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ペットボトルはリサイクルの優等生である。卵パック、トレイ、繊維製品、シートなどに二次利用される。使用済みペットボトルは実はなかなかの争奪戦があり、市場価格も乱高下している。一方で大量のペットボトルが海を渡っている。行き先は中国。プラスティックの需要が高い中国では、原料の樹脂はその2割を再生原料が占めている。
リユース業界の市場規模は三兆円を越えている。ブックオフ、ハードオフに代表されるリサイクル店に加え、ネットショッピング、オークションなども増え続けている。海外にもリユース品は持ち出される。フィリピンなど途上国では、故障の少ない日本のリユース家電はいつまでも大事に使われている。
生ゴミ等の処理は焼却かバイオガス化か、環境大国ドイツでも議論は分かれている。焼却の場合は発電と温水の地域供給が可能だがCO2の大量発生は避けられない。バイオガス化すれば発電効率が高まり環境にも良い。ただしコストがかかる。筆者はこれまで焼却一辺倒できた日本もバイオガス化に向かうと予想している。
最終章で福島第一原発事故での放射性廃棄物の処分地問題をとりあげている。他県の方は関心が少ないだろうが、地元では継続的に報道されている。栗原、加美、大和の3市町がその対象地域であり、特に加美町が大きな反対運動をしている。「最終処分場」という考え方自体がもう成立しないと思う。結局は時間ばかりがかかり、巨大事業がますます肥大化していく一方だ。汚染水処理と廃炉作業は既に一大ビジネスとなっている。
筆者の杉本さんは新聞記者を経て、現在はフリージャーナリストだが、一貫して環境問題を追ってこられた方。著作も多く硬派のジャーナリストである。
本書は、壮大な日本のゴミ問題を細かく丁寧にとりあげられていて、歴史と世界情勢も含め多くの知識を得ることができる。提言というよりも、綿密な取材を基にしたルポルタージュであり、なかなか手練れの仕事。
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つい先日、宮城県の地元資本のスーパー「ウジエスーパー」が経産省が後援する「3R推進協議会賞」の総理大臣賞を受賞した。店内売れ残りの野菜などを肥料化し地元農家に提供、農家が作った野菜や穀物をまた販売する地域循環型取り組みに対するもので、昨年は京都の宝酒造、一昨年はトヨタ自動車が受賞している。
*ウジエスーパーは、3.11後にすぐ店を開き、豊富な地元食材を提供してくれた。大手資本のスーパーがほんの数品だけの購入規制をしている中で、見事な対応だったことを思い出した。
「『昭和天皇実録』にみる開戦と終戦」半藤一利(岩波ブックレット)2015/9/8
2014年9月に公開された「昭和天皇実録」。日本近現代史の第一級資料であり、すでに幾つかの研究書がでている。このうち、太平洋戦争の開戦と終戦の時期に絞り、「日本の一番長い日」の半藤一利がこの「実録」を豊富な資料を加えながら読み解いたのが本書。全19巻(予定)の「実録」を読む自信はないが、名人半藤さんの解説があれば、素人の私にも読める。
開戦直前の御前会議にて
「…参謀総長より陸海軍において研究の結果、南方作戦は約五箇月にて終了の見込みである旨を奏答するも、天皇は納得されず、従来杉山(参謀総長)の発言はしばしば反対の結果を招来したとされ、支那事変当初、陸相として速戦即決と述べたにもかかわらず、未だに事変は継続している点をご指摘になる…」
すぐ戦争は終わるといったのにまだ続いているではないかと天皇は詰問する。日米開戦の昭和16年、日中戦争は継続中で、すでに19万人が戦死、95万人が負傷、75万人が戦場にあった。その上で日米戦争へと向かう無謀は誰の目にも明らかだが、戦争への傾斜は誰にもとめられなかった。
昭和20年。4月30日ヒトラー自決。5月8日ドイツ軍無条件降伏。6月23日沖縄戦終了。7月27日ポツダム宣言。8月6日原子爆弾投下。8月9日ソ連対日宣戦布告。
日本の運命を決したこの5カ月、昭和天皇と政府(鈴木貫太郎首相)と大本営(陸海軍司令部)との御前会議でのやりとりを「実録」は淡々と記述し、半藤さんはその裏の意味を、幾つもの要人や侍従の日記を援用しながら、解きほぐしていく。
いよいよ佳境である。半藤さんは鈴木貫太郎首相について次のように書く。
「…戦争終結がほんとうに剣の刃渡りのような危険をやっと乗りこえて達せられたものであったことがよくわかる。…そしてギリギリのところで、天皇みずからがいう「国民にこれ以上塗炭の苦しみを味わわせぬために」も、天皇の名においてはじめられた戦争を、たとえ憲法上のルールに反しようとも、天皇の意思によって収拾して頂こう…死刑を覚悟でそう思い定めた鈴木貫太郎の決断を、わたくしはやっぱり心から崇敬したいと思う。」
そして戦争終結を決める8月14日の御前会議が開かれた。
私たちは歴史の事実を知っているが、その事実がどのように生まれ育てられ結実したかを知る機会は少ない。「実録」は今後も様々な解釈にさらされていくだろう。半藤さん自身も「わたしのこの読み解きが一番正しいなどというつもりはない」と前書きされている。
一人の日本人として読むべき本に巡りあえたと思った。
二冊とも面白そうです。読みます。
半藤さん、高齢なのに、精力的に仕事していますね。
「ごみ」のほうは、環境基本法から始まる法体系が実に複雑なこともあり、にっぽんのゴミ問題は分かりにくいです。杉本さん、読者サービスはなしですので、少しわかりづらいところもあり、話題も飛びますが、骨のあるルポでした。
「実録」については、新書も幾つかでていますが、こちらはわずか90ページ、開戦と終戦に絞ったものです。こっちは面白かった。昭和天皇実録は全19巻で、現在2巻まで刊行されています。17年には全部出る見たいだけど、半藤さん自身、(年なので)読み切れるだろうか、と心配されていたり。
いい仕事をされてきた方です。
お時間があるときに、どうぞお読みくださいね。
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