端のピークへと進むと、向かい側に見える新山山頂には、次々と登山者が向かっているのが見える。
さて、ここからが本番だ。
足下の雪は固く、アイゼンの効きは確かだ。
そしていよいよ、辺りを埋め尽くす海老の尻尾を踏みしめながら、西の方角へと湾曲しながら連なる外輪山稜線踏破へと歩みを進めた。
少しして稜線右側の眼下に見える千蛇谷には、沢山の登山者の姿が見え、自分が残したトレースを辿る登山者の姿を確認でき、更に数本のトレースも延びている。
きっと今頃、あのぬかるんだ雪に苦労していることだろう。
などと思いながら、次々と稜線上に現れる美しくも特異な地形を楽しみつつ歩みを進めた。
行者岳を過ぎ、伏拝岳先にある急な斜面をやや巻きぎみに下り、文珠岳へと進むと、他の登山者の足跡は無くなり、振り向けば自分の足跡だけが続いている。
正面には、滑らかな白い雪に埋まった鳥海湖、扇子森、そして特徴的な丸い形をした鍋森が見える。
まるで生クリームをたっぷりと載せた巨大なデコレーションケーキのようだ。
更にピッケルを多用しつつ七五三掛へと下り、扇子森の東側から北側へと回り込むと、切れ落ちた崖の先端から7〜8メートルは伸びているだろうか、行く手には巨大な雪庇が確認でき、その根元には大きなクラックが口を開けている。
クラックとの距離をとりつつ恐る恐る通りすぎると、少しして突然声を掛けられ、驚いた。
こんな場所で、他の登山者と出くわすとは、夢にも思わなかったが、聞けば横岡第二発電所を出発し、稲倉岳を経由して蟻ノ戸渡を越えてきたとの事で、アイスクライミング用のダブルアックスでも難儀する程の状況だったとの事。
その後、少しの会話の後にお互い進むべき方向へと別れたが、滑落の二文字が脳裏に浮かび、身震いする。
あの場所での滑落停止は、通用しないことを昨年既に身をもって経験済であり、更に今回は、22kg程あるザックを背負いながらの通過となり、難易度は以前にも増して高い。
しかし、苦楽を共にして使いなれた一本のピッケルと、アイゼン、後は技術と経験でカバーするしかあるまい。
暫くしてこの山行の核心部である蟻ノ戸渡へと13時9分に到着した。
いつもながら険しい岩肌を見せるジャンダルムを正面から撮影し、降下ポイントを探すが、上からでは傾斜がキツく、斜面の状況を全く確認できない。
しかし、うっすらと積もった雪の下は凍結しているようだが、昨年よりはアイゼンの効きは良いように思える。
これなら行けそうだ。
気持ちを落ち着け、着地地点が見えないルンゼへとピックを力強く突き刺しつつ、アイゼンのフロントポイントで数回のキックを繰り返し、足場を形成しながら一歩一歩確実に下って行く。
やがて傾斜は更にキツくなり、ふくらはぎが非常に辛い。
堪らずに、斜面に休憩用の小さな足場を形成して一息入れ、そしてまたピッケルとアイゼンを突き刺しながら下る。
この作業を繰り返しつつ40分程かけて着地に成功した。
そして奈曽渓谷へと繋がる斜面を登り、ジャンダルムの直下へと向かった。
U字型に切れ込んだ蟻ノ戸渡の最下部の稜線には、雪面にクラックが入り、今にも崩れ落ちそうな状況だ。
実は、ここで一泊しようと考えていたのだが、このクラックの側に泊まる気にはなれない為、予定を変更して稲倉岳の南側にある広大な雪原へと向かうこととした。
先ずは、ジャンダルムの西面を眺めながら登攀するルートを決め、先程の下りと同様にピッケルを突き刺しつつ数回のキックで足場を形成しつつ、一歩一歩登って行く。
こちらの斜面も昨年よりアイゼンとピッケルの効きが良く、思ったよりも順調に稜線へと這い上がることができた。
しかし、行く手の細い稜線上にも延々とクラックが入っており、進むには細心の注意を払う必要がある。
そして、数回の踏み抜きで神経をすり減らした後、14時44分、今日の宿泊地となる稲倉岳の南側にある雪原へと到着した。
早速足元の固い雪をスノーソーでブロック状に切り出し、ずっしりと重い雪を積み重ねて行く。
1日歩き続けてからのこの作業は、かなり体に堪え、更に西に傾いた太陽の日差しが容赦なく体に照りつけ、非常に暑い。
汗を流しつつブロック状の雪を積み重ねてから隙間を埋め、入口にグランドシートを垂れ下げ、2時間程でどうにかイグルーが完成した。
ふと日本海を眺めれば、キラキラと虹色の光を海面に反射させながら沈み行く太陽の姿が見え、日没までに宿泊地が完成し、ホッと胸を撫で下ろした。
早速中に入り、ゆっくりと夕食を済ませ、食後の温かいコーヒーを飲み終えた頃には、既に外は暗くなっており、海陸風だろうか、時折叩きつけるような強い風が入口に垂らしたグランドシートをバサバサと揺らしている。
気温は-5℃。
この風ではもう外に出る気にはなれず、蝋燭に火を灯し、ダウンを着込み、風の音を聞きながら早めに眠ることとした。
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