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この本は登山史にまつわる諸々を拾い集めた「落としもの袋」の一冊です。
知らなかったことだらけで目からウロコでした。
例えば
・エヴェレストの山名
世界最高峰エヴェレストの名は本来中国側からはチョモランマ、ネパール側からはサガルマータと呼ばれていたのが、英国に敬意を表したインド測量局が測量局長エヴェレスト卿の名を取って命名、インドは英国の属国だったからです。
エヴェレスト初登頂が英国遠征隊により成し遂げられるとエリザベス女王戴冠式の贈り物として英国山岳会がエヴェレストを「マウント・エリザベス」に改称したが、エヴェレストの名はすでに長い歴史があったため、そのまま残ったということだそうです。
アメリカでもマッキンリーがデナリという地元民の呼び名に戻ったような事と同じです。
・瑞牆山の山名
瑞牆山は地元ではコブ山と呼ばれていたとか。
・雑誌「山と谿谷」誕生のいきさつ
山と渓谷社を刊行した川崎吉蔵は就職難で遊んでいるくらいなら山岳雑誌を刊行するか、で生まれた雑誌、当時の世界経済恐慌がなければ生まれていなかったという話。
・夏目漱石も山好きだったという話。
「草枕」の冒頭
山路を登りながら、かう考へた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流させる。
これは熊本の小天温泉への路だそうです。
https://kumamoto.guide/yubijin/onsen/detail/11
▼作者
遠藤甲太氏は数年前に亡くなられる前まで、雑誌「山と渓谷」において読者紀行の選考委員をされていた方ですが、以下に略歴を抄出します。
遠藤甲太（えんどう・こうた）
1948年生まれ。詩人、エッセイスト。12歳のころから詩作と登山、岩登りを始める。谷川岳一ノ倉沢滝沢ルンゼ状スラブ冬季初登攀、一ノ倉沢αルンゼ冬季単独初登攀、カラコルム・ラトック�喫�初登頂などの記録をもつほか、谷川岳や海谷山塊、雨飾山、明星山などの開拓に取り組んだ。2005年刊行の『目で見る日本登山史』（山と溪谷社）において、「日本登山史年表」を担当。雑誌『山と溪谷』では、長年にわたり「読者紀行」の評者を務める。著書に『山と死者たち 幻想と現実の間に』（白山書房）、『父と子の多摩川探検隊』（平凡社）、編著に『新編 風雪のビヴァーク』（山と溪谷社）などがある。2020年逝去、享年71。
この一冊は松濤明や立田實、長谷川恒男とともに、遠藤甲太氏の人物像を知るのに良い本でした。長谷川恒男とライバル関係にあったトップクライマーであることを初めて知りました。
▼立田實
読みたかった「失われた記録−立田實の生涯」が収録されていて、この一文を読むだけでもこの本の価値があります。
厳冬の知床岳、春の一ノ倉沢単独行等々、こんなにも圧倒的に凄い隠れた登山家がいたのかと衝撃を受けました。
ある意味加藤文太郎よりも数段凄い、ばけもののような登山家、天才です。
読了後、改めて遠藤甲太先生のご冥福をお祈りしました。
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