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村上春樹が自分の小説作法について語ったエッセイ集。最後に京大での河合隼雄の追悼の講演が載っているが、河合隼雄とかユングとかを村上春樹は読んだことがなかったのだという。河合に会ったのも、奥さんがこんな風に勧めてくれたから:
「あえて本を読む必要はないけど、この人とは会った方がいい。きっとよい結果が生まれるから」
春樹の小説の中のヒロインのせりふみたい。いろんなことを想像してしまう。
数限りない程の本を読んだこと。推敲と書き直しを繰り返し行うこと、かつての「お店」の繁盛具合、文藝賞以降の毀誉褒貶の数々、ジョギングを始めたいきさつ、アメリカに渡った理由等々、とっても多弁で、多分ちょっと無防備に語っている。
村上春樹の作品は海外でどれくらい読まれているのか。「海辺のカフカ」2005がニューヨークタイムズの全米ベストセラーランクに初めてはいり、「1Q84」2011が同紙2位、「…多崎つくる…」が同紙1位。アジア以外では村上ブームはロシア・東欧から始まり、90年代にはロシアのベストセラーランク10位のうち5つが村上作品だった年もあったとか。これ春樹が自分で語っています。
この作家が好きな人はなかなか楽しめるエッセイ集だと思う。極々私的なもので、苦手な人はどうかな。マックス・ウェーバーは出てきません。
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「チベットの先生」中沢新一(角川ソフィア文庫)文庫版は2015/2/25
人類学者の中沢新一が師と仰ぐチベット仏教の高僧ケツン・サンポ。ケツンの語る生涯を聞き書きし、「ケツン先生のチベット回想記」としてまとめ、それに中沢の序文つけたものが本書。
1930年代ケツンは11歳で父と周囲の修行者の影響を強く受け、仏教の修行に入る。
「…ああ自分もいつかはそんな修行がしてみたいなあと、思うようになった。修行者たちは、世俗の暮らしをすべてあっさりと捨て去って、人に正しい生き方を与えてくれるという法を学ぶため、大変な修行に打ち込むのだという。チベットにはそういうひとたちがたくさんいて、その生き方こそ人間の理想だと考えられていたのだ。・・・昔のチベットというのは、じつにそういう所だったのだ。」
埋蔵経典、口頭伝授、瞑想、ゾクチェンの修行、ケツンが辿った(チベット)仏教者の道は、同時に精神探求の道であった。だが、中国のチベット侵攻と迫害、インドへの亡命、妻子との別れ、日本への旅などその人生は思いがけず波乱に満ちたものになった。
ケツンのような高僧もいれば、ケツンをも圧倒させる山中の名もなき偉大な修行者もいる。かつてのチベットはそのような国だったのである。
ところで、チベット仏教とは少し異なるが、ヒンズー教のヨガ行者(ヨーギン)のことを中沢は次のように書いている。
「…ヨーギンたちは、言語を絶するほど無一物で、何も持っていないのです。腹巻きすらない。素っ裸で何も身につけていない人もいる。でも人間として豊かに、明るく、曇りなく生きている。洞窟や洞穴の中で、一人で座っています。信仰に厚いネパール人たちが、その人の元に出かけてくるのです。その
人たちは別に教えを受けるわけでもなく、ただヨーギンたちがいるだけで、この世に生きていても大丈夫だという安心感を受け取ることができるのですね。…毎日自分の心は煩悩でいっぱいだけれど、…人間の世界にはそういうことを突き抜けている人もいるのだと知るのです。物質的富は何も持たず、精神的な価値だけで生きることで、人間は偉大なものに近づける、そういうことを実践してみせている人に心打たれるのです。」
たたみかけるように書く中沢もまた心打たれた一人なのだろう。シンプルで力強く魅力的である。
「この本に記録されているのは、チベットの大地から消えていった優しくそして偉大な文明の記憶なのである」と書くそのとおり、このような国があり、このような人々が生きていて、それがやがて消えて行こうとしている最後の輝きを目にしたような思い。ただただこの美しい精神性を惜しいと思った。途中でやめられず一気に読み切った。よい本でした。
驚きです!「職業としての小説家」は、きのう、図書館の順番待ちで、4ヶ月くらい待った順番がきました。明日は取りにいかなくては、というところです。
中澤新一、甲府に住んだ縁で結構著作を読みました。チベット関係はまだです。デヴュー作がたしか、チベットのモーツアルトでしたね。中澤さんが語る富士山信仰のEテレの番組でおもしろいの見ました。
チベット、ネパールのチベット文化圏にあわせて4回、結構長期で滞在したのですが、山ばっかり見ていて、こちらの方は今から思えばさっぱりでした。あれから20年以上経って北京の連中が望むように、昔のチベットを知る人が減っていってしまいます。
yoneyamaさん、読む本似てますね
村上春樹好きな人が読む本でしょう。ところで、加藤典洋さんが村上春樹の小説を一冊ずつコメントしている新書読まれましたか。本屋で手にとって迷った末に、いずれ図書館でと買いませんでしたが、今も気になっています。
チベット仏教については、宗教界、学術界その他から無数の本がでていて、私が口をはさむ余地もありません。今も多くの日本人があの付近に住んでおられるのでしょうし、修業をなさっている方も沢山おられるようですね。かつての麻原もその一人だったのですが…麻原のことも少しだけ触れてありました。
この本はいい本でしたよ。中沢さんもとても真摯で好きです。
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