一本歯の下駄修行のために、週末、六甲の裏山に通うようになった。ここには毎日登山の方が多くおり、私は「ゲタの兄ちゃん」と呼ばれるようになり、すぐに馴染みとなった。皆、リタイヤ組の方が多い。以前、工事の現場監督をされていたという方は、お世話になった登山道を日々通って修復されていた。市に言っても動きが遅く、自分たちでやるようになった。鉄筋や修復用の角材等の資材は、私財を投じて登山道の修復にあたる。自分たちの子供の代にも素晴らしい自然の残る裏山を残そうとする献身的な取り組みには胸を打たれる。感謝しかない。
そんな中で箕面から来られているおっちゃんとも馴染みとなった。週末に麓の陶芸教室に通っており、それが終わると裏山に登るのが習慣となっている。ここの常連さんの一人である。
おっちゃんは詩吟もするのか、いつも決まった場所で、大きな声で発声練習をする。その場所が、通称「叫びの岩」である。(あくまで登山道脇の岩場をおっちゃんが名付けた通称である)。「あ〜〜〜〜〜〜、あ〜〜〜〜〜〜〜(音程を変えて)。」この声を聞くと、おっちゃん、今日も元気だなと、安心した。私の下駄行もそこまでいって、休んで折り返すことが常となった。
ある日、いつもと違うおっちゃんの声を聞いた。「◯◯、げんきか〜。◯◯、なんで先にいってしまったんや〜。もうすぐ行くから、まってろよ〜。」そして般若心経を上げた。息子さんを40代の働き盛りで、なくされた父親の心からの叫びであった。私も涙ながらに般若心経を献上した。
人は、誰しも長い人生の中で深い悲しみを背負って生きている。それでも前を向いて生きている。いつ何時も、しっかり前を向いて進むのだ。
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