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2023年01月06日 06:33未分類全体に公開

単独行〜白神岳・2023元日

2023,01,01
2023年度最初の山行のスタートは、雪混じりの雨となった。
予想天気図を確認すると、サハリンの東にある低気圧からは、南西の方角に寒冷前線がのびており、これからこの前線が頭上を通り過ぎた後は、強い冬型の気圧配置となることが見てとれる。
悪天候が予想される中、5時18分、先ずは額のヘッドライトの明かりを頼りに、雨で濡れる黒崎集落の駐車地より2.7km程先にある白神岳登山口へと歩みを進めた。
暫くして雨は上がり、雪の無い真っ暗な林道にトレッキングポールのコツコツという音を響かせながら進むと、やがて路面は雪で覆われ、登山口の記帳所に到着する頃には、積雪は20cm程となった。
お馴染みの三角屋根の記帳所にて登山届を提出し、6時17分、風もなく穏やかな雰囲気が漂う山道へと歩みを進めた。
ヘッドライトに照らし出された山道には、うさぎの足跡が続いており、静かな森の中には、遠くからゴゴーッと海鳴りだけが聞こえている。
見慣れたブナの巨木の脇を通り過ぎ、時折左手の眼下に見えるキラキラと輝く海沿いの街明かりを眺めながら進んで行く。
積雪は進むほどに深さを増し、つぼ足ではそろそろ困難な状況となった6時45分、夏道と冬道とを分ける高度約339メートル地点へと到着した。
ここで夜明けとなり、ヘッドライトをザックに収納して最初の休憩をとる事とした。
冷たいスポーツドリンクを飲みながら積雪の状況を確認し、今日はここから夏道を離れ、直接蟶山へと続く尾根を辿る事とし、少しの休憩の後に今年初めてのスノーシューを装置し、先ずは最初の尾根に取り付き登って行く。
更に尾根を変え、勾配を増す斜面にスノーシューを蹴り込みつつ登って行く。
勾配は30°程あるだろうか…ズブズブと埋まる雪質はスノーシューのスパイクが利かず、滑り落ちつつも登り続ける。
雪の深さに苦戦しつつ8時55分、漸く蟶山山頂へと到着した。
日差しはないが、相変わらず風もなく穏やかな山頂で記念撮影を終えた後は、白神岳山頂を目指し、稜線へと続く尾根を辿る。
膝下程度の重くぬかるむ雪は必要以上に体力を消耗させるが、気力はまだ十分であり、この調子なら白神岳山頂まで行けそうだ。
小さなピークを幾つ越えただろうか…気がつけば、昨年イグルーにて宿泊した場所へと到着した。
時刻は10時40分、高度約970メートル。
森林限界が近いこの場所からは、山頂へと続く稜線を確認でき、日本海から直接吹き付ける風が雪を巻き上げながら吹き荒れている状況がよく見える。
ここから先は、厳しい冬山登山へと環境が一変することから恐らく休憩は出来ないと思われる為、この場所で2度目の休憩をとる事とした。
持参したパンを噛りつつ水筒の熱いお茶で喉を潤しながら、この先で遭遇するだろう状況をイメージする。
そして今一度装備の確認を済ませ、この場所を後にした。
進むほどに斜度は増し、辺りに生える木々は疎らとなり、いよいよ森林帯を抜け稜線への急勾配に取り付く。
振り向けば、日本海の空には寒冷前線と思われる雲の境目がハッキリと確認でき、登るほどに強まる風は既に半端ではない。
ハードシェルのフードのドローコードを絞り、スノーシューを雪面に幾度と無く蹴り込みながら一歩ずつ確実に登り続け、吹き荒れる風の中、稜線上にある大峰分岐へと到着した。
辺りには、日本海から吹き付ける雪と風の営みが造り上げた幾重にも連なる波のような美しい造形が視界いっぱいに広がっており、つい感嘆の声と共に笑みがこぼれる。
目の前の景色は、稜線に吹き付ける風と共に目まぐるしく変わり、太陽の光を遮るように流れる雲は、虹色に輝きながら速い速度で右から左へと流れていく。
強い風に耐えつつ左の膝を雪面に付け、雪面に踏ん張りつつ少しの間目の前に繰り広げられる大自然の営みを堪能する。
しかし、気がつけば日本海から迫る寒冷前線の黒い雲は、もうすぐそこまで迫っている。
あともう少し、山頂までこの天候が続いてくれる事を祈りつつ、寒風が吹き荒れる稜線上を南の方角へと急ぐ。
日本海から流れ込む風は強さを増し、思い通りには進ませてはくれないが、時折ひざまずいては風をやり過ごし、また歩みを進める。
足元の雪質は、稜線の頂点を境に日本海側の右手はガチガチに固いが、左手は柔らかく膝下程の深さまで埋まり、左右で雪質が全く違う事に気付き、雪質が固い稜線の右側を辿って行く。
やがて視界の先には山頂手前のトイレ棟が迫る。
山頂まであと少しだ。
そして、真っ白にデコレーションされたトイレ棟と、三階の軒下まで雪に埋まった避難小屋を通り過ぎると、山頂はもう目の前だが、頭上を黒い雲で覆われた山頂では、風が雪を巻き上げ、グルグルと渦を巻きながら流れており、不気味な光景が繰り返されている。
自然が織り成す光景に圧倒されつつも、12時12分、高度1232.4メートル、白神岳山頂に到着。
願い通りに寒冷前線通過前に到着でき一安心したが、山頂では到着と同時に一段と風が強まり、既にこの場に留まることは困難な状況だ。
しかし、見渡せば厚い雲の切れ間からは、時折日差しが差し込み、遠く能代市の町並みや、海岸線の白波の先には、美しいエメラルドグリーンに輝く日本海が見える。
正に目の前には、苦労の末に手に入れた絶景が広がっている。
このまま暫くこの素晴らしい景色を眺めていたい気持ちも山々だが、もうそろそろこの天候が持ち堪えてくれるのも、限界が近い事を体に容赦なく叩き付ける風が教えてくれる。
名残惜しいがこの素晴らしい景色を見せてくれた白神の大自然に感謝しつつ、強まり続ける風を避け、先程通り過ぎてきた避難小屋の裏へと身を隠した。
さて、日本海には黒い雲の境目を伴った寒冷前線が迫っており、頭上通過までもう時間が無い。
しかし、視界はまだ数百メートル程ありそうだ。
少し悩んだが、このまま下山することを決意し、既にトレースが消えた稜線上へと歩みを進めた。
そして横風に煽られつつ避難小屋から200メートル程進んだその時だった。
ゴーッ!!という音を伴い、今まで経験したこともない程の強烈な風が体を襲い、一瞬にして辺りの景色は白一色に染まった。
同時に体は風下へと追いやられ、咄嗟に耐風姿勢をとるが、全く身動きが出来ない。
ウェアはバタバタとはためき、小石の様な固い氷の粒が顔を叩く。
風は弱まること無く連続して吹き付け、目の前の視界は消え、復路の方角を見失った。
生きた心地がしないとは正にこの事だ。
悪天候を考慮して方位角を書き込んだ地形図とコンパスが胸元のポシェットに入っているのだが、雪面に突き刺したトレッキングポールを手放すことが出来ず、取り出すことが出来ない。
焦るな…自分に言い聞かせる。
どの位時間が経過しただろうか…。
一面真っ白だった視界は3〜5メートル程まで広がり、往路で確認した左右で雪質が違う稜線を確認することができる。
この特徴的な雪質の連なりを上手く辿れば、大峰分岐までは戻ることができそうだ。
やや風が弱まった時を見計らって白神岳の自然の営みが作り上げた道しるべを頼りに、耐風姿勢を繰り返しつつ少しずつだが確実に歩みを進め、漸くやや高度が下がった大峰分岐へと到着した。
後はこの稜線上から西側に下れば、森林帯に逃げ込むことができる。
幾分風は弱まったが、依然として氷の粒を伴った強烈な風が行く手を阻む中、西風を正面から受けつつ下り続ける。
風は視界の回復と共に高度を下げる程に弱まり、暫くして森林帯へと逃げ込むことに成功した。
ふと立ち止まり空を見上げれば、白く雪化粧をしたブナの枝の隙間からは、透き通るような青空が見え、先程までの悪天候が嘘だったかの様な光景が広がっている。
ほっと胸を撫で下ろし、ここで一息入れる事とした。
水筒の熱いお茶を口に含みつつ、つい先程まで命の危険を感じながら歩いた稜線を眺めてみるが、次から次へと黒い雲が稜線を越えて流れて行き、未だ悪天候が続いていることが確認できる。
後はブナの森の中に残した往路でのトレースを辿れば、登山口へと難なく到着できるはずだ。
短い休憩を終え、またぬかるむ雪の中へと歩みを進める。
15時17分、無事に登山口の記帳所へと到着。
下山届けを済ませ、杉林の中に続く林道を下って行くと、既に傾いた陽の光が差し込み、林道脇に並ぶ杉の木の影を長く伸ばしている。
心地よい優しい光に包まれつつ林道を歩き続けると、やがて眼下には町並みの風景が現れ、波の音が響いている。
そして国道を渡り、15時56分、オレンジ色の夕日に染まる黒崎集落に到着し、2023年度最初の山行を終えた。
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