私は基本的に一人で山を歩いているが、登山を始めたころ、一緒に山を歩く人が無性に欲しかった時期があった。
ソロは気楽だ。人に気を使う必要がない。しかし、山で起きることを共有する人がいないのは寂しいものだ。景色が素晴らしいとか、急登を登ってしんどかったとか、こういう印象深い感情は人と分かち合うことでさらに深みを増す。
ところが、当時の(今もそうだが)自分の周りには登山をしている人がいなかった(山岳会に入るとか、SNSで人を募るとかいう発想は当時はなかった)。周りに声をかけるのだが、来る人はいない。家族も友達も「なんでそんなしんどいことをしないといけないのか」という反応。私は「山はこんなに楽しい」と語るのだが、興味のない人には響かない。
そのうち高校時代の同級生が一緒に来るようになった。彼はまったくの素人だったので装備のアドバイスをしたが、レインウェアや登山靴、ヘッドランプといった最低限の装備さえ揃えようとしないので危なっかしかった(彼はバイクに乗っていたので、バイクの装備ですべて済まそうとしていた。重くてしんどいと思うのだが)。
何回か一緒に山にいくうちに彼は山の楽しさに気がついたのか、自分から山に行きたいと言い出すようになった。しかし相変わらず装備はいいかげんだし、地図とコンパスの使い方も覚えようとしない。私はだんだん一緒にいてイライラするようになった。
半年ほどして、彼が転勤で引っ越すことになった。しばらく一緒に山に行けなくなるなあということで、送別の山行を計画した。年度末の忙しい時期だったが休みを合わせ、計画書を作り、山上で食べる食事も用意した。ところが当日は雨模様。朝、駅で登山口行きのバスを待っていたら、「雨になりそうなので今日はやめる」とメールが来た。さすがに腹が立ったので「俺からはもう君を山には誘わない。行きたければ自分で計画して持って来い」と返事をした。
私は自分のことを勤勉だとは思っていない。どちらかといえば怠け者だと思っているが、そんな私でもやる気のない人と一緒に仕事をするのは嫌だ。一緒に仕事をするのはおろか、同じ空間で同じ空気を吸うことすら勘弁してほしい。やる気のない人と一緒にいると、こちらの気力まで削がれてしまいそうになるからだ。
ましてや、登山という好きなことをしようとしているのに、やる気のない人の相手をして疲れるのは理不尽というしかない。それで、私は登山で同行者を求めないことにした。
その後、私は縁があって山岳会の結成に参加した。いまは志を同じくする仲間がいる。しかし、メンバーの趣味も嗜好もそれぞれなので「私の山行」に無理に誘うことはない。
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