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2023年09月08日 21:53クライミングにチャレンジ全体に公開

クライミング上達の必殺技の話(後編)


中編のあらすじ


運動センスを構成する、身体感覚や身体操作を身につけるため、それらに必殺技のネーミングをしながらひとつづつ身につけて言った結果、上達の実感を得ることができた。それは身体感覚を知覚し、認識し、定着させるためのプロセスだったと考察された。ただ、それだけではクライミング上達を実感した説明にはならない。

果たして獲得した身体感覚は、どのようにクライミングパフォーマンスを向上させたか、どの程度効果があったのか?本編では、それらをひとつづつ振り返り、紐解いてみようと思う。

前編はこちら
https://www.yamareco.com/modules/diary/36225-detail-308748
中編はこちら
https://www.yamareco.com/modules/diary/36225-detail-308983

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初めは骨盤を立てることの効果だ。
これは、今回の取り組みにおける第一歩だったが、骨盤を立てた結果、力が発揮されたと感じたのは何故だったのか?

私は、筋収縮率による力の発揮特性に理由があったのではないかと考えている。
例えば懸垂をする時、腕が完全に伸びきっている状態から体を持ち上げるより、腕が曲がった状態から持ち上げるほうが楽である。これは、筋肉が伸び切った状態だと、およそ50%程度しか力を発揮できないのに対し、筋肉がある程度収縮した状態だと100%の力が発揮される性質があるからだ。

猫背の場合、背中が丸まり、背筋や大臀筋が引っ張られて伸び切ってしまうため、力が充分発揮できない。骨盤を立てることでこれらの筋が適度に収縮し、背筋で引きつけたり大臀筋でカキこむ力が100%発揮されるようになったのだろう。

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お次はネーミングのもうひとつの効果である。
中編でネーミングによって身体感覚の認識を獲得しやすくすると考察したが、身体操作を自動化する効果もあるので紹介する。

クライミングに限らずスポーツでは、体幹から四肢の指先に至るまで複合的に身体をコントロールする必要がある。しかし、手のアーチを作り、手首をひねって、肘を入れ、肩を引いて・・・など、身体の何十箇所もの細かな姿勢や動きを同時に意識して運動することは不可能だ。

スポーツ選手は無意識に体を動かせるようになるまで、反復して定着化させるが、これを脳科学で自動化という。我々は歩くとき、つま先、力、踵、膝、骨盤・・・と意識せず、何も考えないで体の各パートが動かせるのと同じだ。

だが、体験したことのない複雑な動きは、いきなり自動化は出来ない。特に運動経験が不足してると、個々のパートの姿勢や動きすら認識できておらず、壁の中でそれらが正しくできるように同時に意識しながら定着化するのは不可能だからだ。

まずは個々のパートの姿勢や動きが正確に行えるよう、交互に練習するしかないが、細かい指の動かし方まで数えると、主要なモノでも100以上と膨大である。とても覚えきれず、身につける過程で獲得したはずの身体感覚すら忘れてしまうのだ。

姿勢や動作を、言葉という形で記号化し、体系的に整理して管理しことは、覚えきれない量の身体感覚を自動化していく過程で、非常に役に立ったのだ。

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最後は中編で宿題としていた重要案件について。
必殺技同士が連鎖して力を発揮する関係性に気付いたという話だったが、何故重要かというと、パフォーマンスが大きく向上したからだ。

例えば、手のアーチを作り背屈し、前腕を回内し、肩甲骨を寄せて下げ、脇の下の筋肉を締めると言ったように、身体部位それぞれを特定の動かし方をすると、全ての筋力が出しやすく、力の発揮が高まったように感じられる。完璧にできた時は、保持力が2〜3倍になる効果を体感した。

複数の筋肉や関節が連動することでパフォーマンスを発揮することをスポーツ科学で”キネティック・チェーン”と呼ぶが、おそらくこの仕組みに上手くハマり、大きな力が発揮されたのだろう。
※はじめに考察した姿勢=関節角度と力の発揮の関係も含まれるのだと思う。


完璧にできると全身の疲労や負担がすごく、限界を超えるような負荷を覚える。体が出来ていないうちは、故障する可能性があるので注意が必要だ。

心理分析をするとき、概念や事象を”記号化”して関係性や構造を分析する手法があるが、同じように、身体感覚を必殺技で記号化すると、力を発揮する関係性が捉えやすくなる。狙ってやったわけではないが、効果をもたらす結果となった。

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おまけで、タコ人間は何故ダメなのか?タコ人間代表として考察せなばなるまい。
ズバリ、体の固め方が甘く、足で体重を支えられないからダメなのだ!
例えば重さ60kg・長さ1.5mの”鎖”をタコ人間、重さ60kg・長さ1.5mの”鉄骨”を上手なクライマーと見立てて、それぞれ地面の上に立てるとする。
鎖はぶら下げて持たないと立たないが、鉄骨は倒れないようてっぺんを軽く支えるだけで良い。タコ人間は腕が疲れるのだ。

上手な人の背中はまるで鉄板のようで、四肢の動きにもブレがない。身体全体を固めるほど足に体重が分散し、手の負担が軽減するため、パフォーマンスが上がるのである。


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近年、スポーツ科学の分野では、教育の考え方について新しい流れがあるらしい。
従来は、ああしなさい、こうしなさいといった、具体的な方法をアドバイスをするやり方が主流だったが、選手が自律的に能力を身につけられるような方法が模索されるようになってきたのだ。
従来の方法はティーチング論、自律的指導はコーチング論と区別され、スポーツに限らず、仕事の教育などにも応用されているようになってきている。

ティーチング論は基礎的で初級者に向くとされ、クライミングでも保持や足置き、ムーブや筋トレ、ストレッチなどのメソッドが展開されているが、一方、コーチング論は中級者、上級者に向くとされるものの、クライミングにおいてはそのメソッドに乏しく、様々な課題を登る、キャンパで鍛える、セッションすると、あとは自分でやってねと放置プレイ気味である。私が手に取った本、そして自分のやり方は、数少ないコーチング論に属する考え方だと思う。

身体感覚を必殺技としてネーミングするやり方は一見ユニークに見えるが、抽象化すると
・身体感覚・操作の知覚
・記号化による認識と知覚強化
・フォーム・身体操作の定着化
と、実はオーソドックスなメソッドであり、その体験的アプローチを詳細に言語化してなぞっただけかもしれない。
私は、必殺技という記述的・意味的な言語によるユニークな記号化を行なったが、運動センスのある人は、言語化以外の記号化をナチュラルにやってるんじゃないかと思う。

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さて、気になるグレード向上の効果はどれくらいだったのか?結果をまとめる。
肩を故障してここ数ヶ月、筋力が落ちてぶら下がれなかった状況なので、比較が難しいが、それでもボルダリングジムで3級はコンスタントに登れるようになったし、優しめのジムなら1級くらい楽に登ってたので、効果はまずまずだろう。

どちらかと言うと、今後上達していく上で、どうすればいいか自律的に考えられるようになったのが、何よりの収穫だったと思う。

筋力をつけていく上でも、キネティック・チェーンを意識して登れば一連の筋肉が満遍なく鍛えられるし、負荷も分散し怪我がしにくくなる派生効果も期待できそうだ。


相棒からは『全く、タコ人間でなくなった』と卒業証書をいただき、猫背は全快、すっかり姿勢のいい人だ。肩凝りが全く起こらなくなったのは嬉しい副次的効果だ。

今回の取り組みは、運動センスのなかった私にとっては、文字通り『クライミング上達の必殺技』であり、身体知覚や、身体操作を向上させる一つの方法であった。習得は大きな壁であったものの、ようやくスタートラインに立ったような心持ちでもある。

しかし、現状は、基礎ができただけであり、まだスタティックな動きにしか対応ができていない。さらにグレードが上げるには、筋力も、動きの繊細さも、ダイナミックな動きも向上させていく必要がある。
しかし、この先、困難な壁があったとしても、知恵と工夫と努力で超えていけるのではないだろうか?

PULS・ULTRA!!
プルス・ウルトラ!!

まだ先はある。
そして、これからも、その先を目指して行きたいと思う。


おしまい
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