「このミス2017」1位、一応読んでおこうかな。盗んだ重火器で武装した4人組による連続銀行強盗事件。90年代にスウェーデンで実際に起こった事件を元に、3人兄弟とその友人の絆と確執を描いたかなり重厚な作品。暴力を巡る父と家族の物語でもある。目立つトリックもドンデン返しもなく、高揚から破滅にむかってひた走る兄弟たちの話なのに、最後まで一気読みしてしまう。ちょっとせつない。
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「進化しすぎた脳」(講談社ブルーバックス)
AIと同じ電気信号をやりとりしているはずなのに、その作業をする脳の中のシナプスは仕事をしたりしなかったり。脳はいつも揺らいでいて曖昧でアバウト。だがその曖昧さこそ「脳」の真髄でもある。全てを記憶する能力はあるのに、脳はあえてそんなことはしない。水頭症で健常者の10%程の脳しかない人が、実は大学の数学科で首席をとるほどの学生だったりする。一体なぜ?
著者の池谷裕二さんは脳科学者で東大教授。中高生との対話形式で、脳の不思議をわかりやすく解説してくれる。ちょっと古い本だし、コアな理系本だが、文系脳でも発見があちこちにあって十分楽しめる。
余談の中で、二重振り子や三体問題などが紹介されたけど、これは昔の教科書(50年位前)にありましたっけ。
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「旅をする木」星野道夫(文春文庫)
読めばきっとアラスカに行きたくなる。真っ白な平原や氷河を前に立ちつくす自分を想像する。そこで少し暮らしてみたいとさえ。だけど、どうなんだろう。時間の感覚、自然との共生の感覚、食べたり、寝たり、移動したり、基本的な生活の概念が180度違うんだろうなと思う。多分、幸福というものの感じ方も。若いころに読んでたらKOされてたかも。
誠実で行動的ででも優しくけれんみのない文章を書く星野さんの作品は、たくさんの人に支持されている。あらためて事故のことを想う。
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「夏目漱石」十川信介(岩波新書)
漱石の評伝。幾つかの小説と修善寺の喀血のことくらいしかしらなかったが、あらためてその人生を読んでみる。鏡子夫人の視点が興味深い。主要な作品はすべてとりあげられているが、読んでいない小説のところは流し読み。研究者にはものたりないだろうが、普通の読者にはちょうどいいサイズと内容。ちなみに夏目鏡子の「漱石の思い出」は文春文庫ででている。結構厚いけど。
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「沈黙」遠藤周作(新潮文庫)
はるか昔に読んだはずだが、スコセッシの映画に備えて再読。イエズス会の神父が自身への拷問、信者への拷問を経て、最後に棄教する話。モデルの一人フェレイラは、のちに江戸に移され、50年の長い余生を送る。殉教者と棄教者の対比を通して、信仰の意味を問う。
イエスの磔の際の言葉、「エリ・エリ・サバタクニ(主よ、主よ何故私をお見捨てになったのですか)が作品の底に響いているよう。凄い本である。
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「下級武士の食日記 増補版」青木直己(ちくま文庫)
万延元年の日記だから、そんなに古くはない。1860年、井伊直弼が暗殺された年。和歌山の下級侍が江戸藩邸勤務を命ぜられ単身赴任。蕎麦、ドジョウ、鮨、天ぷら、刺身、餅、当時の江戸の食生活が詳しく描かれる。原文が少しついていて、著者の解説がユーモラス。江戸という当時世界最大の消費都市は、さすが食も豊か、生活も多岐多様。滅びゆく武士階級の哀愁もちょっとあって、しらず共感を覚える点も。貨幣比較も面白い。
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「本当に偉いのか」小谷野敦(新潮新書)
なんとなくパラパラしたくなる小谷野さんの本。あまのじゃく偉人伝という副題とおり、明治以降の偉人たちをぶった切っている。けなされてる人は、福沢諭吉、夏目漱石、坂本竜馬、吉田松陰、柳田國男、中島敦、その他もろもろ。ちょっと褒められてる人、伊藤博文、田山花袋、野口英世、石原慎太郎その他。一つずつがごく短いので立ち読みでも十分。
相変わらずどれも面白そう!
チーズさんの紹介図書は、毎度楽しみにしています。
今日、脳波を検知してドローンを飛ばすところを見学しました。スティックじゃなくて、手を動かそうと思っただけでドローンが飛んだり動いたり。もうほとんど超能力を見ているようでした。先端技術なのかと思ったら、そんなパーツが売られていると知ってまた驚愕。
yoneyamaさんの好みの本じゃなくてすみません
脳波とドローンの話、びっくりです。
実は「進化しすぎた脳」の中でも同じような話がありました。サルがジョイスティックを動かしロボットアームを操作する実験があって、その時のサルの脳の働きを電極を刺して記録。そのデータをアームに直接つなぐとサルが「考えた」だけで、アームを動かせるようになる、という(多分)有名な実験が紹介されていました。やがて義手とかALSの患者さんに脳チップを埋め込むようになっていくという池谷さんの予想が2004年時点で書かれていたけど…もうそこまで進歩していたんですね。
池谷さんは、ここから一歩進んでヒト(に限らず幾つかの動物)の「意思」の問題に踏み込んでいます。
「…アームを動かそうという神経の働きは、それこそがすなわち「意思」の原型だよね。…<意思>という実体のなかったものが、はじめてこうやって目に見える形になったわけ。電気信号という形で脳から取り出された<意思>が、まさにここにデータとして存在している、身体の外側にね・・・」
意思や意識と脳の関係、今どこまで明らかになっているのでしょう。
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