2日目、寒さでガタガタと震えながら時計を確認すると、4時半を少し回ったところだ。
気温は-8℃。
昨夜の強い風は大分治まっており、先ずはバーナーに火を入れ、朝食の準備をする。
途端に狭いイグルーの中の気温は0℃程まで上昇し、体の震えも収まった。
簡単な朝食を終え、食後のコーヒーを飲んでいると、イグルーのブロックの隙間からは、明るくなった外の様子を窺い知ることができる。
後始末を終え、イグルーの外に出てみると、紺色の空にはほとんど雲も無く、新山、ジャンダルム、奈曽渓谷、そしてこれから向かう稲倉岳、共に穏やかな朝を迎えた鳥海山山域の姿は実に雄大で清々しく、否応なしに感動を与えてくれる。
朝一番の感動に気を良くしつつ、身支度を整え、再度装備の確認を済ませてから、6時4分、北側に聳える稲倉岳山頂へと歩みを進めた。
稜線上は、人がスッポリと入るほどの深いクラックが続いている為、稜線のやや左手のゴツゴツとした岩が連続する斜面をアイゼンの爪を効かせながら縫うようにして登って行く。
時折雪面の踏み抜きがあったが、順調に登りきり、6時31分、誰もいない稲倉岳山頂へと到着した。
どうやら今日の稲倉岳への登頂は一番乗りのようだ。
辺りには、昨日までに登頂した登山者達が残した無数の足跡があり、新山と並び、こちらも天気が良ければ連日の人気スポットとなっているようだ。
後は下るだけだ…一人佇む穏やかな風が吹き抜ける稲倉岳山頂からは、これまで辿ってきた新山から連なる外輪山の姿がよく見え、既に過去の思い出の一つとなった道中での出来事や、同じ日に同じ山域を共にした方々との出会いが心に染みてくる。
この場を離れるのは、少々名残惜しいが、目指すゴールはまだ先だ。
気を取り直し、広大な雪原が広がる緩い北側斜面へと歩みを進めた。
時折振り返りつつ、重力に引かれるまま足早に下って行くと、やがて景色は変わり、木々が覆う森の中を縫うようにして進み、8時17分、この山行の最後の名称がついたピークとなる唐吹長峰山頂へと到着した。
無数の大きな熊の足跡が残る山頂からは、雲一つ無い新山と稲倉岳の姿が見える。
きっと今日も沢山の登山者が訪れることだろう。
そして、更に北側へと連なる稜線を小さなアップダウンを繰り返しつつ進むと、9時20分、横岡第二発電所への送水施設へと到着した。
出発地に戻るには、今居る稜線から眼下に流れる鳥越川の脇へと100メートル程高度を下げなければならず、地形図にてなんとか下れそうな斜面を見つけ、ピッケルとアイゼンを効かせながら鳥越川の脇へと下った。
そして雪融けが進み、ぬかるむ川沿いの杉林の中を下流へと数百メートル進むと、10時8分、スタート地点である発電所近くの空き地へと到着し、この鳥海山外輪山縦走の旅を完結した。
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する