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番組の最終回(第6回)は3月20日、予告の画面は「アラブの春」だろうか、携帯カメラを手にした人々の姿。たまたま苦労して読み終えたベンヤミンの『複製技術』のお話とちょっとだけシンクロする。
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ベンヤミンが「複製技術時代の芸術作品」を書いた時、彼の視野にあったのは、当時圧倒的な吸引力をもちはじめた新しい表現形式、映画、写真というジャンル。以下、脈絡ない引用だけど:
…ファシズムは、大衆に(権利を、ではけっしてなく)表現の機会を与えることを、好都合とみなす。所有関係を変革する権利をもつ大衆にたいして、ファシズムは、所有関係を保守しつつ、ある種の、<表現>をさせようとするわけだ…(185p)
スマフォのカメラであれ、ネットであれ、「表現の機会」を自分達は手に入れたように錯覚してるけど、もしかしてそれは武器じゃなくて、想像力を鈍化させる(大きなものを見えにくくさせる)玩具かもしれない。
アラブのデモで一斉にカメラを押した群衆の姿と、いまではすべてのアラブの民主革命が挫折したという現実を見たら、ベンヤミンは何と書いただろうか。
「ベンヤミン『複製技術時代の芸術作品』精読」多木浩二(岩波現代文庫)、若い時に読めなかった本で、自分にとってはRead and Die的な一冊。が、難しかった。
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「ジャーナリストはなぜ『戦場』へ行くのか」(集英社新書 2015/12/22)
ある日本人ジャーナリストがシリアで命を落としたとき、オバマ大統領は彼を「誇らしく思う」と述べた。一方で日本政府は「蛮勇、迷惑をかけるな」と冷たくくさした。その後シリアに向かうジャーナリストから旅券を取り上げるという事態も。
アメリカのケリー国務長官は戦地の報道の姿勢について次のように述べる
「…ジャーナリズムには危険がつきまとう。リスクを完全に取り除くことは不可能だ。沈黙してしまえば別ですが…世界は何が起きているか伝えてもらう必要があります。沈黙は独裁者や虐待者や圧制者たちに力を与えるだけなのです」
勿論、公の言葉である。でも政治は公のもの。「感情は別にして、俺はお前のその報道する権利と自由は認める」という姿勢が、ここにある。日本の政治家とは違うね。個人と国家が一対一だ。
この本は10人の主にフリーランスのジャーナリストが命の危険をおしても戦場に向かう気持を語る。情熱だけではない。リスク管理の事、財政のこと、取材対象との距離の事、そしてジャーナリズムと対峙してくるSNSとの関係…どの一人の文章をとっても強い意思と個性を感じる。なかでもアジアプレスの玉本英子さんの控え目な言葉がいい。捕まった戦場ジャーナリストに、このバカ野郎と思ったら、とりあえず読むといいかも。血圧下がります。
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「村上春樹は、むずかしい」加藤典洋(岩波新書、2015/12/18)
2時間ほどで一気読み。以前の日記で触れた「職業としての小説家」と併せて読むとなお興味深い。デビュー時からずっと評価の分かれる村上春樹だが、最近になってようやく「まっとうな」文芸評論家が、きちんと解説をしてくれるようになったなあと思う。
通史的に村上作品を眺めるのにうってつけで、よくわからなかった部分(作品のモチーフでもテーマでも)がきっと明快になってくるはず。何より、加藤さんの視線がとても暖かい。「1Q84」は第四巻が書かれるかもしれないという可能性に、ちょっとワクワク。
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「いつまでも若いと思うなよ」橋本治(新潮新書、2015/10/20)
帯には「前期高齢者の仲間入りをした著者が、自らの、『貧・病・老』を赤裸々に告白。老若男女のための年寄り入門」とあって、ああ、まさにこのとおり。
…哀しいことに、人間は「自分の老い」をなかなか認められないくせに、「他人の老い」には目敏く反応するようになっている。…
…ただボーっとして時を過ごしているだけの老人を見て「退屈しないのかな?」と思うのは、年をとっていない人間だけで、当の老人は違う時間軸で生きているので、退屈するどころか、ボーっとしているのを中断してなにかをしなくちゃいけないことが、面倒臭くて億劫なのです…
のらりくらりなこの文体、良くも悪くも橋本治的で、私、わりと好きです。
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「現代語訳 学問のすすめ」福沢諭吉(岩波現代文庫)
「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」という言葉しか浮かばない人がいるかも。確かに「学問のすすめ」の第一行目にあるけれど、これは福沢の言葉ではないのです。
…「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」という(西洋の)言葉がある。その意味はどうかというと、…という意味である。…
引用なんです。福沢が相手にしているのは明治初期の若き(田舎の)日本人学生。もっと学べというアジテーションを、熱く繰り返し問いかける。適当なところで学問を切り上げるな、日本を背負う気概を持て、明確な時代の転換点でこのような自由主義的価値観、平等で前向きな考え方にさらされた日本の若者はある意味幸福だったと思う。何しろ明治に400万部売れた。これもRead and Dieの一冊。
読みながら、「武田鉄矢」の顔が浮かぶ。朝ドラの悪影響?
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「左翼はなぜ衰退したのか」及川智洋(祥伝社新書、2014/12/10)
日本の近現代史をざっと読みなおす本。簡単にかかれていて、わかりやすい。ジャーナリストの筆者は、日本における左翼的なものの変遷を、個々のことにあまり深入りせず、読者に示している。批判はあるだろうけど、そんなに悪くない本だと思う。21世紀日本の右傾化について、教条的、旧左翼的な人たちが「いつかきた道」という批判をするが、それはどうなのかという筆者の疑問。近現代の思想史・政治史を復習するのにちょうどいい。
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Clive Barker , The Thief of Always, HarperCollins Publishers 1992
前回の読書日記からずいぶん遅れてしまったのは、この本のせい。若い豪州人から「読め」と言われて渡された本だが、ハードカバーの原書はなかなか荷が重くて手が出ない。二週間して「読んだ?」って聞かれたので、くそっと一念発起。読み切りましたよ。ファンタジーでした。後で知ったのだが、クライブ・バーカーはこの分野では結構な有名作家みたいですね。220ページある本だけど、100pを過ぎたあたりからちょっとハマった。閉じ込められたHOOD HOUSEから主人公が脱出し、現実に戻ったら両親が何十年も年老いてしまいっている。「失われた時間」を取り返すために、再度HOOD HOUSEに戻り、巨大な悪と戦う少年の物語(多分


またまたおもしろそうな本ありがとうございます。全国の図書館にあるかどうかどばっと検索してくれるカーリルというサイトがあって、そこで近所の県立、市立、大学図書館など、あっちになければこっちか?と一覧で見せてくれます。そこの自分の「読みたい本リスト」というところに並べてみました。買う本は買うのですが、もう置き場所もなくなったので。https://calil.jp/list
えいごも読むんですね!
読書メーターのほう、時々拝見してましたが、カーリルですか、借りる?
さっき開いたら、いずれのアカウントももっていないので入れない状態。あとでやってみますね
加藤典洋さんの本は面白いと思います。このひともう一つ新書の分厚い奴、たしか「戦後入門」かな、読みたいけど、まだ手がでず
えいごは…とても時間がかかります
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