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2020年11月26日 18:40ひそかに感想生活(ネタばれ有り)全体に公開

ミステリー小説:ミネット・ウォルターズ「蛇の形」

■ミステリー小説:ミネット・ウォルターズ「蛇の形」


(ネタバレしています)


 最後のあたりまで読み進め、ふっと、「悪の旋律」という言葉が心に浮かびました。もう何を信じたらいいのか・・・
 この小説は手紙を使った話の構成力が素晴らしいです。とても面白いミステリとして読者に選定されたらしく「このミス2008」というラベルが貼ってありました。

 24歳の教師ミセス・ラニラは、夜の帰宅時、自宅近くの路上で、同じ通りに住む黒人女性が死にかけているのを発見します。その女性の死ぬ間際の表情が「どうして殺されなくてはならないのか」と訴えかけているように見えて、警察に「近所の人種差別者による殺人ではないだろうか」と主張しました。しかし証拠はないので警察にはとりあってもらえず、女性の死は自動車事故として処理されました。
しかしミセス・ラニラは警察へ繰り返し訴えかけ、ついに警察が夫へ「奥さんはヒステリーを起こしている」と連絡したり、近所の人間が嫌がらせをするようになります。特に黒人女性を目の敵にしていた男から脅しと暴行を受け、精神に変調をきたしました。
職を失い、夫から離婚を迫られ、実の母からも「税金で生活保護を受けているような黒人のためにどうして自分の家庭を壊すのか」と責められます。
彼女はいったん立ち止まり、今後のことについて考え、夫とやり直すことに決めました。直後に決まった夫の海外転勤に、彼女もついていきました。
 20年後、イギリスにもどってきた彼女は、黒人女性の元主治医に会う機会を得ます。すわ捜査再開か、読者にそう思わせて、実はこの20年間彼女はずっと夫に内緒で調査をしてきたのでした。今や二人の息子まで巻き込んで、黒人女性アニーと関りのあった人に手紙を出して断片的な情報を入手し、事実を探り当てていました。
 イギリスへ戻ってきた今、追加の調査をして足りないピースを埋め、そして真犯人との対決が始まります。アニーを殺した犯人、そして、自分に暴行を加えた人間の、裏にいる黒幕と。
 女性への暴行というとあれを思い浮かべますが、あれではなかったのでほっとしました。それでも、何という目にあったのだろうか、と、こんな仕打ちを考える人間を本当に憎みました。
 
 最後、執念の捜査が犯人をあぶりだします。本当に執念です。ミセス・ラニラは真実を求めた結果、多くのことに耐えなくてはならなかった。嘘の証言をし、自分の味方をしてくれなかった夫への不信を、よく胸に収めて結婚生活ができたな・・・と思います。暴行が原因で精神を病んでもおかしくありません。黒幕と対決するときは彼女だって恐怖を感じる。それらすべてに耐えて真実を暴きました。彼女が求めたのは、正義でした。
 
小説のラスト1ページが、彼女が正義を求めて立ち上がった、その理由を示してくれました。


 ラストの1ページで、一服の清涼を感じられたのは良かったのですが、この作家にはよくあることなのですが、描かれている内容がエグすぎて一服の清涼では足りないほどトラウマチックです・・・
いつもグイグイ引き込まれる話を書いてくれているものの、トラウマを忘れるまでしばらく次の作品は読まないようにします。彼女の小説はよくこんな読後感をもたらします。

 一方、心に空虚を抱え、事故を装って生を終わらせよう・・・・と考えているような主人公を据えてくれて、心のオリを言葉にしてくれるのもウォルターズなので、惹かれるのです。
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