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八幡平樹海ラインの小さな橋が架かる沢の脇に車を停め、手早く沢登りの装備に身を固めるが、誰もいない静かなこの周辺は生憎霧に包まれ、時折雨がザァーッと音をたてて降ってくる。
沢登りに雨は大敵だが、今日の天気図を確認すると、この先荒れることは無いと判断し、早速目の前の沢に入渓する。
枝沢は登る程に集約され、暫く遡行すると、八幡平と岩手山とを結ぶ縦走路に架かる橋のたもとへとたどり着くが、霧に包まれた未だ薄暗い登山道を歩く者はおらず、辺りは静まり返っている。
目的地への入口に向かう為、一路北へと登山道を進み、やがて嶮岨森を過ぎ、そこから先にあるコルへと下ると、登山道の両脇を笹藪が覆う平坦な場所へと到着した。
さて、ここからが本番だ。
気を引き締めつつ周辺の笹藪の中に人が分け入った痕跡を探るが、見つけることはできない。
当たり前だが、そもそもトレースを当てにしているようでは、単独行など出来ないのだが…。
地形図を睨みつつ、僅かに谷になっていると思われる場所の笹藪へと分け入るが、人の背丈程ある笹藪は地面が見えない程に濃い藪を形成しており、手で掻き分けては一歩進み、また掻き分けては一歩進むといった作業を繰り返す…静かな山中にガサガサと音をたてつつ暫く進むと、探していた数十センチ程の幅の沢に出くわすと同時に緊張していた顔に小さな笑みが浮かぶ。
そして沢に覆い被さる笹藪を掻き分けつつどんどん下って行くと、沢幅が広がるにつれ沢底は砂から岩盤へと変わり、更に大きな岩が堆積した極小さな滝が連続する沢となり、四肢を使いながら一つ一つ確実にこなして行くと、今下ってきた仮戸沢、北の又沢、東ノ又沢の三つの沢が出合う合流地点へとたどり着いた。
霧はいつの間にか晴れており、沢が合流する出合いでは沢幅が10mを超え、大量の流れとなった沢の水は平らに近い沢床の上をエメラルドグリーンに輝きながらゆっくりと流れている。
その水流の中を更に数分程下ると、突然沢床がスッパリと切れ落ちている大きな滝が出現し、見慣れない景色に思わず感嘆の声をあげる。
辺りにはゴォーッ!という音が響き渡り、広大な滝の落ち口周辺では沢山のトンボが飛び交い、人懐っこいトンボは、手をかざせば指先にとまり、不思議そうに顔を傾げながらこちらを眺めている。
何とも幻想的な情景に暫し酔いしれるが、ふと我に返り腕時計を確認すると、帰路につく時刻が刻々と迫っていることに気が付く。
ここは奥深い山中、未だに時折雨がぱらついており、まだまだ気を抜ける状況ではない。
気を取り直して滝下への降下地点を探りつつ、取り敢えず中央から降下してみるが、スタンスが悪く一旦登り返し、今度は右岸から降下してみると、難なく滝下に着地することに成功した。
いよいよナイアガラの滝との御対面だ。
対岸から実際に見るナイアガラの滝は、画像で見るこじんまりとした印象より遥かに大きな滝であり、広い沢幅いっぱいにスッパリと切れ落ちた崖を大量の水が流れ落ちながらゴーッ!という音を奏でている姿は、正しくナイアガラの名に相応しく、大自然が造り出した雄大な美を感じとることが出来る。
ナイアガラの滝をじっくりと観賞した後は、対面する崖の高台に腰を掛けて持参したおむすびを口に頬張る。
相変わらず天気は流動的で、日が射したかと思えば時折雨がぱらついており、更に帰りの時間が迫る中での昼食となったが、自分以外誰もいない山奥の地で、この滝と向かい合いながら食べるおむすびは最高の味であり、また、贅沢な時間でもあった。
短い休憩時間を堪能した後、恐らくはもう二度と来ることはない大深沢のナイアガラの滝に別れを告げ、後ろ髪を引かれる思いで登り返し、その場を後にした。
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