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2014年01月18日 20:12山のお話全体に公開

山のお話5 樹々に見つめられる

前にも丹沢の表尾根で行者を見た話を書いたが、こういう後から考えると不思議な話は時たまある。大体子どものころのことなので、勘違いかもしれないのだが、客観的な「真実」は割とどうでもよく、個人的な「真実」こそが重要なのである。科学的分析をしているわけではないのだから。

子どものころ北八の黒百合ヒュッテにいつも行っていたが、必ず渋温泉から登っていた。そこで、変な男の子に出会ったことがある。同年代(小学生)くらいの子で、積雪期の渋温泉で同世代に会うなど、そうそうないことだった。どういう経緯だったか忘れたが、「面白いことがあるから教えてあげる」というようなことを言って、一緒に来いと誘ってきたので、ついていった。階段を登って2階に行き、くねくねとした廊下をずっとついて歩いて行くと、いつの間にか1階の元の場所に戻っていた。ただそれだけの話なのだが、ずっと記憶に残っている。あれは何だったんだろう。


やはり子どものころ、森の中で時々、ふとした拍子に樹々の視線を感じることがあった。こう書くとすばらしいことのように見えるがとんでもない。今まで感じたことのないような、とんでもない恐怖の体験なのである。周囲360度から感じられる「まなざし」の恐ろしさのあまり、山歩きで熱くほてった体が、一瞬にして冷や汗が吹き出し寒くなり、何も考える余裕もない。そこから出来るだけ早く離れたいという思いしかなく、ただただ足元を見つめ、耐えつつ逃げるしかない。
これを感じるのは、里に割と近い、植林の森の中だけなのである(丹沢や奥武蔵などで経験した)。自然林の中では一度も感じたことがない。他にこの感覚を知っている人に出会ったこともなかった。
ずっと自分はこれを、「樹々に見つめられる」と表現してきた。

中学生の時、作曲家のマーラーの伝記(妻のアルマ・マーラー著)を読んでいて、同じような体験を他の人もしているのを、初めて知った。
マーラーは本職は指揮者で、仕事が休みの間、別荘で作曲する。山の森の中に作曲小屋があって、そこで曲を作るのだ。ある日、作曲小屋にいたマーラーが、すごい勢いで戻ってきて、真っ青な顔で「パン(牧神)に見つめられた」と言ったという。それを読んで、これだ、と思った。これは同じ体験だ。同じ経験をしている人がいたのだ。
昔「マーラー」という映画があって、第3番の交響曲をバックに、夜の森の中で逃げ回り、白馬に出会うという場面があったと思う。ああこれもちょっと違うが、似たような感覚だ、と思った。そういえば、第3番の交響曲は、山とか森を思わせる大曲である(ちなみにこの曲には、複数のパートが、同時に違うテンポで演奏される箇所がある珍しい曲だ)。

それからずいぶんたって、佐藤芝明著『丹沢・桂秋山域の山の神々』(昭和62年)という本を読んだ(佐藤氏には昔一度お会いしたことがある)。この本の中で、やはり同じような体験が書かれているのを見つけた。
鳥屋近辺出身の著者が、丹沢、道志、桂川の南の山々に残る山の神を訪ね、伝承、昔話などを記録した本で、多分もう手に入れることはできないだろうから、ちょっと詳しく書く(山の神をテーマに、佐藤氏は他に2冊出しているが、これもとっくに絶版である)。
佐藤氏は、世附川の東電の取水口の上に、「ダイゴ様」と関係の深いまぼろしの山神があると話を聞き、それを探し回る。小山の古老の話によると、それは弁財天と鉄砲の神様と合祀されているという(薬莢が落ちているのはそのせいらしい)。大正のころ、このあたりで財宝が埋蔵されているという噂がたち、多くの人々があちこち探し回った騒動があった。「ダイゴ(醍醐)様」、そして菊花の紋章が刻まれ、幕府の役人により建立された山神が、どういう経緯かよく分からないが、財宝の噂に繋がったらしい。
何度目かの捜索で、ようやく佐藤氏は(世附の)山神峠の山神にたどり着く。そこで、「何物かの視線がじっと木陰や岩陰から、こちらに注がれていることに気付いたのである。」その恐怖に耐え、祠と山神を調べたあと、「背後から一斉にこちらを見ているような『何かの視線』を感じ」つつ、逃げるように駆け下り、水の木林道を山中湖に向かう。大棚滝に着いた時、また同じ視線を感じたので、そこで滝の写真をとり、追われるように帰路を急ぐ。その時の滝の写真を気に入り、家に飾っていた佐藤氏は、妻から気味が悪いからその写真を飾らないでくれといわれる。よく見ると、滝全体が女性の顔になっていた。。。という話だ。

後半はまあ別にして、山神峠で感じたという視線、これは自分の体験と同じだと読んでいてすぐ分かった。自分は樹々の視線だと思ったが、佐藤氏はそれを山神の視線ととった。マーラーは牧神とした。それぞれ異なる表現をしているが、これは同じものだ。
一体これは何なのだろう。非常に恐ろしい経験であることは確かだが、「悪」なものには思えないのだ。うまく表現できないが、多分その恐怖は異質さからくるものなのだと思う。
自分は幽霊だとかそういうものは特に信じているわけでなく、まあいたら世の中が少し深くなるよね(^^; とか、そんな感じで不真面目きわまりないのだが、現在の科学だけで世の中をすべて説明したらつまらないとも思うし、当然出来もしないのだ(常に書き換えられていくところが科学の科学たるゆえんであろう)。
以前、NHKで臨死体験の特集(立花隆の)をやった時、今は亡き心理学者の河合隼雄氏が「臨死体験はあると思いますか」と聞かれ、「こんな面白いこと、そんなに簡単に分かったらつまらないじゃないですか」というような応えをしていて、実に楽しかったことがある。
こういう体験談も、はなからそれは錯覚だとかお前の脳内ではな、などと言わず、生暖かく笑って聞いてやってください。


ただ問題は、この本を読んで、まだ一度も訪れたことのない山神峠に行くのがちょっと怖いことだw すぐそばの椿丸には行ったことがあるが、クマの痕跡がやたら多いこと以外に、怖いことは何も経験しなかった。
ちなみに佐藤氏は、小山の古老に、大又沢上流のバケモノ沢には決して入るなと言われたらしい。
いや、そのあたりも行ってみたいんですけど(^^;コマッタ

写真:世附川
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